端末競争はほぼ収束,ディジタル化ソリューションも淘汰の時代へ ―― 第17回 国際電子出版EXPO(eBooks)

磯野 康孝

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レポート 2013年8月 9日

 2013年7月3日~5日,電子出版ビジネスに関する展示会「第17回 国際電子出版EXPO(eBooks)」が,東京ビッグサイト(東京都江東区)において開催された(写真1).電子書籍元年といわれた2010年から丸3年.2012年には楽天が「Kobo Touch」を,アマゾンが「Kindle Paperwhite」および「Kindle Fireシリーズ」を相次いで発売し,グーグルが「Playブックス」を立ち上げ,2013年の年明けにはアップルがiBookstoreで日本語コンテンツの取り扱いを開始した.いわばメイン・プレーヤが出揃った感のあるこの1年であり,電子出版ビジネスへの関心も非常に高いものがあった.そのような中で開催された本展示会だが,先に挙げた海外勢に加え国内のシャープ,ソニー,富士通といった端末メーカ,紀伊國屋書店やイーブックイニシアティブジャパンなどの一部電子書店大手の出展がなかったことは注目に値する.

 

写真1 第17回 国際電子出版EXPO(eBooks)

 


 これらを踏まえ全体を俯瞰(ふかん)してみると,特定の電子書店と結びついた電子書籍端末を巡る競争は収束しつつあるようだ.同時に,キラ星のごとくあったコンテンツのディジタル化ツールでも,淘汰が始まっているといえる.例えば,ディジタル化からオリジナルの電子書店立ち上げをワンストップで行う程度のツールでは,コンテンツ・ホルダを納得させることは難しくなっている.

 今回から,映像やアニメ,本・雑誌,Webなどのあらゆるジャンルのコンテンツ制作会社が一堂に会する「第1回 プロダクションEXPO東京」および,デジタルコンテンツを「作る」,「管理する」,「届ける」,「見る・遊ぶ」ためのソリューションを集めた「第1回 コンテンツ制作・配信ソリューション展」の開催が始まった.制作,配信,管理専門の展示会で,今後の電子出版ビジネスとどう絡むのか,来場者の関心を集めていた.

 会場内は例年通り盛況で,本展示会と6日まで開催された「第20回 東京国際ブックフェア(TIBF)」を含む全6展示会の総来場者数は62,570人となり,昨年の51,806人を大きく上回った.

 主催は東京国際ブックフェア実行委員会/リードエグジビジョンジャパン.同時開催は「第20回 東京国際ブックフェア(TIBF)」,「第3回 ライセンシングジャパン」,「第2回 クリエイターEXPO東京」,「第1回 プロダクションEXPO東京」,「第1回 コンテンツ制作・配信ソリューション展」.


●Kindle向けやiBooks向けのePub3ファイルをWeb環境で制作

 電子書籍制作の老舗であるボイジャーは,電子書籍向けの標準ファイル・フォーマットであるePub3ファイルを生成する,Webアプリケーション型の電子書籍制作ツール「EPUB3メーカー」を展示した(写真2).

 

写真2 「EPUB3メーカー」のファイル・アップロード画面

 

 「EPUB3メーカー」は,もともと同社の電子書籍(.book)制作ツール「ドットブックビルダー」の契約者向けにベータ版で提供されていたツールの正式版にあたり,2013年の2月より運用を開始している.素材となるファイルをアップロードし,ボイジャーのサーバ上でePub3ファイルへ変換(生成),完成したファイルをダウンロードするところまでを行う.

 ePub3に関する専門的な知識がなくても,簡単な手順でAmazon KindleストアやApple社のiBookstore,Google Playブックス,楽天のKoboなどで販売できる電子書籍データを制作できるというのが本ツールの売りである.「リフロー型」といわれるテキスト系コンテンツ向けのレイアウトと,「フィックス型」といわれるコミック系コンテンツ向けの固定レイアウトの両方に対応している.

