国産衛星を利用して高精度測位を実現,位置情報を利用したサービスで生活を豊かに ―― 「ETアワード2012」受賞企業インタビュー(1) コア

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2012年11月30日

一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2012(ET2012)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2012」(写真1)の受賞者を発表した.ETアワード2012の「オートモティブ/交通システム部門」では,コアの「準天頂衛星対応の高精度移動体測位ソリューション」が優秀賞に選ばれた.同社は,日本の準天頂衛星システムの電波を利用する高精度測位受信機を全て自社で開発した.ここでは受信機の開発にたずさわった同社の西出 隆広氏(写真2)に話をうかがった.

 

写真1:ETアワード2012 授賞式の様子

 

 

写真2:コア 先端組込み開発センター シグナルプロセッシング技術担当 副技師長
西出 隆広氏

 

 

―― ETアワード2012 オートモティブ/交通システム部門の優秀賞を受賞したソリューションの概要を教えてください.


西出氏:今回ETアワードの受賞対象となったのは,当社の「QZS+GPS受信評価機」です.これは,2010年9月11日に,独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)により打ち上げられた準天頂衛星注1初号機「みちびき(QZS-1)」の補完信号(QZS L1-C/A)や米国によって運営されているGPS衛星の補完信号(GPS L1C/A),GPS補強信号(L1-SAIF)などを受信できる移動体向け受信機です.

注1:準天頂衛星とは,特定の地域の上空に長時間とどまる準天頂軌道をとる人工衛星です.静止衛星は,赤道上空を地球の自転と同じ速度で1週する衛星で,地球上からは赤道上空で静止しているように見えます.この静止衛星の軌道に軌道傾斜角と軌道離心率(楕円)を持たせることで,特定の地域の上空に長時間とどまる軌道となり,地上からは非対称の8の字に見えます.


―― どのようにして高精度の測位を実現しているのでしょうか?


西出氏:補完信号による天頂効果と補強信号の組み合わせにより,1m精度の測位を実現しています.この受信機で採用した当社独自のアルゴリズムは,移動体測位において海外メーカ製の受信機に対抗できる測位精度を備えています.


 例えば山間部を車が走る場合,木々や林に信号がさえぎられて測位の精度が落ちますが,当社のアルゴリズムは,走行体の動きを予測するなどの方法により,精度を維持しています.信号追尾と測位には,カルマン・フィルタやマルチパス判別/軽減アルゴリズムを利用しています.


 さらに,測位精度を上げるためにトラッキング・ループ内にもカルマン・フィルタを使用しています.既存の一般的なトラッキング方式では観測値に含まれる熱雑音の影響をうまく除去できないことが分かり,この方式を考えました.


 マルチパス判別/軽減アルゴルズムについては,従来,周波数推定誤差によるマルチパス検出を行っていました.しかし,これは走行中に威力を発揮しますが,信号待ちなどで停止している場合は,効果を期待できません.そこで,停止時のマルチパスに対処するためにコード位相推定誤差も合わせて利用したアルゴリズムを実装しました.


 このように,ハードウェアからソフトウェアの信号処理,制御までを全て自社で開発しています.ブラックボックスの部分がないので,ユーザの要望に沿ったカスタマイズが可能です. 日本で利用されているGPS受信機は,海外製のLSIやIPが多く使われており,ユーザの要望に沿ったカスタマイズは難しいと思います.


―― なぜ準天頂衛星を利用する受信機を開発しようと思ったのですか?


西出氏:昨年(2011年)6月,JAXAより,「みちびき」の測位信号の提供が開始されたという発表がありました.この時,JAXAに対して技術的補助を求める申請を行いました.これが開発のきっかけでした.


 コアでは,2005年の夏より高感度GPSの研究開発をスタートさせていました.この約5年間のGPSに関する研究の蓄積を生かす絶好の機会となりました.さらに,経済産業省の補助予算事業に申請し,採択されたことが弾みとなりQZS+GPS受信機の開発を2年間集中的に行うことができました.GPSの研究開発時の目標は高感度受信機の実現でしたが,今回,これを高精度受信機の開発に変更しました.


―― このソリューションの登場によって,何が変わりますか?


西出氏:準天頂衛星受信機は,交通,建設,防災,物流など,測位技術を必要とする各分野で実用化が期待されています.測位技術のさらなる高度化により,例えばcm制度の測位を実現できるようになれば,農耕用トラクタなどの自動運転,あるいは,災害時の津波などの測位にも利用できると思っています.さらに,スマート・フォンやディジタル・カメラ,クラウド連携など,位置情報を利用した新しいサービスで,生活を豊かにすることができると考えています.現在,当社の受信機は民間企業や大学で準天頂衛星の利用推進実証用受信機として採用されており,利用拡大につながることを期待しています.


―― ETアワードを受賞した感想は?


西出氏:まず,今まで一番苦労した独自の測位アルゴリズム開発に関してETアワード2012の審査員に認められたことは大変光栄であり,大きなはげみになると思います.アワード受賞製品ということで,多くの来場者の方に興味を持って見ていただくことができました.


―― 2013年は衛星を利用した測位システムは,どうなっていくと予測されますか?


西出氏:今後,米国が運用するGPS衛星をはじめ,ロシアのGLONASSや日本の準天頂衛星,また現在計画されている欧州連合(EU)のGalileo,さらには中国の北斗など,各国が多くの人工衛星を打ち上げ,さらに測位の精度が上がります.日本などのアジア地域は特に人工衛星の信号を受けやすい地域となります.


 当社は,これまでの受信機の開発経験を生かし,新たな測位信号へ対応していく計画です.具体的にはマルチGNSS(Global Navigation Satellite System)対応の受信機と,準天頂衛星を利用したcm精度対応の受信機の開発に力を入れて行きたいと思っています.

 

●参考URL
(1) Embbedded Technlogy 2012;ETアワード2012発表のページ

 

 

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