電気・電子技術者が自身の知識や技量を測るための"ものさし"を開発(前編) ―― 技術者の,技術者による,技術者のための試験制度「E検定」

筧 達也

筆者ら(フュートレック)は,電気および電子関係の技術者の知識や応用力の力量を客観的に測るための技術試験制度「E検定 ~電気・電子系技術検定試験~」を開発した.個人向けの試験は,2012年3月25日から実施する(運営はCQ出版社が担当).この試験は,おもに若手から中堅の開発技術者を想定して作成しており,難易度によりレベル分けした設問で技術的な知識や応用力を測る.ここでは,「E検定」を開発した目的や趣旨について説明する.

 

 日本の「ものづくり」に対する技術力の低下が懸念されています.

 ディジタル技術やIT(Information Technology)の発展により,コストが安く品質の高い製品を作ることが可能となった反面,独自性のある製品を開発することが難しくなっています.そして企業では,ディジタルやソフトウェアの技術者の育成・確保に力を入れています.

 しかし,それらの基盤となる電気・電子系のハードウェア技術者の育成にはあまり力が注がれていないようです.その結果,日本の「ものづくり」の技術力が低下し,海外依存が進み,さらに技術力が低下する,という「負のスパイラル」に陥っているように見えます.

 日本の得意分野である電気自動車や環境対応製品(エコ・プロダクツ)など,新しい技術・製品の創造を軸とした産業には,ハードウェア技術とソフトウェア技術の融合が必須となっています.技術者には,多様なニーズに応えるために必要な知識をいかに短期間で習得し,応用できるかが重要となります.

 技術者が分業化によって狭められてきた担当業務の枠を超え,新しい発想により時代が求める製品を生み出す原動力となるように,また,幅広い知識を継続的に身に付けるきっかけとなることを目的として,筆者ら(フュートレック)は新しい技術試験制度「E検定 ~電気・電子系技術検定試験~」注1を開発しました.

注1:「E検定」の概要,およびお申し込み方法についてはこちらを参照.

 

●現役の熟練技術者が教育プログラムを作るのが理想

 理想の技術者教育とは何であるかについては,いろいろな議論があるかと思います.一般には,「学校で習った技術的知識をどう実務に生かすか」が重要である,という認識を持っている方が多いかと思います(図1).そこで,多くの電気・電子系メーカでは教育担当部署の方が教育プログラムを企画し,社内の技術者を講師に選定してセミナを行ったり,あるいは社外で企画されたセミナに参加させたりしているかと思います.

 

図1 学校の勉強 vs. 実務

 

 企業の熟練技術者の方は知識が豊富で理想の"先生"ですが,通常は自分の業務で手いっぱいの場合が多いかと思います.教育担当部署から技術教育の依頼が来ると,「忙しいのになぁ」と感じながら,半分渋々(?)と仕事の合間にセミナの講師を務めているのではないでしょうか.ここで重要なことは,企業の大半の技術者は「技術」の専門家ではあっても,「教育」の専門家ではないということです.

 一方,教育担当部署は技術者に対する教育プログラムを考え,実施していますが,彼ら自身は必ずしも技術者ではありません.教育の問題が重要であることは認識しながらも,電気・電子関係の現役の技術者の方が教育担当の仕事を志願することは,なかなかないと思います.
 また,市販されている多くの技術系の専門書は大学や高専の先生が執筆しています.私見ではありますが,これらの書籍は理論的に正確に説明することを主眼に置いており,実務に必要かどうかという観点で内容が記述されている書籍は少ないように感じます.実務にどう役立つのか,疑問に感じられることもあります.

 こうした思いから,「技術者のための生きた教育プログラム,実務に役立つ教育プログラムは,設計や製品開発に取り組んでいる熟練した技術者自身が作るべきだ」と筆者らは考えました(図2).今回の「E検定」の試験問題を作成しているメンバは,電気,電子,半導体,機械など,複数の専門分野の現役の技術者で構成されています.「設計や製品開発にとって役立つ技術内容が何なのか」という視点で問題作成に当たっている点が,一般の専門書や技術教材などとの違いです.

 

図2 技術者自身で問題を作る

 

●技量の「ものさし」がほしい

 もうひとつ重要な点は,教育を行うにしても,各技術者の現状の技量を把握する適切な「ものさし」が必要であるということです(図3).現状では,そのような適当な「ものさし」がないため,技量や目指すべき技術者のレベルが漠然としたまま,教育を行っていることが多いようです.筆者らは技術者の技量の「見える化」が技術者の教育において非常に重要であると考えており,今回の「E検定」を開発するにあたっての大きなモチベーションとなっています.

 

図3 技量の「ものさし」が必要

 

 電気・電子関係の企業の一般的な技術者にとって,実は資格というものはありません.エレクトロニクスの回路,プリント基板,センサなどを開発している技術者は,何か資格がないと設計できないかというとそういうわけではありません.例えばテレビを開発している技術者はテレビの設計のための資格がいるわけではありません.すなわち,一般的な電気・電子関係の業務のうち,多くの割合を占める「弱電」に属する業務では,特に資格を必要としていません.

 そのためもあってか,技術者一人一人の技量を測る目安となるものが現状ではなく,個々のレベルを判断することが難しくなっています.ただ,どこの企業でも「あの人は電気・電子に関してとても詳しい」とか,「あの人はあまり詳しくなさそう」といったような感覚的な評価は行われていると思います.このような感覚的な評価をもう少し「見える化」するための「ものさし」を作ることが,「E検定」の重要な目的の一つです.

 電気・電子についての技量を数値的に明確化できれば,個々の技術者の側からみると自分の得意分野を認識でき,かつ得意分野をアピールする材料となります.企業の側からみるとどの技術者がどの分野に強いかを把握でき,適切な人材配置の参考となります.また,他部署や他企業との相対的な比較が行えます.さらに,技術者を採用する際の判断材料の一つになると考えられます.

 「E検定」はある専門分野についての資格試験ではありません.よって,ある合格点に相当するような点数を取得すること,あるいは満点をとることなどが目的ではありません.あくまでも技量を測ることが目的です.広い範囲に渡って,さまざまな角度から問題が出題されているので,難易度は高めに感じる人が多いかと思います.

 

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