 「専門的な知識がなくても」とうたわれてはいるが,素材ファイルはユーザ側で用意しなくてはならない.素材ファイルとは,リフロー型ではコンテンツとなるテキスト・ファイルと画像ファイルをまとめたZIPファイルであり,フィックス型では連番の画像ファイルと目次情報などを記したファイルをまとめたZIPファイルである.リフロー型のテキスト・ファイルには,さらに独自のマークアップを記述する必要もある.

 素材ファイルが用意できたらサーバにアップロードする.このとき,タイプとして「Kindle/iBooks/Google~」などを選択するだけで,KindleストアやiBookstoreに対応した電子書籍データが自動生成される.説明員によれば,標準といわれているePub3だが,各ストアが採用する電子書籍端末によって解釈が異なるところもあるという.本ツールは,そのあたりの差を吸収し,なるべく統一された見栄えを提供しているという.

 アップロードしてファイルを生成するとプレビューが可能になる.ここで,意図通りのレイアウト表示ができているかをチェックする.マークアップの間違いなどで表示に問題があれば,再度素材ファイルの作成からやり直すことになる.このプロセスは納得がいくまで繰り返せる.プレビューがOKならば課金処理,ダウンロードと進み,完成した電子書籍データを受け取ることができる.

 なお,「EPUB3メーカー」の新機能として,Microsoft Wordのファイルをそのまま素材の原稿ファイルとしてアップロードできる機能を追加する予定だという.


●研究者や医療従事者を対象とした学術専門の電子書籍サービスを展開

 医学系学会を中心に学術雑誌などを制作してきた杏林舎は,学会誌や学術専門書に特化した電子書籍サービス「Kalib(Kyorinsha Academic Library;カリブと発音)」について展示した.本サービスは,学会誌や学術専門書,医療ガイドラインといった専門コンテンツを収録・販売する電子書店「Kalibストア」と,公開されたコンテンツを管理するWebサイト(販売者ごとに管理画面を用意する),専用のリーダ・ソフトウェア「Kalibリーダ」(写真3)から構成されている.

 

写真3 Kalibの専用リーダ・ソフトウェア「Kalibリーダ」
範囲選択部分をハイライトさせるマーカ機能は,登録されたグループ内で共有できる.

 


 「Kalibストア」で販売できるのは,ePubおよびPDF形式の電子書籍である.電子書籍データは販売者側で用意することになるが,杏林舎に制作を委託することも可能だ.管理画面では,登録された電子書籍のタイトルや公開日,販売期間,販売条件,価格などを設定する.売り上げなどのログ・データも取得できる.

 「Kalibストア」からのコンテンツ購入(ダウンロード)と閲覧は「Kalibリーダ」で行う.「Kalibリーダ」は,論文や学術専門書を閲覧しやすいように設計されている.例えば,縦スクロールと横スクロールを自由に切り替えて閲覧できる十字スクロール機能を備える(横スクロールで章見出しを探し,縦スクロールで内容を精読する).メモやしおり,マーカ機能,SNSへの投稿機能が標準装備されている.保存したメモ内容を,あらかじめ登録したグループのメンバで共有することも可能.新たな機能として,用語集と連動した辞書機能や,必要な論文/資料をスクラップして一つの論文集のようにまとめられるマイブック機能などを2013年内に追加する予定.「Kalibリーダ」はiPad用,iPhone用,Android用があり(無料),3台まで登録できるマルチ・デバイス対応となっている.

 電子書籍サービスとしてのKalibの最大の優位性は,同社が扱う各学協会の学術ジャーナル(論文誌)の読者(学協会会員,企業も含む)の多くが,既にユーザとなっているところだろう(20,000ユーザ以上だという).分野も細分化されているため,学術系の専門コンテンツを公開する場合,一般的な電子書店で公開するよりターゲット・ユーザにリーチする確率はかなり高くなるはずだ.こういった専門性へのアプローチを高め,将来的には,大学における電子教科書のプラットホームとしての参入なども考えたいとのことである.

 なお,Kalibで扱う電子書籍データにDRM(Digital Rights Management;ディジタル著作権管理)は設定されていない.理由は,ユーザによるコンテンツ取り扱いの自由度を妨げないようにということだが,そのため現状では閲覧環境をスマホとタブレットに限定している.一般的なパソコン環境を追加するかは検討中とのことだった.

 

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