ユーザが手元でカスタム命令を追加できるPLD内蔵コンフィギャラブル・プロセッサが登場 ――第7回 組込みシステム開発技術展(ESEC)
2004年7月7~9日,組み込みシステム開発に関する展示会「第7回 組込みシステム開発技術展(ESEC)」が,東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催された(写真1).ユーザが手元でカスタム命令を追加できるコンフィギャラブル・プロセッサや,2画面の同時出力に対応したグラフィックスLSIなどのデモンストレーションが行われた.
●コンフィギャラブル・プロセッサ採用の敷居が下がった
米国Stretch社は,プログラマブル論理(PLD)の回路ブロックを内蔵するマイクロコントローラ「S5000ファミリ」のデモンストレーションを行った(写真2).本マイクロコントローラは,ユーザが手元でカスタム命令を追加できる一種のコンフィギャラブル・プロセッサである.米国Tensilica社の「Xtensa」のアーキテクチャがベースとなっている.ユーザはC言語でカスタム命令を定義する.このカスタム命令に相当する処理は,上述のプログラマブル論理の部分に実装される.
今回のデモンストレーションでは,720p(1280×720ピクセル),60フレーム/sのHDTV(高精細度テレビ)の映像信号を,リアルタイムに480×270ピクセル,60フレーム/sの映像信号に変換した.60回,および24回のMAC演算をそれぞれ一つのカスタム命令に置き換えて,垂直・水平方向のポリフェーズ・フィルタ処理などを実行した.動作周波数は300MHz.処理性能は最大2.85億MAC/s(1MAC/sは,1秒間に1回のMAC演算)になった.なお,Stretch社は,今月(2004年7月),日本法人を設立した.
一方,コンフィギャラブル・プロセッサの本家であるTensilica社は,C/C++記述からカスタム命令を備えたコンフィギャラブル・プロセッサを自動生成するプロセッサ合成ツール「XPRES Compiler」のデモンストレーションを行った(写真3).C/C++ソース・コードを入力すると,プロセッサのコンフィグレーションの候補を複数出力する.また,各候補の性能と回路規模の関係をグラフ表示する(この段階では,まだ論理合成を実施していない.実行サイクル数は正確だが,回路規模は概算値になる).従来,コンフィギャラブル・プロセッサの開発では,こうした性能と回路規模のトレードオフの評価に1ヵ月程度かかっていた.本ツールを利用することで,この期間を大幅に短縮できるという.
●2画面に異なる映像を出力できるグラフィックスLSIをデモ
松下電機産業 半導体社は,異なる2画面の映像を同時に出力できるグラフィックスLSI「GRiTT-2(MN67762)」のデモンストレーションを行った(写真4).1画面を出力する場合の解像度は最大1,024×768ピクセル,2画面を出力する場合は最大512×384ピクセル.アナログとディジタルの両方の出力ポートを備えている.例えば,運転席と後部座席に別々の映像を出力するカー・ナビゲーション機器などの用途を想定しているという.
●4ビット・マイコンに歩数計ファームウェアを搭載して提供
セイコーエプソンは,歩数計ファームウェアを内蔵した4ビット・マイコン「S1C63158F34A」を展示した(写真5).2軸の加速度センサやアプリケーション・ソフトウェアを実行するマイクロプロセッサと組み合わせて利用する.ファームウェアはオムロン ヘルスケアが開発した.2004年9月に発売を開始する予定.
●ナムコがPCM音源IPコアを外販
ゲーム・メーカのナムコは,PCM音源IPコア「C352IP」のデモンストレーションを行った(写真6).2004年内に出荷を開始する予定.本IPコアは,自社で開発し,同社の業務用ゲーム基板に搭載していたPCM音源IC「C352」の設計をVHDL化したものである.同時発音数は最大32.8ビット・リニアPCM(pulse code modulation),11ビット相当のADPCM(adaptive differential pulse code modulation)に対応する(フォーマットは独自.Windowsベースの変換ツールを用意).波形メモリは最大128Mビット.出力はフロントL,フロントR,リアL,リアRの4チャネル.回路規模は約3万ゲート+64KビットRAM.米国Altera社の「Cyclone」,「Stratix」,米国Xilinx社の「Spartan-II」,「Spartan-IIE」といったFPGAで動作させた実績があるという.
●Intel社の新しい組み込みCPUに対応したメイン・ボード
米国RadiSys社は,本展示会に合わせて産業用CPUボードの新製品を発表した.同社は,主に米国Intel社のマイクロプロセッサを搭載したCPUボードやネットワーク・ボードを出荷しているメーカである(写真7).
