モータ制御用マイコンやマルチコア内蔵マイコンが脚光を浴びる ――electronicaUSA with Embedded Systems Conference

組み込みネット編集部

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レポート 2004年4月 6日

 2004年3月29日~4月1日,米国カリフォルニア州San FranciscoのMoscone Centerにて,組み込みシステムの設計・開発に関する展示会/セミナ「electronicaUSA with the Embedded Systems Conference」が開催された(写真1).アナログ周辺回路を内蔵したモータ制御用マイクロコントローラの新製品が多数展示された.半導体メーカは,チップを提供するだけでなく,開発TAT(turn around time)を短縮するためのモータ制御システムの開発環境もいっしょに提供している.このほか,複数のプロセッサ・コアを内蔵するマイクロコントローラのデモンストレーションも目立っていた.

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[写真1] Moscone Center
米国カリフォルニア州San FranciscoのMoscone Center South Hallにて,「electronicaUSA with the Embedded Systems Conference 2004」が開催された.

●マイコンにモータ制御の開発環境を付けて各社が出荷

 米国Analog Devices社は,展示会場で,サンプル性能が1Mサンプル/sのA-Dコンバータを内蔵したマイクロコントローラ「ADuC702x」ファミリのデモンストレーションを行った.本マイクロコントローラは,32ビットのARM7TDMIコアを内蔵している.従来の品種は,8ビットの8052コアを搭載していた.

 「データ・コンバータのターゲットとなる産業用機器や通信系のインフラ装置において,性能の向上が求められていた.そこで,当社は従来の8ビットCPUコアに代えて,32ビットRISC CPUであるARM7コアを採用することで,顧客の要求に応えた.他社からもデータ・コンバータを内蔵したマイクロコントローラが出荷されているが,ADuC702xはA-D/D-Aコンバータの分解能が12ビット,基準電源のドリフトが10ppm/℃とアナログ性能が高いのが特徴」(同社Product Marketing Manager,MicroConverterのDonal Killackey氏).

 本ファミリとして,内蔵するA-D/D-AコンバータやPWMのチャネル数の異なる14品種を用意する.本マイクロコントローラの消費電流は,動作時が1mA/MHz,待機時が約50μA.

 本展示会では,ADuC702xファミリのうち,「ADuC7020」と「ADuC7024」のデモンストレーションが行われた(写真2,3).ADuC7020は,5チャネルの12ビットA-Dコンバータと4チャネルの12ビットD-Aコンバータを内蔵している.本マイクロコントローラを用いて,直流(DC)モータのPID制御(比例,積分,微分を組み合わせた自動制御方式)のデモンストレーションを行った.一方,ADuC7024は10チャネルの12ビットA-Dコンバータ,2チャネルの12ビットD-Aコンバータ,16ビットの三相PWM(pulse width modulation)などを備えている.本マイクロコントローラについては,抵抗値を変えてLEDのON/OFFを制御するデモンストレーションを行った.

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[写真2] ADuC7020のデモンストレーション
直流モータのPID制御のデモンストレーション.位置調整(写真下のつまみの調整)に応じて直流モータが回転する.フィードバック制御を行っているので,つまみを回し過ぎても自動的に適切な位置に戻る.

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(a) ADuC7024を用いたデモンストレーションのようす

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(b) 評価ボードの拡大写真

[写真3] ADuC7024のデモンストレーション
(b)の"Demo Circuit"内の抵抗R1を調整することで,LED(D1)がON/OFFする.(b)の左上のチップ(64ピンQFP)がADuC7024.(a)のパソコンの左側にあるのは,ドイツのKeil Software社のJTAGエミュレータ「ULINK」.同エミュレータおよび評価ボードなどが開発環境としてユーザに提供されている.

