PCI Expressの仕様書を読むための前準備として一読を ――『PCI Express System Architecture』

野崎原生

tag: 組み込み 半導体

書評 2003年12月 4日

PCI Expressの仕様書を読むための前準備として一読を

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Ravi Budruk, Don Anderson, Tom Shanley 著
Addison Wesley 刊ISBN:0-321-15630-7
18.75×23.4cm
1,056ページ
6,493円(税別,2003年12月1日現在のAmazon.co.jpの価格)
2003年9月(初版第1版)




 今や,ほとんどのコンピュータ機器にPCIバスが使われていると言っても過言ではありません.しかし,さすがに誕生から10年以上も経っているため,最近のシステムやI/Oの高速化に対応できないケースが目立ち始めています.バス幅が64ビット,クロック周波数が66MHzのPCIやPCI-Xといった拡張規格も策定されているのですが,残念ながらサーバなどでしか普及していないのが現状です.

 これに対して,次世代のI/Oバスとして携帯機器からサーバまで広く適用できるように策定されたのがPCI Expressです.

 本書は,米国の技術教育サービス会社であるMindShare社の"PC System Architecture Series"の最新刊です.本シリーズは読みやすさやわかりやすさで定評のあるシリーズです.本書もその例に漏れません.特に,次のような点で有用であると思います.

  • PCI Expressは比較的大きな仕様であり,しかも三つの階層(物理層,リンク層,トランザクション層)に分けられているため,各階層の仕様を読んでいるときに全体を見失いがちである.本書では,最初にPCI Expressの概要について説明し,その後の各部の詳細説明では,関連する項目についてPCI Expressの階層を越えてまとめながら説明している.つまり,まず全体像をつかみ,詳細についてはほかの部分との関連を意識しながら読み進めることができる.

  • PCI Expressはバスそのものだけではなく,それに付随する電力管理(PCI Power Management)や活線挿抜(PCI Hot Plug)なども含めた,PCI関連仕様全体の後継仕様となっている.そのため,PCI Expressの仕様書では随所でこれらの仕様を参照している.本書では,説明を必要とする箇所に過去の関連する仕様がまとめられており,何冊もの仕様書の間を行き来しながら読み進める必要がない.

  • イラストを多用したり,いろいろなケースにおけるパケットの受け渡しを例示している.そのため,仕様書では文字だけで説明されていて1回読んだだけではきちんと理解することが難しいリンクの初期化シーケンスやパケットの再送信,フロー制御といった動作を把握しやすい.

 その一方で,上述した構成の良さの裏返しになるのですが,どこか一部だけを詳細に知りたいという用途では,読みづらいと感じることがあるかもしれません.例えば,リンク層以下はIPコアがあるので,トランザクション層以上だけを知りたいというときは,いくつかの章をまたいで読まなくてはなりません.

 また,いくつか説明の抜けている項目があるので,仕様書の代わりにはならない点も注意が必要です.例えば,スクランブラについてはイラストまで使って説明しているのに,なぜかCRC(cyclic redundancy check)については生成多項式すら示されていません.また当然のことですが,本書の発行後に策定されたPCI ExpressのErrataや仕様変更については反映されていません.それらの情報はPCI-SIGから入手する必要があります.

 以上のように,仕様書の代わりとするには若干難がありますが,PCI Expressの解説本としてはとてもわかりやすいと思います.これからPCI Expressを学ぼうという人は仕様書を読む前にぜひ一読することをお勧めします.

;PCI Expressはシリアル・バスであるため,単に物理的に線をつなげただけでは通信できない.初期化シーケンスによって,リンク(二つのデバイスを通信させるための信号線の集まり)の両端のデバイスが同期した後でないと,通信可能な状態にはならない.


野崎 原生
NEC Electronics America, Inc.

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