デンセイ・ラムダなどがディジタル制御による電源システムを展示 ――TECHNO-FRONTIER WEEK 2005
2005年4月20日~22日,日本コンベンションセンター(幕張メッセ,千葉県千葉市)にて,電源システムやノイズ対策技術などに関する複合展示会「TECHNO-FRONTIER 2005」が開催された(写真1).本展示会では,ディジタル制御を利用した電源システムなどのデモンストレーションが行われた.例えば,デンセイ・ラムダや沖パワーテック,日本テキサス・インスツルメンツなどが関連製品の展示を行った.
●DSPによる電源制御の普及を見据えたデモンストレーション
デンセイ・ラムダは,同社と電気通信大学の共同研究の成果であるディジタル制御によるDC-DCコンバータのデモンストレーションを行った(写真2).DC-DCコンバータには,入力電圧から目的の出力電圧を得るために,電圧のモニタリングと制御を行うフィードバック・ループが存在する.従来型のいわゆるアナログ電源では,その制御部分にOPアンプを用いていた.一方,ディジタル電源では,OPアンプの替わりにDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)を用いてフィードバック・ループの処理を行う.ディジタル・データによって制御されているので,例えば電源を設計する際にDC-DCコンバータをパソコンに接続して状態を監視したり,出力電圧や過電圧保護(OVP),過電流保護(OCP),過温度保護(OTP)などの設定値を容易に変更できる.アナログ電源で出力電圧を変更しようとすると,計測器などを見ながら可変抵抗の値を調整する必要があった.
ただし,精度(線形性)の面については,ディジタル電源にはまだ課題が多い.PWM(pulse width modulation)には時間刻みがあるため,アナログ電源のように出力電圧を細かく制御できない.同社のDC-DCコンバータの場合,ディジタル化したときの値をアナログ値に近づけるため,PCP制御という方法を独自開発した.これは,DSP内部のPWMのパルス幅の分解能をより細く設定するためのアルゴリズムである.例えば,サンプリング周波数が300kHz,入力電圧が48Vの回路において,PCP制御を用いない場合のPWMの分解能は90mV,PCP制御を用いた場合の分解能は1.5mVになるという.
同社の説明員によると,欧米などではIT(information technology)関連や通信関連のシステムにおいて,すでにディジタル電源が採用されているが,日本での採用状況はほぼゼロに等しいという.今後,欧米と同様の分野での需要を期待するとともに,新しい応用分野も模索していきたいという.
また,沖パワーテックはディジタル・モータ・インバータ「ODAM-LF2401A」のデモンストレーションを行った(写真3).米国Texas Instruments社のDSP「TMS320LF2401A」を2個搭載しており,それぞれ力率改善とインバータ制御の処理を担当している.本DSPは,16ビット固定小数点DSPコア(C24x)のほか,10ビットA-DコンバータやPWM出力,汎用タイマなどを内蔵している.動作周波数は40MHz.
一方,日本テキサス・インスツルメンツは,同社のDSP「TMS320LF2407」を搭載したディジタル電源開発キット「TMDSDSPS2000」を展示した(写真4).本開発キットはすでに発売されている.また,2005年3月に同社はディジタル電源向けのDSP「TMS320F2801,「TMS320F2806」,「TMS320F2808」も発表している.これらのDSPは動作周波数が100MHzで,12ビットA-Dコンバータや32ビット・タイマなどを備えている.2005年第4四半期から出荷を開始する予定.同社の説明員によると,ディジタル電源について興味を持っている顧客は少なくないが,現段階ではまだ具体的な応用機器が見えていない状況だという.
●低電圧駆動のLSIに適した分散電源供給用DC-DCコンバータ
LSIの低電圧化に伴って,プリント基板のパターン抵抗や寄生インダクタンスによる電圧降下が無視できなくなってきた.また,動作モードの切り替えなど,LSIの消費電流が急増したときの瞬間的な電源電圧の降下(ディップ)やその後の電圧のふらつき(寄生振動)が大きいと,誤動作が生じる可能性もある.こうした問題に対処するため,DC-DCコンバータをその負荷(LSI,FPGA,DSPなど)のすぐ近くに配置するPOL(point of load)電源が用いられている.
例えば,本展示会でベルニクスが展示したPOL電源システム向けのDC-DCコンバータ「BSV-m series」の場合,入力電圧が3.3Vのときの電圧リプルは30/70mVp-pと低く,応答時間も160nsと高速である(写真5).このため,従来必要とされていた外付けの大容量デカップリング・コンデンサは不要となる.
