企画・開発に行き詰まったときのヒント(3) ――二律背反の技術問題を解決する「分離」の視点

飯田 清人

tag: 組み込み 半導体 実装

コラム 2002年4月15日

 同一システム内において,ある状況では一つの方向性が要求されているのに,別の状況ではそれとは逆の方向性が要求されるようなケースがあります.つまり二律背反の矛盾を内包しているタイプの技術問題です.そういった場合の解決方法として,「分離」の視点でものごとを考えるとうまくいく場合があります.

●「分離」には四つの種類がある

 例えば,パソコンの中のデータについて考えてみましょう.ある場面では公開してだれにでもよく見えるようにしたいという要求がある反面,別の場面では秘密保持のために隠して見えないようにしたいという要求があります.このように,二つの相反する要求が一つのシステムの中に存在する状況で,技術的な問題を解決しなければならない例が多々あります.

 一般には,「このような対立する要求を同時に満足させることは不可能だ」と考えてしまうことが多く,双方の要求を少しずつ犠牲にして,最適化を図ろうと考えてしまいがちです.しかし,問題を突き詰めて考えれば,むしろそのシステムをユニークで優れたものにできる可能性があります.

 こういった二律背反の矛盾を含む技術システムを構築する場合の問題解決の方法として,「分離」の視点があります.読者のみなさんも上述のような状況に遭遇したら,次の四つの視点を検討してみてください.

 まず一つ目は「空間的分離」の視点です.これは異なった場所に移したり,空間上の分離によって問題を解決する方法です.例えば前述のパソコンの例では,データを格納する場所をそれぞれ変えておき,ある部分は許可を受けた人だけが見えるようにして問題の解決を図ります.

 二つ目は「時間的分離」の視点です.これは時間をずらすことによって矛盾を解決しようという方法です.例えば,アダルト画像を子供が起きている時間帯には見えないようにするなど,限定した時間だけデータを見えるように設定する方法がこれに当たります.

 三つ目は「部分と全体の分離」の視点です.これは,システムの構成要素の特性がシステム全体の特性と反対になるようにする方法です.例えば自転車のチェーンは前輪と後輪の歯車を回すために柔軟性が必要です.その一方で,チェーンの伸縮はチェーン外れの原因となります.つまり全体としては柔軟性が求められるものの,同時に硬くなければならないという矛盾があるわけです.

 これを解決するために,自転車のチェーンは多くの硬い小さな部品を動きやすいようにつなぎ合わせており,部分的には硬いが全体としては柔軟性のある構造になっています.これは部分と全体を分離して考えているわけです.

 四つ目は「状況に応じた分離」の視点です.これは相変化をじょうずに利用したり,システムを上位概念から眺め直すことによって矛盾を解決しようという方法です.例えばレコードは,レコード盤の溝を針でなぞることによって音を再生しています.このため,ノイズが出ることは原理的に避けられません.一方,「忠実な再生音は出すが,ノイズは出さない」という要求を解決する方法として,CD(compact disc)が登場しました.これはレコード方式における音の再生の概念を一つ高いレベルから眺め直し,レーザを使用した別の再生方法に変えることでノイズをなくしています.

●パケット通信は空間的分離と時間的分離の組み合わせ

 通信システムでは,情報を確実に相手方に伝えることが求められます.その一方で,情報を部外者に傍受されたくないという相反する要求があります.この要求に合うように,1960年代初めに米国Rand社のポール・バランは「分散通信について」という論文の中で,新しい秘密保持機構を持ったパケット通信システムを提案しました.

 それは,通常の通信のようにデータを連続して送信するのではなく,パケット(小包)という単位に細かく分割した後,それらをバラバラにして送り出し,目的地に着いてからあらためて元の順番に再構成するというものです.これはもともと軍事目的のために開発された通信システムであり,たとえ敵がそのデータを入手しても,そのままでは全体を知ることができません.

 この通信システムは,全体情報を細かく分割するという「空間的分離」と,それらをバラバラにして送り出すという「時間的分離」の両方を併用することによってシステムの「部分と全体の分離」を実現し,前述の矛盾を見事に解決しています.そして,このパケットによる軍事用の分散通信ネットワークの概念が拡張されて,現在のインターネットが構築されたのです.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年9月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
飯田清人(いいだ・きよと).NECにて半導体の研究,開発,生産技術,工場運営などに従事.現在,NECファクトリエンジニアリングのコンサルティング・シニアマネージャとして各社の経営刷新,生産性向上,創造力開発などを指導.東京工科大学工学部講師,工学博士.

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日