拝啓 半導体エンジニアさま(40) ―― Apple社,Samsung社の係争で明らかになる日本勢の意外な存在感と「プロデュース力」の欠如

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2012年8月28日

 Apple社とSamsung Electronics社の訴訟合戦が続いているのはご存知のとおりだと思います.報道によれば,全世界で50以上もの訴訟が提起されているそうです.既に最初のレベルで判決の出た地域も複数あり,注目度が高いのでメディアもその度に取り上げています.つい先日の韓国での訴訟の判決は両社「相打ち」状態,その後の米国での訴訟の判決はSamsung社敗訴で10億ドル以上の賠償だそうです.日本での判決も近いので,当分の間,注目され続けることでしょう.

 

●「カッコよさ」をユーザ・インターフェース技術特許に帰着して争う

 訴訟のニュースなので当然なのですが,最初は,「どちらが勝ったのか?」,「どちらかのスマートフォンが販売差し止めになってしまうのか?」,「賠償金の額は?」といった訴訟や両社の経営に直結する事がらのみに関心が集まっていたようです.通常の訴訟であれば,判決が出たところで伝えるしかない話で,法廷での途中経過や,実際に争いになっている特許の詳しい内容,といった地味な部分はあまりニュースにならないのではないかと思います.けれど,記憶に残っているところでは,英国で「Samsung製品はAppler製品ほど格好よくない」的なSamsung社にしてみれば喜んでよいのか悲しんでよいのか分からない判決が出て,どうもこれが「世の中にうけた」せいか,途中経過や訴訟の背景にある両社の開発過程などにも注目が集まるようになっています.特に,新製品に関する秘密主義を貫いてきたApple社の開発過程の裏情報が出てくるので,耳目を引きつけている感じがします.

 それらを見るに,Apple社は1個1個の技術というより,全体としてのルック・アンド・フィールというか見た目や使い勝手の「全体的な雰囲気やカッコよさ」をまねされたくない,しかし現行の特許制度の元では個別のユーザ・インターフェース技術の特許などに帰着させて争うしかない,というところのようです.Samsung社としては,切り返すためにいかにもテクニカルな「無線通信」などの特許で対抗する,そんな構図が見えます.大きな賠償金はもちろん,主要市場での販売差し止めのような事態ともなれば企業イメージにも影響するので,目が離せません.

 

●ガラパゴス携帯こそがもっとも先進的だった

 そのApple社,Samsung社のスマホ2強の争いに対して「蚊帳の外」にいるかのように見える日本勢なのですが,訴訟の過程で意外な存在感があることが分かりました.実はApple社のソフィスティケイテッドなユーザ・インターフェースに至る道筋に,先行する日本勢の技術がある,というのです.

 ぶっちゃけ「Apple社もパクっているではないか」というようなSamsung社側の指摘です.ガラパゴス携帯などと揶揄(やゆ)されていますが,スマートフォン以前の携帯電話の世界では日本製携帯こそがもっとも先進的かつ高機能な携帯電話であったと思われます.そこで開発されていた技術に,今につながる先行的なものがあるというのは,当然と言えば当然だと思います.Apple社にせよ,Samsung社にせよ,そういう先行製品や技術について調べつくした上で,現行製品に至っていることは間違いありません.

 しかし残念ながら,現在の日本勢はそれらの先行技術を生かすことなく,ジリ貧状態です.「円高などで電子機器産業が衰退したから」とか,「市場特性が世界の流行とは大いに異なる日本列島でガラパゴス化したから」とか,理由は繰り返し分析されてきましたが,あえて一つ付け加えるとすれば,「プロデュース力」の不在といったことが痛感されます.

 

●コンセプトの統一,それを支えるインフラ投資,ビジネス・モデルの構築が必要

 日本の場合,一つ一つの個別技術についてはApple社にも先行していました.しかしそれらの技術は,過去の製品のインクリメンタルな(逐次改善的な)追加機能としてのみ実装されており,新技術を糾合した新しいコンセプトの製品に結集することはついになかった,と考えられるのです.大きくブレークする新コンセプトを可能にするアクションをひと言で言えば「プロデュース力」でしょう.皆が言うでしょうが,Apple社の場合,今は亡きスティーブ・ジョブズ氏に象徴される能力です.

 「プロデュース力」という場合,それは単に一製品にとどまらないコンセプトの統一,それを支えるインフラ投資,ビジネス・モデルの構築ほか,総合力の発揮とでもいうべきものであると考えます.日本勢は,各個の技術開発ではけっこう見るべきものがあったのだけれど,総合力が発揮できず,決勝戦に出場するはるか以前に敗れ去ってしまったように感じられます.

 総合力の発揮,などということは日本企業のお家芸であったはずなのですが,近年,実はその部分の劣化が激しかったのではないかと思っています.リスクを取らず(取れず),狭い範囲の個別最適のみを繰り返してきたためだと考えられます.先行したのだけれど大きな市場を作ることができなかった日本.それをよく研究して,個別の技術力というより,プロデュース力で大きな市場を開いてみせたApple社,そのApple社のコンセプトを追いかけて勝負にでたSamsung社といったところでしょうか.

 いまや存亡の危機にたつ日本の電子機器産業,そして電子デバイス産業です.巻き返しのためにはプロデュース力とでもいうべきものを再構築しなければならないと思います.そうしたらApple社やSamsung社の訴訟合戦に混ぜてもらえる(?!)ような企業も出てくるかもしれません.


 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日