Mr.M.P.Iのプロセッサ・レビュー ――プロセッサ・コア内蔵のFPGAが普及するための条件

M.P.I

tag: 半導体

コラム 2001年4月21日

 SOC(system on a chip)といった範ちゅうのLSIを開発する場合,汎用マイクロプロセッサとFPGAを組み合わせて試作ボード(プロトタイプ)を作り,事前にハードウェアの動作を検証したり,ソフトウェアのデバッグを行うことがままある.FPGAを書き換え,動作させてみるのは,EDAツール上でのコーディング主体の作業ですむ.しかし,わざわざ新しいボードを起こすとなれば,お金も納期もかかる.そのあたりがネックとなって,FPGAで検証したかったけれど手が回らなかったといったケースもありそうだ.プロセッサ・メーカによってはFPGAを搭載した汎用的に使える開発ボードなどを用意しているところもある.

●人気のプロセッサがFPGAの内部へ

 最近,FPGAにプロセッサ・コアを組み込んだ製品の発表が相次いでいる.8051クラスの8ビットCPUコアや名の知れぬプロセッサをソフトIP(ソフト・マクロ)として搭載するようなことは,以前から行われてきた.これに対して,今後はARM,MIPS,PowerPC,そしてSHといったコアがFPGAに組み込まれるという.実際に出荷されているかどうかは別として,人気どころのプロセッサ・コアが一通り出そろってしまった観がある.もちろん,FPGA上に展開できるソフトIPということではなく,ハードIP(ハード・マクロ)として組み込まれることが多い.これらを使えれば,前述のFPGAを使ったSOCの試作はもちろん,量産のSOCそのものだって実現できてしまいそうだ.

 プロセッサ・コア搭載のFPGAはまだ値段がとても高いので,本当の大量生産には向かないだろう.しかし,世の中のSOC製品の多くはそれほど量が出なかったり,意に反して少量生産で終わったりすることがままあるのだから,いまのままでもSOC設計のかなりの部分がこちらに流れるのではないかと予想できる.

●プロセッサ搭載FPGAの普及に必要な三つの条件

 もちろん,上記のFPGAが普及するには,いくつかの条件を満たす必要がある.

 まず,それなりの性能を確保すること.試作用途に限れば,性能が悪くても使える局面はあるが,量産を意識すれば性能の確保は必須である.試作用途でもリアルタイム性などを重視したアプリケーションでは,量産と同じ速度が必要だろう.もちろんすべてのシステムが最先端のプロセッサ性能を必要としているわけではない.しかし,設計のトレンドというものがあり,何世代も前の性能のプロセッサで新規の設計は考えないものだ.そういう点でハードIPを搭載する最近のFPGAは,まだ1歩性能が足りないような感じがする.しかし,プロセッサ・コアに対してチューニングの努力をそれなりに行っていけば,最先端は無理でも,主力クラスの汎用マイクロプロセッサに十分対抗できそうな雰囲気がある.

 次に,同じアーキテクチャのプロセッサ・コアでも,応用のきく品種を搭載すること.汎用品であるプロセッサの場合,いろいろな要求に答えるためにラインナップを拡充するのが通例だ.FPGAにプロセッサ・コアを搭載するのであれば,そういったカスタマイズに対応しやすいだろう.それよりも,SOCを設計するうえで使いやすい切り口,たとえば使いやすいオンチップ・バスなどを用意したほうがよい.最近はIPコアの流通体制が整備されつつあるので,この問題はとくに重要である.

 そして一番大事なのは,デバッグのための配慮である.SOCというのは,けっこうデバッグがたいへんだ.それもあって汎用マイクロプロセッサとFPGAを搭載する試作ボードが利用されているのだともいえる.なぜかといえば,単体の汎用マイクロプロセッサであれば,プロセッサのバスが表に出ているので,ICEを使ったり,ロジック・アナライザを接続して,昔ながらの正攻法のデバッグを行えるからである.一方,FPGAにプロセッサ・コアが組み込まれた場合,プロセッサ・コア内蔵のオンチップ・デバッグ機能をJTAGなどで細々とつなぐことはできる.しかし,汎用マイクロプロセッサで実現可能なプロセッサ・バスのリアルタイム・トレースなどの機能を軽視してはならない.やはり見えれば見えるだけデバッグしやすい.デバッグを軽視すると,プロセッサ・コア内蔵のFPGAを開発するため,汎用マイクロプロセッサとFPGAを搭載したボードでデバッグする,という笑えない状況に陥る可能性もある.

 プロセッサ・コア搭載のFPGAはまだ登場したばかり.当面,試作用途からということになるのであろうが,将来,SOC市場の一翼を担う存在になる予感は十分にある,それどころか,非FPGAのシリコン・ベンダとしては,根こそぎもって行かれるのではないかという不安さえ感じさせる存在である.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2001年4月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
M.P.I(ペンネーム).若いころ,米国系の半導体会社で8ビット,16ビットのプロセッサ設計に従事.ベンチャ企業に移って,コードはコンパチ,ハードは独自の32ビット互換プロセッサのアーキテクトに.米国,台湾の手先にもなったが,このごろは日本の半導体会社でRISCプロセッサ担当の中間管理職のオヤジ.

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