ベンチャ・キャピタリストの視点(2) ――大学発ベンチャ

佐藤 亘 

tag: 組み込み 半導体 実装

コラム 2004年4月30日

 筆者がベンチャ・キャピタル業界に身を転じてから5年間,多少の波はあったものの,日本のベンチャ・ビジネスを巡る環境はほぼ一貫して良くなってきているように思います.転職した当時は,筆者が日々接する企業のうちで「ベンチャ企業」と言える会社は少なく,多くは業歴の長い「中小企業」でした.現在は,その割合が完全に逆転したと思います.その間,国や自治体でも,さまざまなベンチャ育成策が実施されてきました.今回は,国を挙げての振興策が打たれた結果,最近,数多く生まれている「大学発ベンチャ」について取り上げます.

●大学発ベンチャが500社を超える

 大学の役割の一つである「事業化・実用化に時間のかかる基礎研究」は,今後もさらに重要になると思います.その一方で,世の中の変化とともに,大学に求められる役割も変わってきています.1990年代中ごろから,低迷する経済を浮上させるための手段として,科学技術の源泉である大学に注目が集まりました.また,「産学連携」や「大学発ベンチャ育成」といったことが盛んに叫ばれるようになりました.

 世間の関心が高まる中,1998年には「大学等技術移転促進法」が成立し,2001年5月には「大学発ベンチャ企業を3年間で1,000社誕生させる」という経済産業省の「平沼プラン」が実行に移されました.これらに後押しされる形で,多くの大学がベンチャ企業を生み出すための施設としくみを整え,積極的に活動しています.その結果,「何社誕生させる」と数値目標を掲げる大学や,「社数のシェアを日本一にする」という大学まで登場しています.今,大学発ベンチャは500社を超え,まさに百花繚乱の状態です.

 国や大学が,あえて目標を「設立会社数」にしたのは,「とにかくベンチャ企業を作ろう.そこからノウハウを学んでいけばよい.まずはベンチャ企業を作ってみないと何も始まらない」ということなのでしょう.その結果,ねらいどおり,短期間で500社を超える大学発ベンチャが誕生しました.そのおかげで,関係者が貴重な起業,および起業支援のノウハウを習得しつつあります.また,学生たちが「起業」を間近で見る効果は大きく,さらなる起業の増加や,起業家に敬意を払う文化の醸成につながっているようです.こうした目に見えない「無形の財産」は,今まさに形成され始めたところです.

●無形の財産をいかに「蓄積」し,「反映」させていくか意

 そして,大学発ベンチャの課題は,このような無形の財産をいかに「蓄積」し,「反映」させていくかに移りつつあります.

 上述した無形の財産は,個人に帰属する要素が大きく,個人が移動するとノウハウも移ってしまいます.もともと大学は人材の流動性が高いうえに,担当者は任期制であることが多く,ノウハウの蓄積を図りにくい構造があります.したがって,起業支援担当者は最低でも5 年以上の期間,複数の後継候補者へノウハウを伝授するまで,責任を持って活動する必要があるでしょう.すなわち組織そのものにノウハウを蓄積させるくふうをしなければなりません.

 そして,ノウハウの反映ですが,会社を作ってしまった後ではある程度会社のスタイルが固まってしまうため,ノウハウを反映させにくくなると思います.なるべく会社を作る前の段階から,事業構想のノウハウを提供できるしくみを用意する必要があります.発明者と起業支援担当者がいっしょになって,気軽に事業構想を練る「習慣」を作ることが重要です.

●一過性の流行に終わらせないために...

 大学発ベンチャ振興策のおかげで,関係者のノウハウ蓄積や起業風土の醸成など,目に見えない「無形の財産」が形成されようとしています.この蓄積とともに,大学発ベンチャの「質」も向上していくことでしょう.これらは漢方薬のように,じわじわと効いてくるものです.また,漢方薬は継続服用がたいせつなのですが,目に見える派手な成功例が出ないと,いつのまにか服用を止めてしまう人が多いのも事実でしょう.何をもってベンチャ企業の成功とするかは議論のあるところですが,そう簡単に成功できるものでもありません.少なくとも,各大学の特色や,地域性を重視することによって,周囲の人々の関心を長く引き留め続けるくふうが必要でしょう.

 なにかと暗い話題の多い昨今,大学発ベンチャに対する期待は予想以上に大きいようです.筆者らベンチャ・キャピタル業界も,かなりのリソースを投入して,大学発ベンチャの支援に取り組んでいます.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2003年12月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
佐藤亘(さとうわたる).大学(工学部金属加工学科)卒業後,大手半導体メーカを経て,1999年に日本ベンチャーキャピタル入社.御意見,ご感想はwsato@nvcc.co.jpまでお願いします.

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