お部屋探しとシステムLSI(2) ――秋の空と音波と電磁界

鮫島 正裕

tag: 半導体

コラム 2002年5月22日

 秋である.見上げると,空が秋の空.なんで秋になると空が高くなるのでしょう? 実家に行って親に聞いてみた.
「なぜ秋の空は高いのですか」
「澄んでるからでしょ」
「雲自体高いところにあると思いますが」
「巻雲(けんうん)は高いわよね,天女の羽衣のようなやつ」

 秋の空が高いのはあたりまえらしい.親はカルビの残りでカレーを作っている.七輪で焼き魚といきたいところだが,今日は台風の影響で晴れと雨の繰り返し.猫も茂みを出たり入ったりしている.

 飛び去る雲の合間の青空を見ていて,空間のインピーダンスは377Ωと教わったことを思い出した.なぜ377Ωなんだっけ? 家に入って昔のノートを見るとZ=(μ001/2と書いてある.正確には,376.73...Ω.ノートを読み進むと,波面によっていろいろな場合分けがしてあった.当時の謎が思い出される.いまだに謎である.特性インピーダンスって,感覚的にはなんとなく"柔らかさ"のような性質と解釈しているが,秋の空のインピーダンスは気分にマッチングしている.とはいっても,1 年中一定値なのではあるが....

*        *        *

 夕方,空を見ていると,出勤中のコウモリが裏山に向かってヘナヘナと飛んでいるのをよく見る.コウモリは20kHz~200kHzの音波の反射を見て(聞いて)飛んだり,虫を捕まえたりしているようである.音波の場合の100kHzの波長は空気中で3.4mm.波長でいえば,電波の100GHzに相当する.

 コウモリには直径1mm~2mmのひももちゃんと見えていて,さっと避けて飛んでいく.放送大学の授業の番組で,コウモリ用に小さいアイ・マスクをこしらえて,飛ばしていたのが印象的だった.耳栓をするとひもに引っ掛かってしまう.昔から気になっていたことだが,人間が建てたのっぺりとした表面を持つものはすべて,コウモリには鏡のように見えているらしい.建物が多いところは遊園地のびっくりハウスのようで,住みにくいのだろうか?

 音波と反射といえば,イルカもおでこから音波を出して,反射を聞いている.一説によると,イルカの脳が大きいのは,眼からの光の画像と,耳(あご)からの反射音の画像を同時に処理して認識しているからだという.その説によると,いっしょに泳いでいる人間は,彼らにはスケルトンに見えているらしい.

 光と音波の同時画像認識.うらやましい.水中の音速は1,500m/sなので,50kHzまで出せるとすると分解能は3cm? 位相や反射時間を認識できていれば,もう少し細かく見えるのだろうか? 超音波顕微鏡は500MHz程度までの音波を使って1,000 倍の倍率と5μmの分解能が得られる.試料とトランスデューサの間に空気があるとリターン・ロスが大きくなるので,水を入れておくそうである.

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 パソコンのボードの動作周波数はちょっと前まで,60MHzが限界などと言われていたが,最近では100MHzを越えている.「なぜ?」という疑問に対する乱暴な回答としては,「扱う信号の波長の1/8より配線が短ければ,反射が起きても問題ない」ということらしい.ICの高集積化がプリント基板の配線を単純化したため,これが可能になったらしい.また,ラムバスのように動作速度の限界に近いところでは,間にグラウンドを入れて,コプレーナ線路にして帰りの電流を流し,磁界を打ち消すというようなこともやっている.

 最近は電磁界解析シミュレータが発達して,ボード上の定在波のぐあいなどを確認できるようになったし,アンテナ・ボードや磁界プローブで,プリント基板上の電磁界の分布を測定できるようになった.ただ,もっと直接的にようすを見ることはできないのだろうか?

 例えば,「電磁界メガネ」.

 比誘電率や損失が低くて,電磁界に高感度で応答する圧電性の液体があったら,それを基板に塗って電磁界をなんとかして音波に変換する.また,非線形的な特性にして周波数を下げる.それをイルカのように別の画像として同時認識できれば,「ここでコモン・モードがノーマル・モードになってるぞ」とか,「あと2dB落としたいのだがどこがツボなんだ」といった作業が楽になること請け合い.

 もしかしたら,ボードの高周波対策の達人にはそんな画像が見えているのだろうか?

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2001年11月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
さめしま・まさひろ.高速ディジタル回路のコンサルティングやEDAツール関係のしごとに従事.

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