新製品の一つは,Intel社のマイクロプロセッサ「Pentium M 745(開発コード・ネームDothan)」を搭載した産業用CPUボード「LS855」である(写真8).Pentium M 745の最大動作周波数は1.8GHzで,2Mバイトの2次キャッシュ・メモリを内蔵している.製造プロセスは90nm.本プロセッサは2004年6月に発表されたばかりだが,RadiSys社はこのプロセッサに対応するCPUボードをいち早く発表した.「当社はICA(Intel Communications Alliance)のプレミアム・メンバであり,Intel社の新技術や新製品について,かなり早期の段階から情報やテスト・チップの供給を受けている.LS855のボード自体は2003年7月に発表し,従来のPentium Mプロセッサをサポートしていたが,実は本ボードの開発当初からDothanに対応することを考えて設計した」(Peter氏).
Pentium M 745はアプリケーションによって電圧と周波数を切り替える機能(Enhanced Intel SpeedStep)を備えているため,消費電力を抑えやすい.また,LS855は二つの独立したビデオ出力インターフェースを備えている.ボードの形状は,9.6インチ×9.6インチのMicroATXに準拠している.例えば,計測器や医療用電子機器,ATM(自動現金預け払い機),ゲーム機などに組み込む用途を想定している.
今回,同社は,PICMG(PCI Industrial Computer Manufacturers Group)が策定した通信装置向けの規格「AdvancedTCA(Telecom Computing Architecture)」に対応したサーバ・モジュール「ATCA-1000」も合わせて発表した(写真9).AdvancedTCAでは,ブレード・サーバのボードや筐体の仕様が定められている.高速なインターフェースを実現するため,PCI ExpressやFibre Channel,InfiniBand,Ethernetなどの伝送規格に対応する.
ATCA-1000は,現在のところ,PCIとGビットEthernetに対応している.CPUは,動作周波数が450MHz~933MHzのPentium III PrPMCを搭載する.2004年第3四半期に出荷を開始する予定.
●H.264規格対応のストリーム・データ解析ツール
ニコンシステムのブースでは,H.264規格対応のストリーム・データ解析ツール「NH264B1」のデモンストレーションが行われた(写真10).本ツールは,H.264規格のベースライン・プロファイルに対応している.ベースライン・プロファイルは,イントラ予測,エントロピー符号化(CAVLC:Context-based Adaptive Variable Length Coding),サブマクロ・ブロック分割,複数参照画像,デブロッキング・フィルタなどの圧縮技術で構成される.
デモンストレーションでは,JVT(Joint Video Team;H.264の標準化グループ)のH.264ビデオ・ストリーム・データを利用して解析を行った.例えば,H.264のデータ形式であるNAL(Network Abstraction Layer;ネットワーク抽象化層)単位で表示したり,ピクチャ(フレーム)ごとにデコードした画像やフレーム内予測を施した画像,デブロッキング・フィルタを施す前の画像などをチェックしていた.本ツールは,主にH.264に対応したデコーダやエンコーダの開発者向けであり,こうした細かいパラメータを見ながら出力を確認したいという要望が強いという.
本ツールはすでに出荷を開始している.2004年9月には,H.264のメイン・プロファイルに対応した「NH264M1」も発売されるという.
●「イベントで人気」,運転している気分になれるラジコン・カー
サンリツ オートメイションは,無線LAN(IEEE802.11b)を利用して,搭載したカメラの映像を操縦者に送るラジコン・カー「IPロボ天才くん」のデモンストレーションを行った.ユーザは,パソコンにUSB経由で接続したステアリング・コントローラを使って,ラジコン・カーを操縦する.パソコンはラジコン・カーにステアリングなどの操縦情報を送信し,ラジコン・カーはそれに従って走行する.ラジコン・カーは,搭載したカメラで撮影した映像データと車速などの情報をパソコンに送信する.受信した映像が,パソコンのモニタにほぼリアルタイムに表示されるので,操縦者はあたかもラジコン・カーに乗り込んで運転している気分を味わえるという(写真11).
実際には,ラジコン・カーで撮影したビデオ・データをパソコンのモニタに表示する際に若干の時間がかかっているが,画像を拡大するなどの処理により,あたかもリアルタイムに表示しているかのように見せている.
主に,イベント会場などで利用されることが多いという.
●携帯電話や車載オーディオ機器向けのテスト治具を展示
日本ノーベル(アドバンスト・クオリティ事業部)は,携帯電話や車載オーディオ機器,カー・ナビゲーション機器などの製品テストを行う装置「Quarity Commander」を展示した(写真12).テスト対象となる機器のボタンを押すためのレリーズを備えている.また,画面をカメラで撮影してパソコンに取り込み,あらかじめ蓄積してあった画像と一致しているかどうかをチェックする.出力音を記録するためのマイクや,音を出すためのスピーカも備えている.