IBMとCharteredのファウンドリ協業,LSI設計の領域に踏み込む ――製造プロセスに加えて回路ライブラリも共通化

組み込みネット編集部

tag: 半導体

インタビュー 2004年4月30日

 米国IBM社とシンガポールChartered Semiconductor Manufacturing社は,システムLSI向けの90nm CMOSロジック・プロセス(製造方法,製造装置など)を共通化することを,2003年9月に表明している.システムLSIの開発全体に占める設計コストやマスク・コストの割合は急激に高くなっている.両社のプロセス技術を共通化することで,ユーザ企業(ファブレスの半導体メーカや設計会社,機器メーカなど)が両社の間でファブ(LSIの製造工場や製造ライン)を移行する際に要するコストや手間を大幅に低減できるという.

 ただし,現実問題として,プロセス技術だけを共通化しても,設計データをそのまま流用することはできない.そこで両社は,回路ライブラリまで踏み込んで共通化すること(クロス・ファウンドリ設計支援プログラム)を2004年3月に発表した.具体的には,ライブラリ・ベンダである米国Artisan Components社と米国Virage Logic社の回路ライブラリをサポートしていく.

 ここでは,今回の提携内容の詳細について,米国IBM Microelectronics社,Associate Director,Foundry MarketingのWalter F. Lange氏,Chartered社,Vice President Worldwide Marketing & ServicesのKevin Meyer氏,Artisan社,Vice President,MarketingのNeal Carney氏に聞いた(写真1)

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[写真1] ファウンドリ2社とライブラリ・ベンダが協業
左からArtisan Components社,Vice President,MarketingのNeal Carney氏,IBM Microelectronics社,Associate Director,Foundry MarketingのWalter F. Lange氏,Chartered Semiconductor Manufacturing社,Vice President Worldwide Marketing & ServicesのKevin Meyer氏.

――2003年9月の発表(IBM社とCharterd社の90nmプロセスの共通化)と比べて,今回の発表はどのような点が新しいのですか?

Lange氏(IBM社) 今回の発表の目玉は"common enablement platform"の提供です.プロセス技術が共通になっただけでは,なにもできません.設計ツールがあり,ライブラリがあって初めて,顧客は2社のファブにシームレスに設計を流せるようになるのです

Carney氏(Artisan社) これまで,ライブラリとファブは1対1の関係にありました.今回の発表がユニークなのは,一つのライブラリが複数のファブに対応するようになった点です

――IBM社やChartered社の顧客にとっての利点を教えてください.

Meyer氏(Chartered社) 顧客がかりに90nmのLSIの製造をA社に委託し,途中で生産能力が足らなくなった場合,別のファブであるB社に製造を移すことになります.そのとき,ライブラリや設計ルールをあらためて設定しなければならず,レイアウトの再設計が必要になります.ファブごとにSPICEモデルが異なるので,タイミング解析をやり直さなければなりません.また,メモリのビット・セルの構造などもファブによって異なるので,細かい調整が必要です.このような作業には膨大なコストがかかります.

 ファウンドリの中には,顧客を囲い込むという意味で独自のセルを使っているところもあるようです.われわれはオープン,つまり設計データをほかのファブへ移行できるようにしていく方針です.

――片方のファブ(例えばIBM社)向けにマスクを作れば,もう1社(Chartered社)のファブでもそのまま使えるのでしょうか?

Meyer氏 それはできません.SPICEモデルを統一しているので設計データは共通化できます.しかし,物理的なマスクはまったく同じではありません.これは,たとえリソグラフィ装置が同一であってもバージョンが異なっていたり,OPC(optical proximity correction;光近接効果補正)の方式が異なっている場合があるためです.クリティカルな(例えばタイミング・マージンの少ない)動作を行うLSIのマスクについては,タイミングを再チェックする必要があります.

Carney氏 もし,プロセスやライブラリが共通化されていなければ,ディジタルLSIの場合はおそらく論理合成の段階まで戻らなければならないケースもあるでしょう.比較的シンプルなディジタルLSIでは,設計工数の40~50%がやり直しになります.

――LSIのテスト工程やパッケージングの工程は共通化しないのですか?

Meyer氏 現在,注力しているのはプロセス技術と設計支援の体制の共通化です.後工程(パッケージング)については,Chartered社もIBM社もそれぞれパートナ企業のネットワークを持っています.顧客の要求もそれぞれ異なります.特に共通化することは考えていません.ただし,顧客から「共通化してほしい」と言われたら,検討することになるでしょう.

――IBM社はさまざまなプロセス技術を持っていますが,Chartered社と共通化するのはどのプロセスですか?

Lange氏 IBM社はCMOSロジック,CMOSアナログ,CMOS RF(高周波アナログ),SiGe BiCMOSなどがあります.また,それぞれについて配線層の種類もいろいろあります.両社の間で共通化するのは,このうちのCMOSロジック・プロセスだけです.もう一つ,SOI(silicon on insulator)プロセスについても,顧客の要求があればChartered社でラインを立ち上げて,製造していきます.

――IBM社とChartered社が同じ顧客を取り合うことにはなりませんか?

Lange氏 顧客から見ると,IBM社とChartered社のファウンドリ事業は市場で競合しているように見えます.市場競争は,顧客にとっては良いことでしょう.ただ,今回は両社が協力してやっていくという側面を強調したいと思います.製造と設計を共通化することにより,ファウンドリ事業の市場そのものが広がると期待しています.

――LSI製品の品質保証の基準も2社の間で共通化するのですか?

Meyer氏 プロセスに関する品質は2社で責任を持ちます.実は,Charteredのファブ(Fab 7)の最初の顧客はIBM社です.そのため,製品の品質についてもIBM社の要求にこたえることになります.

Lange氏 ビジネス上は,Chartered社はChartered社のプロセスの歩留まりに責任を持ち,IBM社はIBM社のプロセスの歩留まりに責任を持つということになります.しかし,顧客の中には2社にまたがってチップを供給してほしいというところもあるでしょう.その場合は両社で協議することになります.

――製造と設計の境界にある問題として"Design for Manufacturability(製造容易化設計)"というキーワードが注目されています.これについて,なにか対応される予定はありますか?

Meyer氏 われわれChartered社がIBM社との提携に踏み切った理由の一つは,IBM社が垂直統合型メーカ(製品企画から設計,製造,販売までを行う半導体メーカ)としてLSIを開発する能力があるためです.すなわち,IBM社にはシステム・レベルまで考慮してLSIを開発する力があります.設計フローや製造プロセスを構築する際に,製造容易性に配慮しています.さらに,今回はIPベンダやEDAベンダなどの設計関連のサード・パーティとも協力していきます.

Carney氏 スタンダード・セルやメモリのレイアウト・パターンを設計するとき,Design for Manufacturabilityを考慮した設計ルールのガイドラインについて,IBM社,Chartered社と協議しました.例えば,メモリのビット・セルについて,どこまで攻めの設計を行ってもだいじょうぶなのかなどを把握するために歩留まりを解析し,その結果を今回の回路ライブラリに反映させました.

――65nmプロセスの開発でも同じように協業されるようですが...

Lange氏 今年(2004年)3月の初めに,IBM社,Chartered社に,ドイツのInfineon Technologies社,韓国のSamsung Electronics社を加えた4社で65nmのプロセス技術を共同開発すると発表しました.Infineon社には低消費電力化技術で,Samsung社には家電機器向けLSIのノウハウで貢献してもらえると考えています.


参考URL
 Artisan Components社のホームページ
 Chartered Semiconductor Manufactureing社のホームページ
 IBM Microelectronics社のホームページ

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