ネットワーク経由の遠隔管理システムとクラウド,SNSを導入して農業経営を変革――「ETアワード2012」受賞企業インタビュー(2) 日立ソリューションズ

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2012年11月30日

一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,「ETアワード2012」の受賞者を発表した.ETアワード2012の「スマート・アグリ部門」では日立ソリューションズの「スマート圃場(ほじょう)システムを使った地域農業の振興」が優秀賞に選ばれた.同社は,昨年より青森県の農林高等学校で今回受賞対象となったシステムによる実証実験を行っている.ここでは,システム構築にたずさわった,同社の岡山 健一郎氏に話をうかがった.

 

写真1 日立ソリューションズ エンべデッドシステム開発第1本部 第3部 ユニットリーダ
岡山 健一郎氏

 

 

―― ETアワード2012スマート・アグリ部門の優秀賞を受賞したソリューションの概要を教えてください.


岡山氏:今回受賞したシステムでは,まず農場にOSGi(Open Services Gateway Initiative)注1に対応したハードウェアを設置し,カメラや複数のセンサ・ネットワークを管理しています.次に,SNS(Social Networking Service)による情報の共有や配信も行っています.この,OSGiとSNSの情報を一つのクラウド・サーバで管理するシステムが今回のソリューションとなります.このソリューションは,実際に青森県立五所川原農林高等学校で実証実験を行っています.現在,このシステムが稼働して1カ月半が経過しています.


注1:OSGiとは,ネットワーク経由によるアプリケーションの管理(配布,実行,停止)を実現するためのJavaアプリケーションのモジュール化標準仕様.

 

―― このソリューションにOSGiを導入された理由を聞かせてください.


岡山氏:農業の生産管理についてヒヤリングしたところ,ビニール・ハウス(写真2)の外気温や光量の計測,ハウス内の温度や湿度の計測と調整,それに伴うカーテンやファンの制御など多くの管理項目が存在することが分かりました.また,人により要件が異なり,リクエストが多岐に渡っていました.そこで,クラウド・サーバとさまざまなセンサ・ネットワークを直接つながず, OSGiの仕組みを導入しました.また,クラウド・サーバ上で不具合があった場合に対処が遅れることも考慮して,OSGiに対応したハードウェアを現地に設置しました.クラウド・サーバにトラブルがあった場合,現地の機器だけでもセンサや機器を制御できるようになっています.OSGiはJavaアプリケーションのモジュールですが,複数のアプリケーション間の連携が図りやすく,遠隔地からのソフトウェアの管理にも優れています.

 

 写真2 実証実験を行っているビニール・ハウス

 

 

―― なぜSNSを導入したのでしょうか?


岡山氏:今回,受賞できた要因の一つは,SNSによるコミュニケーションを取り入れた部分にあると考えています.現在,スマート・アグリと言うと農業の生産管理が主な課題となっています.しかし,さらにヒヤリングを進めていくと,農業の生産管理だけではなく,栽培に関するアドバイスが欲しいといった意見や,販売方法についての提案や要求などがありました.そこで,学校や地域の農家,消費者とのコミュニケーションが図れるようにSNSを導入しました.どちらかと言うと生産管理よりも,コミュニケーションに関する要求の方が多く出てきました.


―― 具体的にはどのようにSNSが活用されているのでしょう? 


岡山氏:生産者(生徒)は日々の作業日誌をSNSに書き込み,生産者同士で意見交換を行います.地域の農家からは生産に関するアドバイスや意見をもらえるようにしています.消費者には農作物の成長を動画や写真で配信し,感想や要求を書き込めるようにしています.このように,生産者が消費者と直接つながり,流通・販売まで業務展開していく経営形態,いわゆる第6次産業化の実証実験も行っています.実際に生産しているのは,露地ではりんごやブルーベリー,キャベツ,大根などを,ハウスではトマトや花を育てています.すごく美味しいです.


―― どうしてスマート・アグリのソリューションに取り組もうと思われたのですか?


岡山氏:もともと当社では,OSGiのシステムをHEMS(Home Energy Management System)やスマート・ハウスの分野で使用していました.このシステムを農業に応用できると考え,ビニール・ハウスをスマート化したいと思ったのです.これがきっかけとなり,まず,明治大学の黒川農場で,ハウス環境の見える化と機器遠隔の制御を行うことになりました. ZigBeeなどのセンサ・ネットワークとOSGi,クラウド・サーバを使用するシステムを構築しました.黒川農場では,約3カ月でβ版のシステムを準備し,半年で実稼働に入りました.ただし,農業の場合,データの収集に1年掛かるので,データの活用には時間が掛かりました.


――今後,このシステムをどのように展開していくのでしょう? 


岡山氏:まず,五所川原農林高等学校での実証実験を成功させたい,と考えています.あと2年間ありますので,このソリューションが農業として利益を生み出すシステムになるように考えていきます.スマート・アグリのアプリケーションを検討していくと,生産管理だけでなく,地域住民とのコミュニケーションや流通・販売までも検討してく必要があると分かりました.また,個々の農家が導入するのはコスト的に難しいケースもあるので,生産者が利益を上げられる新しい経営形態の検討も必要だと思っています.今回のスマート・アグリに関する実証実験は,地域貢献を図り,新しい市場を形成することだと考えています.


―― 2013年スマート・アグリの市場は今後,どのように発展していくのでしょうか?


岡山氏:センサ・ネットワークと組み込み技術,さらにクラウド・サーバを組み合わせたシステムは他にも活用が考えられると思います.しかし,センサ・ネットワークで集めたビック・データをどのように活用するかが容易ではありません.そこがうまくいけばシステムは具体的なイメージになり,スマート・アグリのようにキーワード先行のものが,中身を伴うソリューションになると思います.

 

●参考URL
(1) Embbedded Technlogy 2012;ETアワード2012発表のページ
(2)青森県立五所川原農林高等学校;圃場管理サイト
(3)日立ソリューションズ;ETアワード2012受賞に関するニュース・リリース
 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日