プリンタ用ミドルウェアやGPSチップなどに注目が集まる ―― ET West 2007
2007年6月6日~7日,マイドームおおさか(大阪市中央区)にて組み込みシステム技術の展示会「Embedded Technology West 2007」が開催された(写真1).
会場では,USBインターフェース経由でプリンタにデータを転送し,印刷するためのミドルウェアや,屋内で測位できる高感度GPSチップ,カメラ付き携帯電話で対象物までの距離するためのソフトウェアなどの展示が注目を集めた.
[写真1] Embedded Technology West 2007の会場入り口付近
2007年6月6日~7日,マイドームおおさかで開催された.出展社数は115社,来場者数は4,823名.
●USB経由でプリンタにデータを転送・印刷するソフトウェアを展示
グレープシステムは,USBインターフェース経由でセイコーエプソンのプリンタに任意のデータを転送し,印刷するためのミドルウェア「GR-USB/EPSONプリンタ」を展示した(写真2).
GR-USBシリーズは,複数のリアルタイムOSに対応したUSBプロトコル・スタックである.これまで,USB2.0ホスト機能を実現する「GR-USB/HOSTⅡ」とクラス・ドライバ「Printer Class Driver」を提供していた.今回,セイコーエプソンから提供された77機種ぶんの「EPSONプリンタドライバ・コア・モジュール」と,グレープシステムが新たに用意した「EPSONプリンタドライバI/F」を追加することで,任意のデータを転送・印刷できるようになる.同社では,医療機器や測定機,電子黒板などにおける利用を見込んでいる.
[写真2] ミドルウェア「GR-USB/EPSONプリンタ」を搭載したボード
●PCI Expressのデータ転送速度を3倍にするIPコアを展示
沖情報システムズは,米国Xilinx社のFPGAに組み込むPCI Express用IPコアと組み合わせて使うDMAコントローラ「iDAMAC Solution」を展示した.既存のDMAコントローラの約3倍の速度でパソコンのメイン・メモリにアクセスできる.
メイン・メモリには,PCI Express用IPコアを実装したFPGAだけがアクセスするわけではない.つまり,FPGAのデータは,メイン・メモリのあちらこちらの番地に書き込まれることになる.「iDAMAC Solution」は,ローカル・メモリを使ってメイン・メモリの番地を4Kバイト単位に管理する.これにより,FPGAからはあたかも連続空間を扱っているかのようにメイン・メモリにアクセスできるようになるという.
例えば,FPGA搭載ボードからハイビジョン画像の1フレームを連続してパソコン上のメイン・メモリに書き込む場合,既存のDMAコントローラでは58Mバイト/sの転送速度であったのに対し,「iDAMAC Solution」を使えば155Mバイト/sでアクセスできたという.
FPGAはSpartan-3ファミリに対応する.また,Virtex-5ファミリ向けのIPコアを現在開発中.提供形態はネットリストまたはHDLソースである.
[写真3] DMAコントローラ「iDAMAC Solution」と既存のDMAコントローラの性能を比較した
●屋内で測位が可能なGPSチップを展示
コアは,第3世代携帯電話向けに,-165dBmという高い感度を持つGPS用LSIの試作チップ(ES:engineering sample)を展示した.従来のGPS用LSIでは測位できなかった屋内での位置測定が可能となる.
現在,検証用ボードに,本試作チップとARMコア内蔵のマイコンを実装し,調整を図っているという.2007年秋には10mm角のICパッケージに実装した2次試作チップを評価する予定.なお,本ICはマゼランシステムズジャパンのGPSアルゴリズムを採用している.
本ICの動作モードは3種類.すなわち,屋内において,アシスト・サーバからの位置リファレンス・データと衛星からの電波を利用して測位を行う「Indoor Mode」,屋外においてアシスト・サーバと衛星を利用して測位を行う「OpenSky Mode」,屋外において衛星からのデータだけを利用する「Autonomous Mode」である.必要とする電波の強度はそれぞれ,-160dBm~-165dBm,-144dBm,-144dBm.測定の精度はそれぞれ±80m,±5m,±10m.測定時間は18s(秒)以下,5s以下,6s以下である.
携帯電話におけるGPSサービスについては,総務省が「2007年4月以降,携帯電話事業者が新規に提供する第3世代携帯電話端末については,原則としてGPS測位方式による位置情報通知機能に対応する」ことを決定している.
[写真4] 開発中のGPSチップをPRするボード
●さまざまなプラットホーム上で動作するGUIライブラリを展示
富士通は,さまざまなプラットホーム上で動作するGUI(graphical user interface)ライブラリ「Insprium UI ライブラリ V1.0」を展示した.本ライブラリは,オープン・ソースのGUI開発ツールである「WideStudio/MWT」によって開発されたランタイム・ライブラリをベースとしている.
「Insprium UI ライブラリ V1.0」には,単純なボタンから複雑なGUI部品まで,多数の部品が含まれる.使用しない部品を取り外して必要最小限のサイズにすることも可能.プログラミング言語はC++に対応する.Windows,Linux,ITRONなどの異なる環境ごとに最適化されたバイナリを用意する.
統合開発環境のEclipseにおいて,同社がオープン・ソースのプロジェクトとして運営している「NAB IDE」を利用できる.本開発環境はVisual Basicに似た操作感でGUIを扱える.
[写真5] 統合開発環境「NAB IDE」
●カメラ付き携帯電話で対象物までの距離を測れるソフトウェアを展示
東芝ソリューションは,携帯電話のアプリケーションの一つとして,「3D計測システム」を展示した.カメラ付き携帯電話を使い,対象物に対して等間隔の距離を空けて撮影した5点の画像を取り込むことで,対象物までの距離を測定できる.三点測量の原理を用いている.
同社では,ゴルフ場におけるピンまでの距離の測定や,数メートル先の対象物の寸法計測に向くとする.
[写真6] 「3D計測システム」を利用して対象物までの距離を測定した携帯電話の画面
●ゲームや動画の再生に対応したGUI
アヴネット ジャパンは,米国Xilinx社のFPGAに組み込まれたハード・マクロのCPUコア「PowerPC405」上で動作するGUI環境「Qt」のデモンストレーションを行った.Xilinx社のFPGAであるVirtex-4 FXを搭載したボードを利用し,この上でLinuxと本GUI環境を動作させた.
デモンストレーション(写真7)では,外部のパソコンからEthernet経由で入力される動画の再生を行いつつ,テトリスなどのゲームを動作させた.
[写真7] GUI環境「Qt」のデモンストレーション
ゲームや動画を同時に処理し,表示している.
●画像や音声の圧縮・伸張ミドルウェア
イノテックは,画像や音声の圧縮・伸張を行うミドルウェア「IMPress DICOM」を展示した(写真8).医療機器などで必要とされる多ビットの画像処理に対応する.対応フォーマットは,JPEG,JPEG2000,ランレングス圧縮(RLE)など.さらに,データ・ストリーミング機能やダイレクト・スケーリング機能,カラー・コンバージョン機能などを備える.
CPUは,x86やPowerPC,ARM,MIPS,SPARC,SHに,OSはWindows (WindowsCEを含む),Linux,VxWorks,ITRONに対応する.
[写真8] 圧縮・伸張ミドルウェア「IMPress DICOM」のデモンストレーション