会場に実車を持ち込んでLabVIEWによるシステム開発をアピール ―― NIWeek2007

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2007年8月 8日

 計測・制御システムのアプリケーション開発ツール「LabVIEW」のベンダである米国National Instruments社は,同社の製品と技術,応用事例をアピールするイベント「NIWeek 2007」を開催した(写真1).会期は2007年8月5日~9日,会場は米国テキサス州AustinのAustin Convention Centerである.NIWeekはセミナや技術講演会,展示会などで構成されており,例年,2000名を越える技術者が参加する大きなイベントである.今年の参加者(参加登録者)は,8月6日午後4時時点で2,301名となっていた.

 NIWeekのメイン・イベントである技術講演会は8月7日~9日に開催される.その前日である8月6日夕方には,展示会がひと足早く始まった.LabVIEW関連の製品群や応用事例,計測・制御用ツールなどが展示された.出展社数は104.

 会場で目立っていたのは,自動車の実物を持ち込んだデモンストレーションである.クルマが3台,オートバイが1台,展示されていた.本レポートでは,こうした自動車の展示に絞って概要を紹介する.

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[写真1] NIWeek 2007の案内表示
米国テキサス州AustinのAustin Convention Centerにて2007年8月6日撮影.

●前後左右の障害物接近を運転者に警告

 最初に紹介するのは,乗用車の前後左右に接近する障害物を運転者に警告するシステムである.自動車部品の大手ベンダである米国Visteon社が開発した.試作したシステムを本田技研工業の乗用車「アコード」に組み込んで展示会場に持ち込んだ(写真2).会場では,障害物検知システムを実際に動かして見せていた.運転席のヘッドレストにスピーカが埋め込まれており,障害物を検知するとスピーカが警告音を発する.同時に,前後左右のどこに障害物が存在するかをダッシュ・ボードのディスプレイに表示する.また,ドア・ミラーでは運転者が確認できないブラインド・スポットに,障害物が接近したことも検知できる.

 試作したシステムの開発には,National Instruments社のリアルタイム制御ソフトウェア開発ツール「LabVIEW Real-Time Module」と,FPGA開発ツール「LabVIEW FPGA Module」を使用した.ハードウェアとしては,PXIボード・コンピュータの「PXI-1031DC」を組み込んである.

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(a) 乗用車の外観

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(b) 試作したシステムのハードウェア

[写真2] 障害物検知システムを実装した乗用車(Visteon社の展示)
ベース車はホンダの「アコード」.試作したシステムのハードウェアは,後部座席とトランクの間に,コンパクトに収納されている.完成度の高さをうかがわせた.

●ディーゼルと燃料電池のハイブリッド車を展示

 次に,ディーゼル・エンジンと電気モータの両方で動くハイブリッド車を紹介する.米国University of Tulsaが開発し,試作車を展示した(写真3).ベース車両は米国General Motors(GM)社のSUV(Sport Utility Vehicle)車である.ボンネットにはディーゼル・エンジンが収まっている.ベース車両のガソリン・エンジンを取り外し,GM社製のディーゼル・エンジンに交換した.リアのトランクには,燃料電池とニッケル水素(NiH)2次電池(出力電圧は288V)を収納した.燃料電池で発電し,ニッケル水素電池を充電する仕組みである.

 試作したハイブリッド車は,始動時および低速走行時には電気モータで動く.高速運転時は,ディーゼル・エンジンで走行する.電気モータとディーゼル・エンジンの両方で駆動することもできる.

 面白いのは駆動輪で,ディーゼル・エンジンと電気モータで完全に独立なところ.ディーゼルはフロント・タイヤ2本を駆動し,モータはリア・タイヤ2本を駆動する.それぞれの駆動力の配分はNational Instruments社のボード(CompactRIO)で制御している.「駆動力の配分を間違うとスリップするのでは?」と尋ねたところ,「その通り,スリップする.でも適切に駆動力を配分しているので大丈夫」という頼もしい(?)答えが開発者から返ってきた.ただし制御アルゴリズムの変更時には,予想外の事態が起こりうる.運転席には,赤色の緊急停止ボタンが取り付けられていた.

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(a) ベース車はGM社のSUV車

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(b) リア・トランクの内部

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(c) 全体を制御するCompactRIOボード(入出力を再構成可能なボード)

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(d) 制御システムのネットワーク・アーキテクチャ

[写真3] ディーゼル・エンジンと電気モータの両方で動くハイブリッド車(University of Tulsaの展示)
(b)のリア・トランク内部の奥に見える円筒が燃料電池用の水素タンク.その手前側に燃料電池とニッケル水素2次電池が収納されている.(c)のCompactRIOボードは,後部座席の下に置かれている.制御システムには,(d)のようにCANバスの高速タイプ(HSCAN)が4本使われている.

●サスペンションを動的に制御

 三つ目は,サスペンションを動的に制御する事例である.カナダのUniversity of Waterlooが試作車両を展示した(写真4).University of Waterlooは,FPGAベースの電子制御ユニット(ECU)開発プラットホームを構築するプロジェクトを進めており,その一環として試作車両を開発した.

 ベース車両はドイツVolkswagen社の「Jetta」である.リア・トランクと後部座席にサスペンションの制御ユニットと駆動機構を搭載した.サスペンションは空気圧によって動的に制御する.コーナリングの状況や路面の状況などに応じてサスペンションの設定条件をリアルタイムに変更する.制御ボードの開発には,National Instruments社の「LabVIEW Real-Time Module」と「LabVIEW FPGA Module」を使用した.

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(a) ベース車はVolkswagen社の「Jetta」

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(b) リア・トランクの内部

[写真4] サスペンションを動的に制御(University of Waterlooの展示)
(b)のリア・トランク内部の手前右に見える黒い円筒が圧縮空気タンク.ここからサスペンション駆動用の空気圧を供給する.

●エレクトロニクス搭載のコンセプト・バイク

 最後に紹介するのは,オートバイのコンセプト・モデルである.米国Intel社が,組み込み製品を提供し始めてから30周年を記念して試作した(写真5).「Intel Chopper」と呼んでいる.

 このオートバイには,エレクトロニクス技術をふんだんに搭載した.まず,鍵がない.指紋認証によってエンジンを始動する.またバック・ミラーがなく,後方監視用カメラの映像をハンドル中央のディスプレイに表示する.さらに,GPSシステムを内蔵する.エレクトロニクス全体を制御するのは,Intel社のプロセッサ「Low Power Core Duo」を内蔵する堅ろう型モバイル・パソコン「SwitchBack-PC」である.

 ただし残念ながら,National Instruments社の製品はこのバイクには使われていないという.同社のスポークス・パーソンによると,NIWeekの開催を記念してIntelが出品したものだという.

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(a) まごうかたなきチョッパである

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(b) サドル部分

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(c) ハンドル部分

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(d) リア・タイヤの車軸右側部分

[写真5] オートバイのコンセプト・モデル「Intel Chopper」(Intel社の展示)
(b)のサドル部分には「組み込み30周年記念」を意味する文字が英文で記してある.(c)の右ハンドルに付いた四角い銀色の箱が指紋センサ.中央が堅ろう型モバイル・パソコン「SwitchBack-PC」.(d)のリア・タイヤの車軸右側部分に後方監視用の小型カメラを装着している.


ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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