従来のBSV-m seriesでは出力電流は7Aにしか対応していなかったが,今回は3A(型番BSV-3.3S3ROM),6A(型番BSV-3.3S6ROM),8A(型番BSV-3.3S8ROM)の3品種を用意した.変換効率はBSV-3.3S3ROMとBSV-3.3S8ROMが95%,BSV-3.3S6ROMは93%である(いずれも標準値).入力電圧範囲は3.0~5.5V,定格出力は3.3V.外形寸法は15mm×24mm.厚みは4.2mmと薄く,表面実装が可能である.3品種ともWEEE/RoHS規制(有害物質使用規制)に対応している.サンプル出荷は2005年5月中に開始する.量産出荷の開始時期は同年7月の予定.
●メタノール燃料電池に利用できる超音波音速センサ・モジュール
村田製作所は,外形寸法が25mm×12mm×8.5mmと小さい超音波音速センサ・モジュールを展示した(写真6).例えば,携帯機器向けのメタノール燃料電池に利用できるという.燃料電池では,メタノールの濃度が下がると燃料を注入する必要がある.注入する燃料が多すぎるとクロスオーバの問題が生じるため,濃度の測定が重要になる.このほか,油の粘度の測定,液体中の糖度や塩分の検出などにも本センサ・モジュールを利用できる.トランスデューサ(振動子)の素材には圧電セラミックスを用いている.
本センサ・モジュールでは,送信端(トランスデューサの一方の端)から受信端(トランスデューサのもう一方の端)へ音波が伝搬する際の時間を測定して,音速を求めている.現在,プラント(工場)などで使用されているトランスデューサの送受信端の間隔は数cmだが,同社が開発したトランスデューサでは5mmと短い.振動体と超音波吸収体の音響インピーダンスを整合することで,幅を狭くしても精度を保つことができたという.例えば,水やメタノールなど,音波を通しやすい液体では相対誤差が0.01%程度.
本センサ・モジュールは,トランスデューサと信号処理回路を搭載している.モジュールの動作電圧は5Vで,音波の伝搬の時間差に比例した電圧が出力される.すでに開発は終了している.今後は顧客へ提供し,評価を進める.製品化の時期は未定.
●基板などの上部を磁界プローブで走査する近傍磁界測定装置
日立ディスプレイデバイシズは,プリント基板やLSIなどの表面の近傍磁界強度を測定し,その分布をパソコン上にグラフィックス表示する装置「EMI TESTER EMV-200」のデモンストレーションを行った(写真7).本装置では,可動テーブルを利用して,測定対象上部の表面近くを磁界プローブに走査させる.例えば,最大300mm×300mmのプリント基板表面(x-y平面)の磁界を1mm間隔で測定していく.磁界プローブの高さ(z方向)を変更しながら走査させることも可能である.これまで,測定対象の下部に磁界プローブを配置して近傍電磁界を走査・測定する装置は存在したが,上部を走査しながら測定できる装置は珍しいという.
本装置の位置再現誤差は±0.05mm(磁界プローブを回転させた場合,回転方向の誤差は±1°).測定結果の表示方法については,x-y座標の磁界強度を色分けして示す2次元表示と,x-y-z座標の磁界強度を表示する3次元表示の機能がある.また,特定の周波数の磁界強度分布だけを表示する機能も備えている.磁界プローブには小径ループ・アンテナを用いている.
●熱流体解析ツールのポスト処理機能や不連続メッシュなどを強化
フルーエント・アジアパシフィックは,電子機器向け熱流体解析ツール「icepak」の新バージョンの機能を紹介した(写真8).2005年第2四半期の出荷を予定しているバージョン4.2では,解析結果のグラフィカル表示(ポスト処理)を高速化する.また,薄板要素を並列処理できるようにしたり,モデル作成時に使用する不連続メッシュの機能を強化する予定.さらに,ディスク装置などの熱解析を想定して,回転速度などを指定できる回転体の簡易モデルを用意する.
icepakは,電子機器の筐体やプリント基板,LSIパッケージを対象とする熱流体解析ツールである.流体解析には有限体積法(FVM:finite volume method)を利用している.対応するOSはWindows 2000/XP,SGI IRIX,HP-UX,Solaris,AIX,Red Hat Linux.
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