拝啓 半導体エンジニアさま(32) ―― 2011年を振り返る,混乱期こそ次世代の技術の"芽"を仕込むとき

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2011年12月28日

 2011年は,半導体業界にとって「七難八苦」と言ってもよい1年でした.震災に始まり,それに続いた原発事故は広い範囲に被害をもたらしました.その上,原発事故をきっかけとして電力不足が全国に波及し,操業に影響したところも多いかと思います.また東北の部品工場の被災は,全世界的なサプライ・チェーンにダメージを与えました.震災後,「リスク分散のためにも海外生産を!」などと叫ばれていたかと思ったら,今度はタイで大洪水が起こり,海外生産にもリスクは大有りということが示されてしまいました.

 半導体に限らずほとんどすべての製造業がこれほどサプライ・チェーンの復旧と維持に走り回った年は,かつてなかったのではないかと思います.そして,いまだに続く欧州危機によって円高が進み,輸出に頼る電機や半導体などの製造業のダメージが続いています.価格競争力は低下する一方であり,産業の空洞化も進んでいます.

 2011年末には,そのようなトレンドに対して象徴的なニュースが流れました.米国ON Semiconductor社に買収された三洋半導体のタイの子会社が洪水の被害から立ち直れずに閉鎖となった件,そしてシルトロニック・ジャパンの山口県光市のシリコン・ウェハ工場が閉鎖となった件です.どちらも,働いておられた方々にとっては大変な事態ですが,規模について考えると「大規模工場」というほどではないようです.しかし,2011年に表面化した問題をまさに集約している事例のように見えます.また,こうしてニュースとして挙がるのは一部であり,似たような苦しさはあまねく業界すべてに蔓延しているように思います.

 

●技術の芽を守り育てようという気概や執念が不可欠

 そんな混乱期の業界ですが,不況の混乱期にこそ次世代の技術の"芽"が仕込まれているのだ,という見方もあります.好況で右肩上がりのときは,既にあるものを拡大再生産していけば間違いないのですが,不況の混乱期では今ままでと同じことをしていても生き残れません.皆で必死に知恵を絞り,活路を見いだそうとします.きっとそんな芽を作り出すことに取り組まれている方もいることでしょう.その芽のうちの幾つかが,好況期に至るとがぜん「ブレーク」するのだろうと言われるわけです.

 しかし,どうも凡人には「ブレーク」し始めて,ようやくその芽が大きく伸びる芽だったのだと気付くのがせいぜいのようです.事前に先が見通せていれば大もうけできるのですが,過去の経験からいっても,どうもそうはうまく行きません.大したものではないだろうとノーマークだったものが,急に伸びることがままあります.その反面,期待されていたわりには大したことがなく,気付いたときには消えているものもありました.実際には玉石混交であり,どの芽が育つのやらそうでないのやらは,そうそう簡単に分かるものではないようです.それどころか,育たない芽の中にも実は良いものもたくさんあって,伸びるか伸びないかは置かれた環境しだい,という側面があるのではないかと思います.

 遠くからみると,うまく育つか否かは「確率的」な問題に見えますが,近寄ってみると,その技術の芽を守り育てようという気概や執念がないと,モノになるものであってもそうならないと感じられます.出たばかりの芽は弱いものなので,しばらくの間は守り育てないとブレークするスタート・ラインに立てません.どうも先が見通せて「もうけている人」というのは,技術的な伸びる伸びないの可能性より,育てる力を見抜いているように思われます.そのあたりが凡人との違いでしょうか.

 凡人としては,自分が取り組んでいる技術が出る芽だと信じてがんばるしかないのでしょう.そういった中からブレークするものが出てくれば,たとえそれが自分が直接携わっていたものではないにせよ,いずれ巡り巡って良いことがある,と考えるくらいなのだろうと思います.

 

●「芽吹かせる」時期の見極めも重要

 それにしても,仕込まれた芽が一斉にブレークするようなときこそ,冷え込みが緩んで暖かい市場がしばらく安定して続いてもらいたいものだと思います.確かに混乱は新しい知恵を絞り出すのに適した環境だと思いますが,新しい芽が大きく育つときには安定が必要だと思うからです.不安定な状況下の変なタイミングで芽吹いてしまうと,その後の冷え込みでせっかくの芽がしぼんでしまいかねません.

 過去の歴史を振り返れば,混乱期は変動幅も大きいようです.冷え込みが続いたかと思うと,一瞬,急に緩み,しかしまた急降下といったブレがつきものだと思います.「芽吹かせる」時期の見極めも大事でしょう.

 新しい年に期待したい一番として,そんな芽が出るにふさわしい安定した環境が戻ってほしいものです.さて2012年はどうでしょうか.まだまだ「早い」でしょうか.持ち直すでしょうか.それとも,もう当分,日本の業界にはそのようなターンは回ってこない? それだと悲しすぎます.よい年になってほしいですねぇ.

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

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