 一方,STMicroelectronics社は,主に三相誘導モータや永久磁石ブラシレス・モータの制御を目的とした8ビット・マイクロコントローラ「ST7MC」のデモンストレーションを行った(写真4).デモンストレーションでは,本マイクロコントローラ用の開発キット「ST7MC-KIT/BLDC」を用いて,24Vブラシレス・モータの制御プログラムを作成していた.開発ソフトウェアのGUIを利用して,制御対象のモータ(三相交流誘導モータ,ブラシレス直流モータ)に必要なパラメータを設定すると,自動的にCコードを生成する.

 プログラム・メモリとして,フラッシュ・メモリを内蔵している.メモリ容量(8K/16K/24K/32K/48K/60Kバイト)や10ビットA-Dコンバータのチャネル数などの異なる10品種を用意する.サンプル出荷はすでに開始している.量産出荷は,2004年第3四半期の初めごろから開始する予定.

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(a) デモンストレーションの構成


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(b) 開発ソフトウェアのGUIの画面例


[写真4] ST7MCのデモンストレーション
このデモンストレーションは,同マイコンの開発キット「ST7MC-KIT/BLDC」を用いて行われた.(a)の左が評価ボード,右下がデバッグ/プログラミング・ボード,右上が24Vブラシレス・モータ.なお,(b)は三相交流(AC)誘導モータのためのGUI画面である.

 このほか,米国NEC Electronics America社は同社のV850E1コアを採用したマイクロコントローラ「V850E/IA4」のデモンストレーションを行った(写真5).本マイクロコントローラは,2003年9月に開催されたEmbedded Systems Conference Boston 2003で発表されており,ハイエンド(例えば電気自動車など)のインバータ・モータの制御に用いられる.動作周波数は最大64MHzで,二つの独立したA-Dコンバータを備えている.

 これとは別に,同社は32ビットRISCマイクロコントローラ「V850ES/IK1」と8ビットCISCマイクロコントローラ「uPD78F0714」も発表した.動作周波数は,V850ES/IK1が32MHz,uPD78F0714が20MHzである.両製品ともインバータ・エアコンやドライヤなどのインバータ・モータ制御を想定している.850ES/IK1はV850E/IA4の廉価版と位置付けられる.PWMタイマなど,モータ制御に必要な基本機能は同じだが,A-Dコンバータはいずれも一つしか内蔵していない.サンプル出荷は,850ES/IK1が2004年5月から,uPD78F0714が同年6月から開始する予定.

 また,同社のV850マイコン向けに,米国Green Hills Software社のソフトウェア開発環境「MULTI」と,米国MathWorks社のシステム・モデリング・ツール/シミュレータ「Simulink」,「Stateflow」,Cコード生成ツール「Real-Time Workshop」を統合した開発環境が両社から提供される(写真6).従来,ソフトウェア開発環境とシステム・モデリング・ツールが連動していなかったため,デバッグ時に不ぐあいが見つかっても,不ぐあいの修正を上位モデルに反映させることが難しかったという.これらのツールを統合させることで,SimulinkのモデルとMULTIのCコードを同時に実行して,ブロック・レベルで検証できるようになった.

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[写真5] V850E/IA4のデモンストレーション
モータの速度や電流値などのデータを取り込み,その波形をディスプレイに表示させる,というデモンストレーション.

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[写真6] MULTIとSimulinkを統合したV850向けソフトウェア開発環境
Simulinkのモデル(左上)のある箇所を選択すると(緑の四角で示した箇所),これに関連したCコードがMULTI上に示される(右下,赤色の行).

●マルチコア搭載のMIPSプロセッサを展示

 米国PMC-Sierra社は,二つの64ビットMIPSコアを搭載したマイクロプロセッサ「RM9224」のデモンストレーションを行った(写真7,8).本マイクロプロセッサの命令セットはMIPS64と互換性がある.CPUコアは同社が開発した「E9000」であり,動作周波数は1GHz.各CPUコアともに256Kバイトの2次キャッシュを内蔵している.

