組み込み業界と半導体業界の積極的なコラボで新市場の創造を ―― 機器制御のためのAPI「OpenEL」を標準化
●オープン・イノベーションで半導体産業の復活を
OpenELはハードウェアの入出力を抽象化するライブラリなので,マイコンやマイクロプロセッサ,および周辺IPコアに関係なく,ユーザがアプリケーションを開発できるようになります.そうすると,必然的に安いマイコン,安い周辺IPコアを開発したLSIメーカが勝つことになります(リアルタイムOSが使用されるようになって以来,すでにそのような状況になっているが...).
実際,英国ARM社はハードウェアを抽象化するインターフェースを提案しています.CMSIS(Cortex Microcontroller Software Interface Standard)は,Cortex-Mシリーズ向けのベンダに依存しないハードウェア抽象化レイヤです.つまり,CMSISを使用してアプリケーションを開発すれば,Cortex-Mコアを採用しているプロセッサであれば,どのプロセッサでも同じようにアプリケーションが動作します.こうなると,半導体メーカにとっては,「レッドオーシャン(血で血を洗う競争の激しい領域)」の世界になってしまいます.
そこで,これからのLSI設計に求められるのが,社内外のリソースを積極的に活用するオープン・イノベーションです.具体的には,組み込み業界との積極的なコラボレーションの一つとして,OpenELに対応して新市場を創造することを提案します.ビジネスになるかどうかは社内で検討していただくとして,まずはいくつかのアイデアがすぐに思いつきます.
例えば,以下のものです.
- ロボット専用マイコン(OpenELチップ)
- OpenELに対応したセンサ入力処理専用マイコン
- OpenELに対応したモータ出力処理専用マイコン
半導体メーカのエンジニアが仕様策定作業に参加すれば,最新の仕様をいち早く入手できますし,自社の得意とするところを仕様に盛り込むことも可能となります.OpenELの仕様はオープンですが,OpenELに対応させるための実装のノウハウは各社でブラックボックス化することが可能です(他社への技術の流出を防げる).OpenELチップやOpenELに対応したマイコンでロボット事業への技術的参入障壁を緩和・撤廃できれば,新しい巨大な市場を創造できることでしょう.
半導体メーカのエンジニアの皆さんが,OpenELの仕様策定作業に積極的に参加していただけることを切に望みます.
●参考資料,参考URL
(1) 済賀 宣昭;技術者から見たビジネスとしての組み込み業界(第1回~第4回),Interface,2011年5月号,6月号,7月号,9月号.
(2) 福島 彰一郎;「日本型オープン・イノベーション」クローズド・イノベーションで競争力を失った日本製造業が再び「オープン・イノベーション」で復活するには(1)~(5),2010年2月17日~2011年1月19日,NUTURE NETWORKS.
(3) ARM社;CMSIS - Cortexマイクロコントローラ ソフトウェア インタフェース規格.
なかむら・けんいち
一般社団法人 組込みシステム技術協会 技術本部 応用技術調査委員会 プラットフォーム研究会 委員長 / アップウィンドテクノロジー・インコーポレイテッド 代表取締役社長