NTTグループがFOMAやIP網を利用した次期テレビ電話サービスのデモを公開 ――NTT R&Dフォーラム

組み込みネット編集部

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レポート 2004年2月24日

 2004年2月16日~17日に,NTT武蔵野研究開発センタ(東京都武蔵野市)にて,「NTT R&Dフォーラム」が開催された.NTT関連企業および研究所が開発した製品の展示や研究発表が行われた.展示会場では,光ファイバによる広帯域ネットワーク環境についての研究成果公開した(写真1).主催は,NTTサイバーコミュニケーション総合研究所NTT情報流通基盤総合研究所

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[写真1] 光ファイバ通信を利用したデモンストレーションのようす
展示会場では,光ファイバ通信を利用した製品やサービスのデモンストレーションが行われた.写真は「コミュニティ・コラボレーションシステム」というテレビ会議システムのデモンストレーション.各パソコンの映像データがサーバに集められ,そこから別のパソコンに転送される.今回は4台のパソコンを用いたが,最大10ヵ所の間のテレビ会議に対応できる.画面サイズはQCIF.MPEG-4のソフトウェアCODECによって画像の圧縮・伸張処理を行っている.

●違和感なく話せるテレビ電話

 展示会場では,映像データの配信に関するデモンストレーションが行われていた.それらの多くには,画像の圧縮・伸張規格としてMPEG-2が利用されていた.

 光ネットワークを利用して,高画質の映像や音声を双方向でやりとりできるテレビ電話サービスもその一つである(写真2).本サービスにはパソコンは必要ないが,テレビごとに「ISIL-BOX」と呼ばれるアダプタ(いわゆるセットトップ・ボックス)が必要になる(写真3).まず,ディジタル・ビデオ・カメラで取得した映像を本アダプタによってMPEG-2でエンコード(圧縮)し,IP(internet protocol)を利用してもう一方のISIL-BOXに転送する.受け取った側のISIL-BOXは,モニタに映し出すために,圧縮されたデータをデコード(伸張)する.

 現在のところ,映像データのやり取りの際の伝送遅延は片方向で約250ms.デモンストレーションでは,ほとんど違和感なく,スムーズに会話が行われていた.ただし,実際に製品化するためには,この遅延を双方向で400ms程度にする必要があるという.サービスを提供する際には,伝送速度が最大100MbpsのNTTのインターネット回線「Bフレッツ」を利用することを想定している.事業部からの要求しだいだが,2004年末には製品として市場に出したいという.

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[写真2] 双方向映像通信のデモンストレーション
センタ内の別の場所とテレビ電話のデモンストレーションを行った.このデモンストレーションでは,Ethernet経由で通信を行っている.テレビ端末は本デモンストレーション用に作成した.画面の下にマイクが付いる.

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[写真3] 「ISIL-BOX」の試作品
ISIL-BOXの入出力は,日米の一般的なテレビの映像信号方式であるNTSC(National Television System Committee)に対応している.

●ハイビジョン映像規格1080iに対応したMPEG-2 CODEC LSIを出荷

 「ISIL-BOX」の画像の圧縮・伸張には,NTTサイバースペース研究所が開発したMPEG-2 CODEC用LSI「ISIL」を使用している(写真4).本LSIは,単方向で720/30p(水平方向画素数1280×走査線数720ライン×30フレーム/sの順次走査方式),双方向で480p(720ピクセル×480ライン×60フレーム/sの順次走査方式)および480i(720ピクセル×480ライン×30フレーム/sの飛び越し走査方式)などのHDTV(high definition television)映像規格に対応している.本LSIは,NTTエレクトロニクスがSuperENC III」という製品名で発売しており,すでにHDTVディジタル・ビデオ・カメラなどに採用されている.

 また同社は,これとは別に1080i(1,920ピクセル×1,080ライン×30フレーム/sの順次走査方式)のHDTV映像規格に対応したMPEG-2 CODEC用LSI「VASA」,および本LSIを搭載したエンコーダ・モジュール「SC10KE」も発売している.展示会場では,これらのデモンストレーションが行われていた(写真5).1,280ピクセル×768ライン×30フレーム/sの映像データを1/40に圧縮し,別のモニタ画面に映し出していた.

 本LSIは,外部メモリ・インターフェースとしてDDR SDRAMインターフェースやSDR SDRAMインターフェースを備えている.DDR SDRAMは画像処理用メモリとして用いられ,バス幅が32ビット,動作周波数が200MHzの256MビットDDR SDRAMを2個,あるいはバス幅が32ビット(または16ビット),動作周波数が200MHzの128MビットDDR SDRAMを4個接続できる.SDR SDRAMは制御ファームウェアの格納用である.バス幅が16ビット,動作周波数が100MHzで,128Mビットまたは256MビットのSDR SDRAMを一つ接続できる.本LSIは,すでに地上ディジタル放送対応テレビなどに搭載されている.

 なお,ISIL,VASAともに,CPUコアとして米国Tensilica社の「Xtensa」を採用している.

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[写真4] MPEG-2 CODEC用LSI「ISIL」と「VASA」
上がVASA.パッケージは1,008ピンFCBGA.下はISIL.外形寸法はVASAの約1/4である. 

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[写真5] MPEG-2エンコーダ・モジュール「SC10KE」
画像処理用に4個の128MビットDDR SDRAMを搭載している.

