拝啓 半導体エンジニアさま(37) ―― ルネサスの人員削減報道を考える,私たちエンジニアは企業の「リストラ」をどう理解し,どう受け止めるか

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2012年5月28日

 今回は,暗い話です.ルネサス エレクトロニクスの再建策の中で示されている人員削減,それも削減人数が(数日前に報道されていた)6,000人から12,000人へ倍増する,というニュースです.新聞各紙の1面に掲載されていたのですから,当コラムで触れないわけにはいきません(ただし同社は,2012年5月28日現在,「決定した事実はない」とコメントしているようだ).

 

●「短期間に」,「一発で」,「大きく」変えるリストラがうまくいきやすい

 ここに至ってしまった経緯については,皆さんがいろいろな見方で書かれているので,今回はあえてそこには触れません.ここでは,「リストラ」に焦点を絞って話を進めます.蛇足ですが,バブル崩壊直後は「リストラ」という言葉が一般的に使われていましたが,このごろは違う言葉で表現することが多いようです.ただし,言葉は変わっても実体は変わりません.筆者自身も当事者になったことが1度ならずあり,いろいろなことを見聞きしてきました.

 リストラは,当事者からすれば切実な問題です.働いている側からすれば,生活がかかっています.経営者にとっても大問題で,誰も長くだらだらとリストラを続けたい,などと思っている関係者はいないでしょう.短い期間でさっさと終わらせ,その後は前を向いて先に進もう,と誰もが思っているはずです.実際,リストラがうまくいった例では,「短期間に」,「一発で」,「大きく」変える,ということが共通しているように思います.これに対して失敗した例では,環境変化に対して後手に回り続け,「長期間に」渡って,結果的には「何度も」,「小出しに」ずるずると続けたあげく,会社そのものが消えてなくなる,という例もままあります.

 そのような過去の記憶に照らし合わせると,「(削減人数の)追加」というのは悪い方のシナリオに乗っている恐れが大ではないかという気がしてきます.当然ながら,この手の施策については検討を重ねた上でまとめられているのだと思います.それが,短期間のうちに「追加」を迫られるというのは,経営や資金を出す側,お金を貸している側のコンセンサスに乱れがあり,先の着地点もよく見えていない,ということが明らかです.このコンセンサスの乱れ,というのが大変なくせもので,リストラがだらだらと長く続く要因の一つになっているようです.大きい組織になればなるほど,それぞれいろいろな立場やもくろみを持った人々がかかわっています.それぞれの立場の利害が相克すると,それぞれの当事者が誰もコントロール不能な状態に陥り,その場その場の対応を続けたあげくに,長くだらだらと着地点の見えないリストラを続けながら消耗していくような状態に陥るわけです.

 断っておきますが,これは筆者が見聞きした「過去の例」ではそうだった,ということです.

 

●帳簿の数字に表れてこない要素もリストラの成否に影響

 そこでまた,リストラを短期間で済ませるべく,非常に一方的な施策を働く側に押し付けてくるような経営者もいます.矛盾を従業員で解決してしまおうとするケースです.端的に言えば,人員削減を進めるために従業員を「説得」しよう,と試みるわけです.しかし,根本的にここには利害の相克があるので「説得」はうまくいきません.リストラ費用をケチって安く済ませようとすればするほどもめて後を引き,「短期間に」,「一発で」の理想からは遠のくことになります.残念ですが,結局はお金の問題に帰着します.出すべきところで出さないと,ここでのコンセンサスは得られません.

 幸いルネサスは立派な会社で,そのようなワンマンな人はいないでしょう.ただし,どこからお金を捻出するのかというのが問題で,これがうまくいかないと,「だらだらずるずる」の失敗パターンに落ち込みかねないと思います.

 そして着地点も問題です.あれこれいろいろと削減し,ここで帳尻が合うからそこで踏みとどまって,そこから反撃に出る,とシナリオを書くわけです.しかし,そのようなシナリオでは,本当に「帳尻」,つまり経理的なお金の出し入れのみを勘案して構築されることが多いので,帳簿の数字に表れてこないもの,例えばリストラの負の効果といったものは織り込んでいないことが多いように思います.

 組織は生き物で,かつ商売も相手のあることです.帳簿から予想されるようには動いてくれません.リストラを行っている最中であっても,投資して新しい製品を作らなければ,先はありません.そして新しい製品に魅力がなければ,お客も離れていってしまいます.普段であっても,なかなかうまくやりきることが容易ではないのに,これを乱気流状態の中で実施しなければならないのです.「帳尻」の数字では出来るはずだったことが,気付いたら実現できない,というケースはままあると思います.

 

●適切なアイデアと技術があれば,規模にかかわらずチャンスはある

 最後に大事なのは,エンジニアのやりがいの問題です.もちろん生活がかかっており,職を失えば大弱りなのですが,一番,心に重くのしかかるのは,それまで一生懸命に取り組んできた自分のテーマが消えてしまうことではないかと思います.それは,どれだけ長くそのテーマに取り組んできたか,あるいはどれだけ深く入り込んでいたか,ということに左右されると思います.長らく真剣にやってきたことが突然できなくなる,無くなる,というのは辛いことです.「次に何をやる」ということが決まっていれば,なんとか心を切り替えて前向きになれると思うのですが,次の目標が決まらないまま職を離れる,というのは誠にきつい状況です.

 ここでは,あえてカラ元気なことを書かせていただきます.昔を振り返ると,半導体業界はスピンアウトにつぐスピンアウトで業界が出来上がってきました.そのころはまだ,日本も米国もお金があって,出資する人がいたから出来たのだ,と言われるかもしれません.けれど,このところの社会の潮流を考えると,今では生産設備を持っていなくても,適切なアイデアと技術力,そしてそれを広める何かのきっかけがあれば,個人でも規模の小さなベンチャでも,それを世の中に広めることは不可能ではない,と思えるのです.かえって動きの鈍い大企業より,うまくできる領域がありそうです.

 ただ,それには従来の半導体ビジネスの「型」を捨て去る必要がありそうですが....

 

ジョゼフ・はんげつ

 

 

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