国際競争力のある産業機器がARMマイコンでさらに高性能に ―― 組み込みネット新春インタビュー(3)
Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として「2014年,組み込み技術の展望」をお届けします.第3回は,フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの古江 勝利 氏(写真1)に,ARM Cortex-Mマイコンから見た2014年の組み込みシステムについてお話を伺いました.(Tech Village編集部)
―― 2013年は,ARM Cortex-Mマイコンにとってどのような年でしたか?
古江氏:2013年は,ARM Cortex-Mマイコンの評価や導入期が終わり,普及期に入った年だったという印象があります.2011年あたりから評価や導入が始まり,最初の開発が終了し,良い評価を受けて,2013年の後半から2周目の開発がスタートした,といった状況です.
この裏付けとして,当社で開催する企業先でのオンサイト・セミナやパートナとの協業セミナにおいて,受講ユーザのリクエストや質問が大きく変わってきたことが挙げられます.導入の「いろは」についてのセミナのリクエストは少なくなり,代わって,例えば今まで使用してきたマイコンの命令セットの移行や,ARM Cortex-Mマイコンの性能を理解した上での,より具体的な開発の質問が増えてきました.
もちろん,導入に関しては国産メーカと比較して,日本語のドキュメントやサポート力など,障壁はいまだに多く残っています.しかし,国内のOSメーカや開発ツール・メーカとの協業による,いわゆる「エコシステム」で改善を図っています.半導体企業がユーザに対して全てをサポートする今までのやり方から,複数の企業でサポートする新たなエコシステムという流れが理解されたのも2013年からです.これは,同じARMアーキテクチャを採用している半導体企業が増えてきたからこそできる,新たな動きだと感じています.
―― 2014年の組み込み市場をどのように見ていますか?
古江氏:大きな流れとして二つあると思います.一つは,産業機器分野で8ビットや16ビットのマイコンを使用してきたユーザが,32ビット・マイコンへ大きく移行するのが2014年だと思います.これは,さまざまな要因が考えられますが,一番大きな要因は,32ビット・マイコンの単価が安価になり,8ビットや16ビットのマイコンとコスト的に変わらなくなったことだと思います.
もう一つは,M2Mやクラウド連係を含めたIoT(Internet of Things)への考え方が定着し,2014年は組み込みシステムで,IoT に対応した機器の開発が進み,IoTの概念がより具体的になると思います.
現在,日本では,携帯機器やディジタル家電などの民生機器の業績は落ち込んでいます.しかし,リアルタイム処理などが必要な産業機器分野での組み込み機器は,現在でも国際競争力のある製品が多いと思います.このような産業機器分野で,ARMのマイコンが使用され,さらに性能の高い機器が開発されていますので,2014年はこの市場がますます拡大すると思います.
―― 2014年に注目している市場やアプリケーションを教えてください.
古江氏:新たな市場としては, IoTの技術がベースとなるウェアラブル・デバイスに注目しています.当社の「Kinetisミニ・マイクロコントローラ」(写真2)は,ARM Cortex-M0+を搭載し,32ビットでパッケージ・サイズが「1.9mm×2.0mm」です.このように,今までマイコンが利用できなかった機器にもマイコンが搭載できるようになります.ウェアラブル・デバイスは,単なるスマート・ウォッチではなく,身体のデータを測定したり,さらにクラウドとの連携も可能な製品が数多く開発されると考えています.
また,「mbed」(写真3)のようなオープン・ソース化されたプロトタイピング・ツールの広がりを感じています.そこで,このプロトタイピング・ツールをホビー・ユーザだけではなく,組み込みエンジニアにも使用してもらいたいと考えています.今まで,組み込みエンジニアは,ドライバ・ソフトやミドルウェアの開発が中心でした.しかし,これからの製品の差別化は,どのようにネットワークに接続して,製品開発のスピードをいかに上げるかが重要になると思います.そこで,組み込みエンジニアにもmbedを利用して,製品開発のスピードを上げてもらいたいと考えています.
さらに,センサ・ネットワークを利用した組み込みシステムとして,「スマート・アグリ」や「スマート・エナジー」にも注目しています.農業やインフラに関しては,これから組み込みシステムが新たに導入されると考えています.この新たな市場では,その地域や業種に特化したパートナとの協業が必要となり,エコシステムがさらに重要になると考えています.