救命救助をテーマにしたロボット競技会を神戸と東京で開催 ―― 第13回レスキューロボットコンテスト

磯野 康孝

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レポート 2013年9月12日

 2013年6月~8月にかけて,救命救助をテーマにしたロボット・コンテスト「第13回レスキューロボットコンテスト」が開催された(写真1).6月30日には神戸サンボーホール(神戸市中央区)で,7月7日には東京都立産業貿易センター台東館(東京都台東区)で競技会予選が開催され,予選を勝ち抜いた14チームが,8月10日~11日に神戸サンボーホールにて行われた競技会本選に出場した.主催はレスキューロボットコンテスト実行委員会と兵庫県,神戸市,神戸商工貿易センター,読売新聞社.ここでは,本コンテストおよび東京予選についてレポートする.

 

写真1 東京にて行われた競技会予選の様子

 

 

●レスキュー・ロボットの確立を目指して開催

 本コンテストは,1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに誕生した.震災後,大学の研究者を中心にロボット業界の有志が集まり,救命救助機器の技術的な課題に関する調査・研究を行った.この調査・研究を通じて,救命救助の活動や機器そのものに関する広報の重要性が再認識された.レスキュー・ロボットやレスキュー・システムを確立・拡充するためには,研究や技術開発だけでなく,社会の理解や防災・減災の意義に関する啓発,次世代を担う人材育成が不可欠であり,それらを得るための何らかの機会が求められたのである.

 そこで提案されたのが「レスキューロボットコンテスト(略称:レスコン)」だった.プレ大会を2000年に,翌2001年にはロボフェスタ関西の中で第1回を開催した.その後は独立したコンテストとして,第2回,第3回を大阪で,第4回以降を神戸で開催し,今年で13回を迎えた.特に今年は,本コンテストの周知とより多くの参加者を募ることを目指して,初めて東京予選を開催した.

 本コンテストは,架空の「国際レスキュー工学研究所」で行われる,レスキュー技術の評価と訓練のための実験という位置付けで行われる.被災した市街地を模した実験フィールドにおけるレスキュー訓練を,コンテスト形式で行うというストーリだ.実験フィールドには「2次災害の恐れがあり,人間が立ち入れない」,「がれきの中に実験用レスキュー・ダミー(人形)が数体置かれている」という状況が設定されており,遠隔操縦のレスキュー・ロボットを使ってレスキュー・ダミーを救出し,安全な場所まで運ぶことがミッションとなっている(写真2).

 

写真2 被災した市街地を模した実験フィールド
市街地を1/6スケールで表現している.左奥に見えるのが青チームのベース・ゲート,右端が赤チームのベース・ゲートだ.各チームのロボットはロボット・ベースよりゲートをくぐって,救命救助のために出動する.実験フィールドは道路と二つの居住ブロック(4区画)から成り,倒壊した家屋や柱などのがれきが配置されている.

 

 

 神戸予選の参加チームは19チーム,東京予選の参加チームは6チーム.各チームは,自作のレスキュー・ロボットで課せられたミッションのクリアを目指し,アイデアや技術力,チームワークなどを競った.

 

●貸与されたボードを使ってレスキュー・ロボットを自作

 この実験フィールドで活躍するレスキュー・ロボットは,サンリツオートメーションが開発した制御ボード「TPIP(通称:レスコンボード)注1」を使って自作することが前提だ(ボードなどは貸与される).本ボードはカメラを搭載しており,モータ制御と画像圧縮の機能を備え,無線LAN経由で遠隔操縦できる.遠隔操縦を行う側のパソコン側のソフトウェアも提供されている.

注1:参加チームは,TPIPに関する情報をTPIPユーザ・コミュニティのWebサイト(URLはhttp://tpip-dev.org/)から得ている.このWebサイトには標準操縦ソフトウェアのソース・コードや各種ライブラリ,サンプル・コードなどが公開されており,参加チームの多くは,これらの情報を基に操縦ソフトウェアを自作していたとのこと.

 同じ制御ボードを使うという制約の中で,各チームは自分たちが行う救助活動をイメージし,どのような機能を持つレスキュー・ロボットを制作するのかを考える.救助活動の手順をどうするのか,がれきなどの撤去はどのような方法で行うのか,イメージの持ち方やアイデア次第で,多種多様なレスキュー・ロボットが生まれてくる(写真3写真4).台数や重量の制限はない.競技開始時にロボット・ベースの枠内に待機でき,ベース・ゲートを通過できれば,何台用意してもかまわないのだ.

 

写真3 4台のレスキュー・ロボットがロボット・ベースに待機中
長湫ボーダーズ(愛知工業大学)のロボット.

 

 

写真4 こちらは2台のレスキュー・ロボット
RMF rescue(電気通信大学 ロボメカ工房)のロボット.

 

 

 台数が多ければ,各ロボットの持つ機能を減らし,ロボット自体の仕組みを単純化できるが,ロボット同士の連携や操縦者の育成などが難しくなる.逆に,台数が少なければ,少数精鋭の要員で臨むことができるが,ロボットに備える機能が多岐に渡り複雑化し,トラブルの発生率が高くなってしまう.このあたりの調整に,各チームの個性が出る.

 

●ダミー人形は各種センサを内蔵

 レスコンの主役は,もちろんレスキュー・ロボットだが,一方で重要な役割を果たしているのが,救助活動の対象となる要救助者を模した人形「レスキューダミー(愛称:ダミヤン)」である(写真5).

 

写真5 待機中のダミヤン
各チームごとに使われるダミヤンは決まっている.

 

 

 ダミヤンは圧力センサや加速度センサ,Bluetoothによる通信機能を内蔵しており,身長約30cm/約25cmの大小2種類がある(写真6).各種センサが頭の支えの有無や胴体への圧迫,振動(衝撃),体の傾きを検出し,それらの値はBluetooth経由で送信されて常時モニタリングされている.ロボットが過度の力でダミヤンの体を曲げたり押さえたりすると,ダミヤンが苦痛(ダメージ)を受けたと判定されてしまう.転落による衝撃や搬送中の振動も同様だ.ダミヤンが苦痛を受けたと判定されると,フィールドにいる審判によって救助活動の一時停止を命じられ,減点対象となる.

 

写真6 ダミヤンの中身
基板類が見える.

 

 

 また,各ダミヤンには体重や胸のマークといった個体情報も設定されており,これを識別することもレスキュー・ロボット側にミッションとして課せられている.

 

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