お部屋探しとシステムLSI(3) ――お彼岸とデューティ比
きょうは大安,お彼岸の入り.彼岸花が咲いている.お彼岸になるとほぼ正確に彼岸花が咲く.咲きかたは,NORMALモードのオシロスコープにトリガがかかったときの掃引のように茎がビューンと一気に伸びて,真紅の花がパッと咲く.花は風に流された花火の残り火のようだ.今年トリガがかかったのは,9月10日ごろ.咲くタイミングはここ数年ぴったり同じだったようだが,今年は1 週間ほど早く咲いたらしい.
彼岸花は「葉見ず花見ず」と言われるように,葉が茂っているときは花が咲かず,花が咲いているときは葉が出ていない.1人2交代制である.おまけに葉っぱは何を考えているのか,冬の間に茂って春には枯れてしまう.光合成のかきいれ時のはずの夏は,球根の状態でグーグー寝ている.ほかの植物との太陽光の取り合いを避けているのか?
ここで疑問.彼岸花は,秋の開花のスタート・タイミングをどのようにして感知するんだろう.夏の間葉を茂らせていないので,日照の長さを測ることができない.1年周期の体内時計を持っていて,冬の間に葉で位相を比較するPLL(phase-locked loop)をもっているのだろうか?(リスト1)
〔リスト1〕1 年周期のVCO(入力1.0 のとき)
entity vco is
port(vin :in real; oscout :out real;);
end vco;
architecture test of vco is
begin
process begin
oscout <= 1.0; wait for time(vin * 365.0/2.0 * 24 hr);
oscout <= 0.0; wait for time(vin * 365.0/2.0 * 24 hr);
end process;
end test;
* * *
日照の時間を感じる植物としては,アサガオが有名である.短日植物と呼ばれている.短日植物とは,一日の日照がある時間以下になると,こりゃたいへんと花を咲かせる植物だ.逆は長日植物で,そういったことを気にしないのは中日植物.アサガオの場合,日照が15時間以下でトリガ条件.日照をクロックと考えると,デューティ比でハイ(H)の期間が62.5%を下回ると開花トリガがかかる.夏の終わりに種が地面に落ちてしまい,秋に発芽してしまった
アサガオは,子葉が出たとたんに開花トリガがかかってしまう.ツルをどこかに巻き付けるひまもなく花を咲かせる.地面から真上に咲いた,10cm程度の背丈の花を最初に見たときは,それがアサガオと気づかなかった.
アサガオは日照のデューティ比を葉で感知している.日照時間が短くなると,フロリゲンという花成ホルモンが葉で作られて,花成刺激信号として全体に伝播するそうである.花成刺激を受けた各細胞内の遺伝子は,自分の部位に応じた花を咲かせるプログラムをスタートすると考えられている.詳しいしくみはまだ研究中らしい.
これを回路で作るとしたら,以下のようになるのだろうか?
夜の間に充電して,太陽が出たら放電する.
充電電圧がある値以上になったら,一定時間パルスを出力する.
パルスを積分して,積分値がある値以上になったら花が咲く.
ごめんなさい.いまいちだ.植物はもっと淘汰を勝ち抜いた堅牢な仕様に基づいて活動しているに違いない.
* * *
植物が日照のデューティ比に敏感なのは,冬が来るから.冬が来るまでに,養分を蓄え,種を作り,春に備える.冬はスリープ・モードでエネルギ消費を節約.このしくみを回路に使えないだろうか?
うーん,「光周性プログラム発現ロジック...」.
導電ポリマにインク・ジェット印刷方式でトランジスタを積層形成するような技術が実現した時代の大規模回路で,各回路ブロックに光導波路でエネルギ兼クロックを供給する.各回路ブロックは光クロックのデューティ比を監視して,スリープ・モードなどの活動の状況を変える.インク・ジェット印刷のしくみで回路を構成するので,液晶やほかの有機物質もいろいろ使えるだろう.次世代の導電ポリマ回路では,ホルモンのような情報伝達のしくみも考えられる.
最終的には,水と二酸化炭素と光で動くコンピュータ.出張のときのカバンが軽くなるのがうれしい.
(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2001年12月号に掲載されました)
◆筆者プロフィール◆
さめしま・まさひろ.高速ディジタル回路のコンサルティングやEDAツール関係のしごとに従事.
tag: SoC