発展途上の光MEMS技術をやさしく紹介 ――『光マイクロマシン』
発展途上の光MEMS技術をやさしく紹介
澤田廉士,羽根一博,日暮栄治 著
オーム社 刊
ISBN:4-274-03589-1
21.6×15.5cm
423ページ
7500円(税別)
2002年11月25日(初版第1版)
この本の著者はどのような人なのかということに興味があったので,本編に入る前にまず略歴を読みました.2名がNTTマイクロシステムインテグレーション研究所に勤務されている方で,あと1名は東北大学の教授です.ここで,
「NTT=通信事業者」
という図式から,通信分野に偏っていると思った読者は,みごとに予想を覆されることになります.
光マイクロマシン(MEMS)は,まだ研究段階のものが多く,また,技術の進歩が著しい分野でもあるため,なかなか十分な情報を得ることができません.しかし,本書はこの分野の技術をあまねく紹介しており,光MEMS技術についてうまくまとめてあります.参考文献の発表時期を見ても非常に新しく,時間をかけて書いた古めかしい理論づくめの本ではありません.
さて,本書は3部構成になっています.
第1部では,光通信,ディスプレイから,センサ,記憶装置までさまざまな光MEMSの応用例を,あまり理論的になりすぎることなく紹介しています.同じ原理の光MEMSがまったく異なる分野で適用される例など,興味深い内容が掲載されています.写真や構成図なども多用しており,専門外の読者でもそれほど苦労せずに読むことができるでしょう.第1部で理解しにくい内容も第2部で詳しく説明しているので,あまり深く考えずに読み進めればよいと思います.
第2部は,光学の基盤技術について紹介しています.光学の基礎である反射,屈折,干渉,回折について,その現象をていねいに説明しています.光学系のエンジニアならば当然持っている知識ですが,電気系のエンジニアでも理解ができるようにまとめられています.
第3部は,材料と生産技術についての解説です.光MEMSの根幹となる光学素子や,通常の半導体プロセスとは異なるMEMS特有の製造技術を紹介しています.第1部と同じように,写真や構成図が多く,理解しやすくまとめてあります.
また,各部の終わりにある膨大な参考文献のリストは,技術などをさらに詳しく調べるのに非常に便利です.URLも載せてほしかったのですが,販売期間が長いであろうこのような書籍には難しいことなのかもしれません.
第1部は,もう少し一般人向けに書き下せれば,光MEMSを紹介する一般書としても通用するくらいにわかりやすく解説してあります.ただ,数年もすると技術の進歩によって,この部分は陳腐化するでしょう.これに対して,第2部以降はまさに技術書の領域となっています.例えば,上下2冊に分けて,第1部を定期的に更新すれば,本書は永らく光MEMSの工学書として愛読されると思います.非常に良い本なのですが,値段が高いところだけが少し残念です.
大石克己
日本サイプレス(株)