●5地点間を最大3Mbpsで通信できるMPEG-2 CODECソフトウェア

 一方,MPEG-2 CODEC処理を実行するソフトウェア「RISCA」のデモンストレーションも行われた(写真6).本ソフトウェアを用いると,インターネット上で最大5地点まで同時に通信できる.MPEG-2 CODEC処理,IPパケット送受信などの機能を備えている.1対1の場合,VGAの画像を30フレーム/s,最大8Mbpsの速度で伝送可能.多地点間の伝送では,QVGAの画像を30フレーム/s,最大3Mbpsでやり取りできる(写真7).本ソフトウェアをインストールするパソコンとして,CPUはPentium 4またはCeleron(2.53GHz以上),メイン・メモリは256Mバイト,ハード・ディスクの空き容量は50Mバイト,OSはWindows 2000/XPが必要になる(いずれも推奨仕様).

 2003年9月からNTT-BB(エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドイニシアティブ)が,サービスの一つ(WarpVision)として本ソフトウェアを提供している.推奨されている接続回線はBフレッツ.

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[写真6] RISCAの構成
RISCAによる処理の概略を示す.

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[写真7] RISCAを用いたデモンストレーションのようす
デモンストレーションでは,3地点間の同時接続を行った.

●FOMAとパソコンの間でテレビ電話を実現

 展示会では,「モバイル固定連携システム」のデモンストレーションが行われた(写真8).モバイル固定連携システムとは,FOMAとパソコンの間でテレビ電話で通話できる環境のことである.本システムにおけるソフトウェアやサーバなどは,NTTNTTドコモが開発した.

 NTTは,FOMAに対応したインスタント・メッセンジャ用サーバを開発した.インスタント・メッセンジャとは, インターネット上で同一のソフトウェアを利用している人がオンラインかどうかを調べ,オンラインの場合にはチャットやファイル転送などを行うことができるアプリケーションのことである.本サーバでは,FOMAからパソコンに電話をかけたとき,通信相手やネットワークの状態,利用可能なサービスなどの情報を把握して,管理や通知を行う機能を備えている.

 パソコンと通信可能な状態になると,NTTドコモが開発した変換機を介して通話が行われる.この変換機によって,IP網とFOMA網の間の通信を実現できる.例えば,IP網で用いるH.323プロトコル(テレビ電話などに用いられる音声/映像方式を定めたプロトコル)とFOMAの3GPP 3G-324Mプロトコルを変換する.また,IP網では画像,音声にそれぞれH.263とG.711を利用しているが,FOMAではMPEG-4とGSM-AMRを用いている.これらの規格の変換もこの変換機が行う.

 パソコンにはNTTが開発したソフトウェア「AMUS」をインストールする必要がある.本ソフトウェアは,パソコン間あるいはパソコンとFOMAの間でテレビ電話やメールの送受信を行うためのブラウザなどを含んでいる.

 この「モバイル固定連携システム」の課金方法や販売形態などはまだ決まっておらず,サービスの開始時期は未定.

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[写真8] モバイル固定連携システムのデモンストレーション
FOMAとパソコンの間でテレビ電話による通話を行える.

●光ファイバ網のサーバ-クライアント・プロトコル規格に準拠した映像機器

 このほか,展示会場では,NTT研究所とパイオニアが共同開発した「光ビジュアルプレイヤー」が展示された(写真9).本プレーヤは,光ファイバを介してインターネットに接続し,映像データや音楽データをダウンロードしてテレビ・モニタなどに再生する装置である.NTT研究所が製品仕様を決定し,試作品の製作はパイオニアが担当した.デモンストレーションでは,サーバと本プレーヤを直接Ethernetで接続し,テレビ・モニタに映像を表示した.

 なお,本プレーヤはHSAC(HIKARI Service Architecture Consortium)規格に準拠している.HSACは,光ファイバを介したインターネット・サーバとクライアントの間の接続に関する共通プロトコルの策定を目指す業界団体である.本コンソーシアムには,NTTやその関連子会社のほか,沖電気工業,ケンウッド,ソニー,日本アイ・ビー・エム,フジテレビジョン,マイクロソフトなど,約80社が参加している.

 本プレーヤの商品化の時期や映像配信サービスの開始時期は未定.画像配信用のIP網の整備やディジタル著作権管理(DRM),コンテンツ作成などの課題があるという.

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[写真9] 「光ビジュアルプレイヤー」のデモンストレーション
NTT研究所が製品仕様を決定し,試作品の製作はパイオニアが担当した.パイオニアもHSACの会員企業である.商品化の時期は未定.

●研究所の成果物を「商品」として世に出すための新会社を設立

 NTTは,上記の製品やサービスを商品化する新会社「エヌ・ティ・ティ レゾナント」を,2003年12月に設立した.同社の主な事業内容は,映像通信サービス,光インターネット基盤の整備,グループ各社および他企業との連携による新事業の開拓などが挙げられる.

 具体的には,「モバイル固定連携システム」の課金システムなどの管理,「光ビジュアルプレイヤー」の画像配信専用のIP網の整備などを行う.

 2004年3月に,ポータル・サイト「goo」を運営するNTT-X(エヌ・ティ・ティ エックス)とNTT-BBの事業を同社へ移管・統合する方針.本格的に事業を開始するのは2004年4月から.

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