手巻きボイス・コイル,紙製コーン,オリジナル木製フレームでスピーカを丸ごと作る! ―― 「スピーカから音が出るしくみ」を体感しよう

「トラ技エレキ工房」編集部

tag: 組み込み 電子回路

エレキ系DIY 2013年8月23日

 スピーカからどうやって音が出ているのか,知っていますか? スピーカは箱に入っていることが多いですが,ここでいう「スピーカ」は,箱の中に入っている本体のみのことです.

 スピーカの中に何が入っているかを考えてみましょう.まず,強力な磁力を発生する「マグネット(永久磁石)」があります.また,電線(コイル)に流れる電気信号を磁力の変化に変える「ボイス・コイル」が入っています.このボイス・コイルと一体となった「紙製コーン」が振動することで空気の波を作り,音として耳から脳へと伝わるのです(図1).

 

図1 スピーカの構造

 

 スピーカの役割は,人工的に作られた音のソースであるレコードやCD音楽,FM放送やテレビ放送,ネット・オーディオなどの電気信号を,USB-DACやアンプなどを使って,最終的に音にすることです.


●しくみを理解するために「フル・クラフト」のスピーカ・キットを企画

 スピーカのしくみをわかりやすく理解できないかと考えて制作したのが,「フル・クラフト・スピーカ・キット TS10」です.このキットの企画意図は,「(エレキに関係する)モノの動くしくみ」を実際にモノを作ることによって理解を深めていただこうということです.構成する材料を含めて,どこをどうすれば性能がどのように変化するのかという,試行錯誤を行いやすいキットにしました.

 自作では,プロが使うような金型を使ったプレス加工などはできません.ホーム・センタや通販で手に入る材料や,日曜大工程度の道具を使って,難しい部分はやさしい加工などを組み合わせ,できるだけ理論に沿って構成できるようにします(写真1).測定に使用する機器も,パソコンとフリーウェアのソフト,通販で手に入る部品を使います.

 

写真1 フル・クラフト・スピーカ・キットに含まれる紙部品と構造部品,治具

 

 この「フル・クラフト・スピーカ・キット TS10」は,2013年8月に発売された『トラ技エレキ工房No.2 特集 本気度MAX! フル・クラフト・スピーカ誕生』をより深く理解するためのものでもあります.まだお読みでない方は,ぜひご参照ください.

 また,「このような工作は経験がないので,完成できるか不安だ,自信がない」という方のために,実際にそのキットを作り上げるセミナ「実習・フル・クラフト・スピーカ・キットの組み立てから周波数特性の測定まで」も企画しました.このセミナでは,キットでは付属していないエンクロージャ(木製スピーカ・ボックス,写真2と同じもの)が2個付いていますので,すぐに実際のステレオ・スピーカとして利用できます.

 

写真2 完成してエンクロージャに納めたスピーカ・キット

 

フル・クラフト・スピーカ・キットのこだわり

●市販されている材料を使って構成

 キットに含まれる部品類は,ホーム・センタやネット・ショップで手に入る材料だけで構成されています.高価な工具を使わなくては加工ができない部品や加工が難しいと思われれる部品は,あらかじめ加工したものを用意してあります.たとえば,スピーカ・ユニットを立体的に構成するフレームやボイス・コイルを巻くときの手助けになる巻き線スタンドなどの木製部品,硬質塩化ビニル製のダンパなどです(写真3).これらはIKEAの家具のように,ねじ止めで済ませられるようにしてあります.ただし,ねじだけではゆるむことが考えられるので,固定するために接着剤で止めておきます.接着剤は対象のものによって使い分ける必要があります.そのため,3種類の接着剤を用意しています.

 

写真3 キットを構成する部品類

 

●精度の必要な部分は隙間治具で組み立てやすく

 振動する部分は,わずかな隙間で,ほかの部品と接触しないように取り付けなくてはなりません.そのための隙間治具など0.01mm単位で正確に自作して精度良く組み立てられるようにしてあります(写真4).

 

写真4 治具を自作するための部品も用意してある

 

●コイルを巻くのが初めての方のために

 振動板と一体となって動作するボイス・コイルは,きれいに美しく巻かないと,ほかの部品と接触してノイズの原因になります.このコイルをボビンに巻く工程がスピーカ・ユニット制作のメイン・イベントです(写真5).

 

写真5 手巻きしたボイス・コイル

 

 キットに付属の導線(ポリウレタン線)は直径0.16mmですが,かなり引っ張っても切れることはありません.手巻きできる限界の細さです.最近のスピーカに採用されているロング・ボイス・コイルは,センタ・ポールのギャップより長い幅にしますが,振動板の等価質量が重くなります.これは大入力に強いので低音側の再生に向いています.反対にショート・ボイス・コイルは振動系の質量を軽くできるので高音用の再生に向いています.このような実験も自作ならではの工夫でできるようになっています.

 導線の直径をもっと細くすると,質量も軽くなり高域が出やすくなります.また,断面が■型のエッジ・ワイズ導線を使うと,導体体積の占有率を大きくして能率が良くなります.

 

ボイス・コイルを巻く


●構成材料を変えることで特性がどう変わるかを試せる

 振動板であるコーンは,市販で手に入りやすいケント紙を使っていますが,竹や檜材を薄くしたものを貼り合わせたり,プレス加工ができる環境があればアルミやマグネシウムの薄板を伸ばして作ることも可能でしょう.エッジ材料もエクセーヌ(東レが開発したスエード調人造皮革)を使うようになっていますが,市販スピーカ・ユニットに使われているウレタン材料を加工して作ることもできるでしょう.

 マグネットのサイズアップをして磁気回路の磁束密度を上げると,能率が上がるだけではなく,低音のしまりが良くなり,高域の再生能力も高まります.


●製作者の感想

 いろいろ試して,ついに,「フル・クラフト・スピーカ・キット TS10」の完成です(写真6).

 

写真6 完成したキット・スピーカ

 

 実際にキットを作った人に,感想を聞いてみました.

 「正直,最初はほとんど期待していなかったのですが,素人手作りでこんなリッパに鳴るとは思いもよりませんでした.市販スピーカと比較してしまうと,さすがに及びませんが,自分で巻いたボイス・コイルとコーン紙がここまで音楽を再生してくれていると思うと,感慨深い愛着ある音に聞こえてしまうのはなんとも不思議な感覚です」.自作派ならではの感想ですね.

 完成したスピーカ・キットで音楽を再生した動画も公開しています.

 



 

■本キットの製品紹介・ご購入に関してはCQ Web Shopをご参照ください.

本キットの組み立てセミナも用意されています.このセミナは,当キットのほかこの記事写真のエンクロージャ(キャビネット)2個がついています.(キットでは,エンクロージャは別売です)

 

 

 

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