拝啓 半導体エンジニアさま(45) ―― 半導体業界にも関係する4K,8Kテレビをめぐる動き

ジョゼフ半月

tag: 組み込み 半導体

コラム 2013年1月29日

 今月(2013年1月)は,アルジェリアで人質テロという大事件が起こってしまいました.亡くなられた方々には,心より哀悼の意を表したいと思います.また同時に,海外進出のリスクに対する認識も新たにせざるをえない事件でした.電子デバイス業界も,進出先の地域性が多少異なるにせよ,海外展開はごく普通のことなので,いつ何時,どのようなリスクにさらされるか分かりません.

 

●円安は好ましいが,根本的な問題が解決したわけではない

 そのような中,経済指標を見てみれば,輸出側の電子デバイス業界にとっては,このところの円安傾向は好ましいかぎりです.当面の収益にはプラス方向のはずで,業界企業の株価も戻ってきています.このところ厳しい環境ばかり続いてきたので,ほっとしている人も多いのではないでしょうか.

 しかし冷静になって考えてみれば,何か画期的な新製品が出てきて将来展開に期待が持てるようになったから状況が好転した,というわけではありません.円安になって為替的に収益が改善しているというだけで,根本的な問題が解決したわけではないと思います.業界の不調の原因のすべてが円高だったわけではないでしょう.以前にも何度か書かせていただいたことですが,構造的な理由から「もうかる新商品が出てこなくなった」ことの方が問題だと思っています.

 米国Apple社を見れば,あんなにもうかっているのに,iPad以降,画期的な新製品が出てこないということで,このところ株価が下がり気味のようです.株価がすべてではありませんが,市場の期待の反映であることは否定できません.円安のみが頼りというのでは,また為替が悪い方向に変動すると元のもくあみどころか,それ以下の状態になってしまうかもしれません.

 

●4Kでないと「納得のいかない」コンテンツの流通が必要

 そのような日本の電子業界が世界の市場で主導権を取り戻そうという動きの一つだと思いますが,4K(水平画素数4,000,垂直画素数2,000前後の画面解像度),そしてその先の8K(水平画素数8,000,垂直画素数4,000前後の画面解像度)について,日本が先行してテレビ放送を始めようというプランについての報道がありました.確かに,このところのテレビ関係の販売落ち込みははなはだしいようで,それに対するテコ入れの案に違いありません.また,日本製テレビの販売落ち込みは,そのまま「日本のシステム・オン・チップ」の不調にも直結していると思われるので,日本の半導体業界にも関係する話です.

 ただし,ついこの間,ディジタル・テレビに買い替えたばかりなのに,すぐに「地上デジタル放送に4K」というのは無理がありすぎます.まずはCS放送から導入,といった話のようです.それにコンテンツが伴わなければ,箱があっても何にもなりません.ともかく先に放送を開始して,コンテンツを蓄積していこう,ということでもあるようです.

 当然,まずフォーマットありきでハードウェア先行の企画に対する懸念が指摘されています.世界の大勢がスマート・テレビ化,端的に言えばiPadやAndroid端末のようになってしまい,ネット配信が主流となる方向へ向かっている中で,単に画面の大きさだけで利用者を引きつけられるのか? といった疑問です.テレビに差し込むだけでそれがスマート・テレビになってしまうスティック状の小型Android機などが出てきている現状を見ていると,「またガラパゴス?」みたいな疑問が出てくるのは当然でしょう.

 いつか来た道で,日本の悪いところはハードウェア主導になりがちなところです.今度,4Kで仕掛けるのであれば,ハードウェアを売ろうとする前に,コンテンツとその流通の仕掛けをよく考えておくべきでしょう(そのようなことは,外野に言われなくても関係者はよく考えているのだろうが...).

 例えば,4Kでないと「納得のいかない」ようなコンテンツ(ハリウッド系の映画は米国にもっていかれてしまうので,やはりここはハイクオリティの日本のアニメか?)を,オープンな配信チャネルで大量に提供するような仕掛けです.コンテンツに制限がないほど,「テレビを買い替えても見たい」という熱狂的なファン(=アーリ・アクセプタ)が出てくるような気がします.ネット配信にしてしまうと,現状でも動画配信で食われつつあるネットワーク帯域にさらなる負荷をかけることになりそうです.しかし,最終的にはテレビだけでなく,ネットワーク・インフラなどの更新をも促すことになり,波及効果があるように想像しています.

 

●受け身の立ち位置では勝負に勝てない

 日本の半導体業界に立ち戻ってその歴史を振り返ると,過去の「仕掛け(規格)」にのったときは,いつも立ち位置が受け身だったような気がします.「これからは○○だ!」と言われて,種々の問題を解決し,機器を作って納めるのですが,その仕掛けそのものが思ったような立ち上がり方をみせず,その場ではもうからない.それで様子見を決めこんでいると,別な方面から仕掛けがようやく日の目をみるのですが,そのときには海外勢にシェアを取られてしまっている.

 今度,4Kで仕掛けるのであれば,そのようなさみしいことにならないように前もって手を打ってから勝負をかけていかないと...,と老婆心ながら思っています.

 

 

ジョゼフ・はんげつ

 

 

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