シリコンバレー駐在日記(1) ――ビザ取得は難しい

田中 良平

tag: 組み込み 半導体

コラム 2002年1月23日

 みなさん,こんにちは.筆者は,2001年11月より,シリコンバレーに駐在することになりました.海外駐在は生まれて初めてで,日本国内の生活とはまったく異なる文化やしきたりを体験しています.経験することのどれもが未知の世界なので,思ったように事が運びません.

 海外駐在する人は「英会話ができる人」と思われる読者の方,それは大まちがいです.筆者は英会話が苦手です.英語の文面を読むことには多少慣れているのですが,いざ,米国人と英語でコミュニケーションをとろうとすると,まったくだめになってしまいます.それでも米国で仕事をしようというのですから,無謀というか,もの好きというか....

 このコラムでは,企業に所属するエンジニアの実体験をもとに,米国の文化,習慣,ライフスタイルなどを紹介していきます.シリコンバレー駐在の疑似体験をしてみてください.また,シリコンバレー出張の際の参考にしていただければ幸いです.

 米国で仕事をするためには,ビザが必要になります.以前,何も知らない筆者は,ビザは大使館へ申請すれば簡単に手に入るものと思っていました.ある程度時間がかかるとしても2~ 3ヵ月で大丈夫だろうと思い,米国駐在の希望が通ってからはじめの2ヵ月くらいは何もしていない状態でした.

 今回取得しないといけないビザは,「Lビザ」と呼ばれるものです.筆者の会社には,シリコンバレーに拠点を置く子会社があります.そこで,この会社で駐在員として仕事をすることを米国政府移民局へ申請して取得します.

 調べていくうちにわかったのが,Lビザの取得は,けっこう難しいということでした.米国人以外の人が米国で仕事をするということは,米国人が就労できる可能性をつぶすことになります.したがって,移民局は,駐在しようとする人が,米国にとってどれくらい利益を生み出すか,それによって米国人の雇用が拡大するかを判断します.これに対して,投資家など,お金を米国に投資するような人のビザは比較的簡単に取得できるそうです.

 さて,Lビザを申請するにあたり,大学の卒業証明書,成績書,自己PR,経歴書,会社の推薦状などが必要になりました.久しぶりに大学の総務部に連絡してみると,システムはしっかりとできていて,英語版と日本語版の2種類がすぐにとれるようです.手紙で手続きをすると1 週間ほどで成績書が届いたのですが...過去の成績というのは,あまり見たくないものですね.もっと勉強しておけばよかったと,卒業して8年目で反省しました.

 経歴書には自分の特殊技能を示すような内容,自己PRには自分が行くことで米国にいかに利益をもたらすかといった駐在理由を記述します.これらには,ありったけの得意分野を書きました.なにやら就職活動をしているような雰囲気でした.

 移民局へ提出する書類は,当然,英文です.これは専門家,つまり米国の弁護士に頼みました.さすが専門家だけあって,提出した資料をじょうずに意訳してくれていました.これならまちがいなくビザを取得できると思いました.

 この段階で赴任予定まで残り2ヵ月になっていました.移民局への申請から,早ければ3~4週間で認証がもらえると聞いていましたが,筆者の場合は1ヵ月以上たってもなんにも知らせがありません.どうなっているのかを弁護士に確認したところ,手続き制度によるものだということがわかりました.ビザの種類にもよるのですが,特別料金を払うと優先的に手続きしてくれる制度があったのです.そしてこの優先ルートを使用した申請が多い場合は,正規のルートは後回しにされて3~4ヵ月かかることもあるのだそうです.急いで追加料金を払って申請したところ,2週間で認証をもらうことができました.いろいろな制度があるものですね.やはり,ビザの申請は余裕を持った手続きと確かな情報を入手することが必要だと反省しています.

 認証をもらっても,ビザが発行されたわけではありません.ビザの発行を在日米国大使館に申請します.通常は,郵送による審査,面接審査,旅行代理店経由のいずれかの方法を選択できるのですが,ちょうど同時多発テロが起こった時期で,原則として面接審査は禁止,旅行代理店の限られた人に代行してもらうしかないといった状態でした.旅行代理店の代行の場合は,手続きの手数料が別途必要になります.しかし,個人情報と委任状の用紙への記入と,要求される資料を準備するだけで,実際の申請書類の記入や申請に必要な手続きを代行してくれるので,処理としては楽になります.また,代行を依頼するとまた時間がかかると思いましたが,これは意外にも早く,4日ほどでビザがもらえました.

 こうして,当初の赴任予定時期から1ヵ月ほど遅れて,筆者のL1ビザと,同行する家族のL2ビザを取得できました.L2ビザは同行者のためのビザなので,働くことができません.L1ビザの家族なら在日米国大使館で申請して,簡単に取得できます.

 時間もかかりましたが,お金もかかる手続きでした.振り返ってみると,ビザの申請についての活動をはじめてから,ビザを手に入れるまで,約5ヵ月を費やしたことになります.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年2月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
たなか・りょうへい.同志社大学工学部卒,今年で31歳になる好奇心旺盛のエンジニア.シリコンバレーの目新しいところに,足を運んでは新鮮な驚きを体感する日々を送っている.現在は,シリコンバレーにあるDAIHEN Advanced Component社に勤務.FPGAとIP(Intellectual Property)を応用したシステムの開発を行っている.休日は,家族で巨大なショッピング・モールめぐりをし,お昼は数多くあるファースト・フード店で一休み..

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