ARMキー・テクノロジー解説02 ―― Mali-T600シリーズで実現可能になる組み込み向けGPUコンピューティングとアプリケーション例
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2012年11月 9日
2012年は,ARM Mali GPUにとって転機といえるほどのとても大きな年になりました.ARM GPU Mali-400シリーズは,世界中の200以上の製品に搭載されるようになり,今年1年間の出荷数量は1億台以上にのぼります.その数字を大きく牽引した要因として,多くのデジタルTVやスマートフォンにMali-400シリーズが採用されたことがあげられます.その一方で,Mali-T600シリーズの採用が好調で,年末にはMali-T604を搭載した製品が次々にリリースされる予定です.こうした流れを受け,2013年,GPUはより高い性能を求められるとともに,GPUコンピューティングへと大きく舵が切られることが予想されます.そこでここでは,Mali-T600シリーズで実現可能になる組み込み向けGPUコンピューティングのトレンドとニーズについてご紹介します.
●スマートフォンと画像処理
今日,スマートフォンの世界的な普及により,パネルをタッチして操作する軽快でかつリッチなGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)は一般ユーザーにとってもはや当たり前で日常的なものになりました.そして軽快で快適なGUIの操作感を実現するために,多くのスマートフォンにGPUが搭載されています.その一方でスマートフォンは,インターネットアクセスはもちろん,デジタルカメラ機能やゲーム機能も高付加価値機能としてさらなる進化が進み,カメラ機能ではイメージスタビライザー(写真1)やパノラマ機能(写真2)などの画像処理,ゲーム機能では文字認識や顔認識を使うゲームアプリケーションが増えてきています.
写真1 イメージスタビライザー
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写真2 パノラマ機能
しかし,これらのアプリケーションは高速で複雑な算術演算性能を必要とし,バッテリー駆動を前提に設計されたスマートフォンのCPUリソースを膨大に消費してしまいます.アプリケーションの実行性能低下はもちろんのこと,スマートフォンのシステム性能を低下させる恐れがあるため,アプリケーション開発者は限られたCPUリソースのもとで,自社の技術を十分に発揮できずにいます.その中で,CPUリソースをほとんど消費せずかつ,複雑で多岐にわたるこれらアプリケーションを実行できるARMのGPGPU Mali-T600シリーズを用いたGPUコンピューティングが今,注目を集めています.
●デジタルTVとインターネットアプリケーション
デジタルTVのハイエンドモデルでは高い品質のGUIが大きな付加価値となり,スマートフォン同様,高品質で軽快な操作感を実現するためにGPUが搭載されています.その一方で,インターネットの世界的な普及に伴って,インターネットアクセスをメイン機能としたSmartTVが世界的に出荷されています.ユーザーは様々なインターネットアプリケーションがTVで実行できるようになりますが,同時にHTML5.0やウェブブラウザといったインターネットアプリケーションはデジタルTV用に設計されたSoC内部のCPUリソースを膨大に消費してしまい,システム性能低下を引き起こす懸念が生じています.
GPU Computingはこれらアプリケーションに消費していた膨大なCPUリソースを軽減させ,TVとしてのシステムを安定させます.また,アプリケーション開発者は,重い処理を必要とするものの,より高機能で製品として付加価値の高いアプリケーションをGPUによって実行可能にするとともに,さらに進化したユーザーエクスペリエンスを提供することができます.
●GPUコンピューティングに必要不可欠な機能
GPUコンピューティングにおいては,単にGPGPUによって算術演算処理を行うだけでは演算性能はもちろん,システム性能の向上は図れません.より最適に効率よく実現させるためには,開発段階からGPUコンピューティングを想定し,かつCPUとGPUの協調動作を前提に設計され,またGPUコンピューティングを実行するフレームワークをサポートしていなければなりません.ARMのMali-T600シリーズはGPUコンピューティングを効率的に実行させるために設計されており,次にあげるこれらの機能をサポートしています.