標準化が身にしみる ――『<標準>の哲学 ―スタンダード・テクノロジーの三〇〇年』
標準化が身にしみる
橋本毅彦 著
講談社 刊
ISBN:406258235X
19×13cm
232ページ
1,500円(税別)
2002年3月
本書はあたかも技術歴史書のごとく,標準の起源や成立プロセスをたどってくれます.
前半は,淡々と武器部品互換性の歴史が述べられています.故障時を想定した武器の部品交換を円滑に行うには,まず閉じた系の中での部品の互換性が必要であったわけです.標準化はその後の話で,関連する工作機械の進歩や技術の流通が必要でした.
部品が非常にベーシックなものである場合は共通化したほうが効率が良い.これは今も変わりませんね.標準化の普及には,W. Taylorの提唱した科学的管理手法に基づく工作機械や作業手順が必須ですが,案の定,現場の抵抗に遭い,なかなか取り入れられなかったあたり,これまた現在でも似たような事例がありそうです.
さて後半.標準化は成長パスと初期の偶然に支配される,という話は進化論に似ておもしろかったところです.メカ・タイプライタのストロークの遅さに合わせて作られたQWERTYキー配列の話は有名すぎて新鮮ではありませんでしたが,経済的理由と,ちょっとした政治によるデファクト(事実上の標準)成立過程の良き(いや悪しきかも知れない)例です.多くの方がここにWindows OSの普及を重ねるかもしれません.
さらに興味を引いたのはトマス・エジソンについて書かれていたくだり.電灯の発明だけでなく,それを使うための電力供給システムまで考えていたとは....ここにも米国恐るべし,のルーツを見た思いです.
ここまでは,いずれの話も具体的なモノ中心でした.その後のインターネット時代の見えないソフトウェアの標準化については,迫力不足.もう少し話題を広げて欲しかったところです.
本書によると,標準化のプロセスはデファクト,デジュール(公的標準)それぞれに二つずつ,合計4種類あると分類しています(表1).利益集団としてデファクトの過程をみずから演出するコンソーシアムや,技術共有先行での標準化委員会(W3Cなど)のデファクトの重要性が今日ほど高まっている時期はないと思われます.
デファクト | デジュール | |
偶然,自然淘汰的 | 公的団体の推奨 | |
戦争(経済戦争も含む)という後押し要因がある場合 |
利害団体主導 | 政府による強制 |
しかし,一方でデジュールの欧州,デファクトの米国という図式もないではありません.例えば,若干ずれはありますが,ソフトウェアにおける英国発のISO9000の適用に対して,科学的計測改善手法を取り入れたCMM(capability maturity model)が米国で生まれ,産業の競争の結果,両者が急速に広まったことは象徴的に思えます.
ひるがえって,わが国の現状をかんがみるに,デジュールの可能性はさておき,経済がグローバル化した現在,わが国発のデファクト確立の難しさが身にしみます.この状況下では,タイミングの良い戦略的アライアンスか,Linuxのようなオープン化された活動に大きな可能性を感じます.
門田 浩
NECエレクトロンデバイス