国際競争に勝つには,製品開発のスピードをいかに上げるかが重要 ―― 組み込みネット新春インタビュー(1) 

Tech Village編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2014年1月 6日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として「2014年,組み込み技術の展望」をお届けします.2014年の技術動向や産業動向を紹介する目的で,組み込み関連企業や団体にインタビューを行いました.第1回は,イマジネーションテクノロジーズの松江 繁樹氏(写真1)に,2014年のGPUとCPUの組み込み市場における取り組みについてお話を伺いました.(Tech Village編集部)

写真1 イマジネーションテクノロジーズ 代表取締役社長の松江 繁樹氏


―― Imagination Technologies社について教えてください.

松江氏:Imagination Technologies社は,半導体企業向けのIPベンダです(図1).現在,GPU(Graphics Processing Unit)の「PowerVR グラフィックス」が,多くのスマートフォンや携帯電話,タブレットに採用され,GPUコアの企業イメージが強いと思います.しかし,その他にH.264やMPEG,JPEG,HEVC(High Efficiency Video Coding)などの画像圧縮にマルチに対応できるエンコード/デコード技術のIPもあります.また,4K対応のディスプレイIPやWiFi,Bluetoothなど,多くの無線方式をソフトウェア処理で対応できるIPコアなど,これからのSoCに必要となるさまざまな技術を持っています.

 

図1 IP製品の概要

 

 会社規模は,ワールド・ワイドで,約1,600名になりました.本社のイギリスに1,000名,インドに300名,アメリカに200名となっています.また,急激な市場の広がりに,約100名は,ヨーロッパやアジア,オーストラリアなど全世界に設計部隊がいます.

 私自身が初めてPowerVRと出会ったのは,今から20年前の1994年です.当時の開発社名は前身の英国VideoLogic社で,社員数が50名程度のファブレス半導体企業でした.PowerVRはパソコン用のグラフィックス・ボード(写真2)として提供されていました.私はその当時,NECに在籍しており,この画像処理技術をセガに紹介しました.それから4年後,その技術が,1998年に発売された家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」に採用されました.採用が決まった時に,グラフィックス・ボードを自社で製造するビシネスから,NECへGPUコアとして提供するIPビジネスへ変更しました.それから,2002年に日本法人が立ち上がりました.

 

写真2 PowerVRのグラフィックス・ボード外観(ウィキペディアより転載

 

 2002年当時には,ルネサス エレクトロニクスや米国Intel社,米国Texas Instruments社などの半導体企業への採用事例が出てきました.2014年の時点では,全世界の約50%以上のスマートフォンのGPUに当社のコアが採用されています.また,タブレットについては,Intel社のAtomを搭載している機種には当社のコアが使用されています.その他,PlayStation Vitaなどの小型ゲーム機やセット・トップ・ボックスなどに採用されています.このように,現在では約50億台の機器に弊社のコアが採用されています.

 

―― PowerVR グラフィックスのロードマップを聞かせてください.

松江氏:現在,製品に多く使用されているGPUコアのファミリは,「SGX」と「SGX XT」です(図2).2014年からは,2012年に発表した「Rogue」を搭載した製品が市場に出てくると思われます.すでに,ルネサス エレクトロニクスの車載情報端末向け「R-Car H2」にはRogue(G6400)が採用されています.

 

図2 PowerVRのロードマップ

 

 当社のGPUコアは,低消費電力に優れています.その技術は,Deferred Pixel Shadingによるものです.この技術は,簡単に説明すると,通常,3D(3次元)グラフィックスでは,物体全体を1度レンダリングした上で,物体を動かしたりしますが,PowerVRは,見えている面しかレンダリングしません.また,物体が重なっていて見えない部分もレンダリングせずに計算を減らし,低消費電力を実現しています.また,Tile Based Deferred Shadingにより,SoC内部のGPUとメモリ間のバスのボトル・ネックを軽減します.画像処理のデータ転送を減少するために,画像をタイル単位に分割して,GPUとメモリ間のデータ転送の回数を減らしています.

 また,さらにゲームなどの映像を,映画並みの美しさにする技術があります.それは,レイ・トレーシングです.レイ・トレーシングとは,光の物理的な法則や性質を仮想空間内で再現する技術です.現在のゲーム・デザイナーは,光の反射をプログラムし,影を塗らなければいけませんが,この技術により,光源の位置と物体の位置を設定すれば,光の反射を自動で計算し,影を塗らなくてよくなります.この技術は,すでに,3D設計CADの米国Autodesk社に,グラフィックス・ボードとして提供しています.

 

―― RISC CPU技術の先駆者である米国MIPS Technologies社を2012年に買収しました.

松江氏:MIPS Technologies社を買収した大きな要因としては,米国Google社のAndroidの存在があります.AndroidがサポートしているCPUは,MIPS,ARM,Intelです.当社としては,ソフトウェア的に標準化された(Androidがサポートしている)CPUコアが必要だと感じたからです.また,MIPSは,スタンフォード大学のJohn LeRoy Hennessy博士によってRISC CPUの性能を上げるために理論的に整理された,シンプルなアーキテクチャである,というところも買収した要因の一つです.これで,CPU,GPU,ビデオ,ディスプレイ,通信と,当社のIPコアだけでトータル・ソリューションとしてのSoCのブロック図が完成できました.もちろん,それぞれのコアを開発者のニーズに合わせて個別に提供していく姿勢は従来と変わりません.

 

―― 「Imagination Technologies社のMIPS」として,どのように展開するのでしょう?

松江氏:もともと,当社は,独自のCPUコア「Meta」を持っていました.そこで,この開発人員を全てMIPSの開発に導入し,現在,400人以上の体制で,開発を行っています(図3).

 

図3 MIPSコアのロードマップ

 

 新たなハードウェアの技術として,マルチスレッド技術を採用します.当社は,Metaの開発でマルチスレッドでの並列処理を約20年研究開発していました.マルチスレッドとは,アプリケーションの処理をスレッド単位にして,1個のALU(Arithmetic Logic Unit:演算ロジック・ユニット)で並列処理する技術です.

 1個のCPUコアの中で,最も大きな面積を占めるのはALUです.しかし,プログラム側からクロック単位で見ると「データ転送」→「データ処理」→「データ転送」となり,ALUは約30%しか稼動していません.そこで,複数のCPUコアで1個のALUを共有すれば,CPUの面積を小さくすることができるのです.この技術は,2013年10月に発表したMIPS 「Warrior」 P-classから採用しています.

 MIPS Warriorの構成は,ハイパフォーマンスの「P-class」,ミドルクラスの「I-class」,ローエンドの「M-class」となっています.2013年10月にP-classを発表し,2014年にI-class,M-classを発表していきます.

 

―― 最後に,2014年の組み込みシステムにはどのような変化があると思いますか?

松江氏:エレクトロニクス産業は,すでに,ワールド・ワイドの国際競争の中にあります.国際競争に勝つには,製品開発のスピードをいかに上げていくかしありません.また,世界の半導体産業は,システムの大規模化にともない,限られた企業しかSoCを開発することができなくなってきました.従って,開発されるSoCは,大規模ではありますが,種類は限られてきます.こうなれば,一つ一つのSoCが多くのアプリケーションをカバーするようになります.そして,有力なプラットフォーム(SoC)をベースにソフトウェアでさまざまなアプリケーションの機能を実現する方向に進むと思われます.「有力なSoCを開発できるのか」,「ソフトウェアによる機能への対応をどう分担するのか」.組み込み技術は,これらの大きな流れの中でどのように対応できるかが鍵になると思います.

 

 

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