 本マイクロプロセッサには,500MHzのHyperTransport(または32ビット,33MHz/66MHz PCI),DDR SDRAMコントローラ,3チャネルのGビットEthernet MAC(media access control)などの機能が集積されている.

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[写真7] RM9224のデモンストレーション
2チャネルのGビットEthernetポートを用いて送受信を行うというデモンストレーション.

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[写真8] RM9224のデモンストレーション用ボード

 米国Texas Instruments社は,同社のアプリケーション・プロセッサ「OMAP5912」のデモンストレーションを行った(写真9).従来の「OMAP5910」の動作周波数が150MHzであったのに対して,OMAP5912は192MHzになっている.入出力インターフェースとして,新たにUSB On-The-Go(OTG)に対応している.また,2チャネルのCMOSカメラ・インターフェースや暗号回路(DES,3DES,乱数発生器など),10Base-T(Ethernet),USB1.1インターフェースなどを備えている.ARM926EJ-SコアとTMS320C55xコアを内蔵している.

 このほか,OMAP5910を搭載した米国Hewlett-Packard社のプロジェクタ「mp3130」を展示していた(写真10).本アプリケーション・プロセッサのほかに,Texas Instruments社が開発したDPL(Digital Light Processing)技術を採用している.解像度はXGA(1024×768),コントラスト比は2000:1.

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[写真9] OMAP5912の評価ボード
デモンストレーションではMP3オーディオ・デコードを行った.本プロセッサ内のTMS320C55xコアがMP3デコードを行い,ARM926EJ-Sコアがデータ管理を行っている.ARM926EJ-S上では,Linux OSが動いている.写真の評価ボードも開発環境としてユーザに提供している.

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[写真10] Hewlett-Packard社のプロジェクタ「mp3130」
Texas Instruments社のOMAP5910を搭載.加えて,同社のプロジェクタ用ディスプレイ技術であるDLPを採用している.

●CPUコアを内蔵したFPGAの開発環境

 オーストラリアのAltium社は,FPGAと組み込みソフトウェアを開発するための統合環境「Nexar」のデモンストレーションを行った(写真11).本開発環境は,「NanoBoard」と呼ばれる評価ボードとソフトウェア(コンパイラ,アセンブラ,デバッガ,シミュレータなど),各種IPコア,ディジタル回路ライブラリ(レジスタ,マルチプレクサなど)で構成される.

 NanoBoardは,液晶ディスプレイやキーパッド,コネクタなどが取り付けられているメイン・ボードと,FPGAを実装したサブボードからなる.現在,サブボードとして提供されているFPGAは,米国Altera社のCyclonと米国Xilinx社のSpartan-IIEのみ.今後は,Altera社のMAX-IIやXilinx社のSpartan-3,そのほかのFPGAベンダのファミリにも対応していくという.

 また,同社は3種類の8ビットCPUのIPコア(8051,Z80,PIC165x)を無償で提供する.一つのFPGAの内部にこれらのCPUコアを複数実装することもできる.ただし,いっしょにAltera社のソフト・マクロ「Nios」やXilinx社の「MicroBlase」を組み込むことはできない.CPUコアについては,将来的には組み込み機器で多く用いらている32ビット品にも対応する予定.このほか,CANバス,RS-232-C,VGAなどのIPコアも無償で提供する.

 さらに,同社のプリント基板設計ツール「Protel」を利用することで,基板設計とFPGA設計を連携して実施することが可能である.例えば,プリント基板設計の際にFPGAのピン割り当てを変更すると,自動的にFPGAの設計データに変更が反映される.Protelについては,別途ライセンスを購入する必要がある.

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[写真11] NanoBoard
右側がAltera社のCyclon(EP1C12Q240C7)を,左側がXilinx社のSpartan-IIE(XC2S300E)を実装したサブボード.Cyclonではストップ・ウォッチのデモンストレーションを,Spartan-IIEではLCD表示とブザーのON/OFF制御のデモンストレーションを見せていた.

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