拝啓 半導体エンジニアさま(41) ―― ルネサスだけではない! 日本の半導体業界全体に突きつけられたビジネス・スタンスの「選択」

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2012年10月 1日

 選択というのは,進んで行うこともあれば,迫られて行わなければならなくなることもあると思います.筆者などは,どちらかというと,後者の方が多い気がするのですが,皆さんはいかがでしょうか.

 勝手な意見ですが,半導体業界のビジネス上のスタンスにも2種類の選択があるように思います.2種類といっても完全にどちらか一方ということは少なく,一人の人や一つの会社の中で,ある割合でせめぎ合っていたり,時と共に変化したりします.けれども,表に出るときにはどちらか一方の顔が現れてくるので,大枠では二者択一と言ってもよいのかもしれません.

 

●半導体ビジネス,三つの数字 vs. 新市場開拓

 一方は,極端に言うと,たった三つの数字でビジネスを進める選択です.三つとは,「数量」,「納期の日付」,そして「価格」です.まあ,これに半導体デバイスの「型番」を加えて四つと言ってもよいかもしれません.いうまでもなく,これら三つの数字は半導体に限らずどのようなビジネスでも基本の数字で,おろそかにはできません.それどころか,一つの「納期の日付」を確定させるために走り回る関係者の方々の汗と涙,一つの「価格」の数字を積み上げるための知恵と努力には,本当に大変なものがある,ということは皆さんよくご存じだと思います.しかし,突き詰めると三つの数字だけ.つまりは,他社との差異化といってもこの3点につきるわけで,いかに早く安く数をこなすか,という点に集約されてしまうわけです.

 これに対して,もう一つのタイプは,まずは使ってもらうお客さんに,これが何に使えて,どのようなご利益があるのかを説明・説得してビジネスを進める,というものです.まずは伝道というか布教活動が必要になります.はっきり言って時間はかかるし,肝心の数字が決まるのがいつになるのか分からず,信じるものだけが救われるというか,社内ですら付いてきてくれる人が限られたりします.けれども新市場などというものは,その時点では「価格」にしろ「数量」にしろ,実績の数字が存在しないわけで,こういう先を見た活動を行わないと,新しい展開は期待できないと思います.

 この2種類の選択について,それなりにバランスがとれているのが良いと思うのです.少し前までは,日本のどの半導体会社もそれなりにバランスがとれていたように思うのですが,昨今は,前者の「三つの数字」を重視する側に偏ってしまっているような気がします.まずは目先のビジネス優先で,キャッシュを回していかなければならないというのは分かるのですが,それに偏るあまり,先につながる布石を打たないでいると,じり貧の状態から抜け出せない蟻地獄にはまり込んでしまいそうです.

 

●ルネサス問題,外資系ファンド vs. 国内ファンド

 こうした中,さらに難しい選択をせまられそうな状況にあるのが,ルネサス エレクトロニクスです.報道によれば,外資系ファンドが「買い」に来ているようですね.これに対して,お国の旗振りにより国内でお金を集めて『みんなのルネサス』を外資の買収から守ろう,という話もあるようです.

 どちらが良いのか? それともどちらも良くないのか? 筆者にはちょっと判断がつきません.けれども外資系ファンドの場合,数年くらいで建て直しを行い,誰かに転売して利益を出さないと,彼らにとってもメリットがないのではないかと想像します.すると,外資に買収された場合,それほど遠くない時期に,バランス・シート上では「良い会社」になる可能性が高いのではないかと考えます.まあそうならない場合は,外資系ファンドがビジネスに失敗した,ということになるのでしょうが....

 バランス・シートだけなら良いのですが,外資系ファンドによる買収話に抵抗する人が多いのは,その建て直しの過程で,資産の切り売りが発生するとか,事業の大規模再編で雇用がどうなるとか,いままで頼ってきた製品ラインを止められたら困るとか,蓄積した技術が海外に流出しないかとか,諸々の危惧が存在するからだと思います.当然,かなり思いきった手を打たなければバランス・シートの改善など出来そうにない状況にあるわけで,そういった危惧は当然だと思います.

 みんなでお金を出した国内ファンドがルネサスを買ったとすれば,先ほど挙げたような危惧は,とりあえず回避されるでしょう.しかし,みんなでお金を出したからといって,おそらく,意見が簡単にまとまりそうにない関係者の意見をすべて聞いていたら,既存のものにはそのまま手を付けられず,ずるずると問題が先延ばしになるだけのような気もします.結局,打てる手というのは外資に買われた場合とさほど変わらないのだけれど,意見調整に手間取る分,アクションが遅くなるだけ,ということも考えられます(奔走している関係者の皆さま,すみません).

 ルネサス エレクトロニクスがかなり難しい選択を迫られているのは事実でしょう.しかしルネサスに限らず,今を乗り切ることを優先するのか,先を見て手を打っていくのか,半導体業界全体が選択を迫られているように思えます.

 

 

ジョゼフ・はんげつ

 

 

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