拝啓 半導体エンジニアさま(31) ―― IT業界が注目する「ビッグ・データ」を半導体ビジネスの側から見ると...

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2011年11月30日

 このごろよく聞く言葉に「ビッグ・データ」があります.半導体技術者からすると,半導体メモリが「ギガ」オーダ,ハード・ディスクが「テラ」オーダの容量になっている昨今,どのくらい大きければ「ビッグ」なんだと,まずは疑問に思ってしまいます.どうも最低でも「テラ」の上の方か「ペタ」クラスに入ってこないと,大手を振って「ビッグ」とは言えないようです.当然,クラウド・コンピューティングの環境が前提になるのでしょう.

 

●非定型データの継続的かつリアルタイムな分析をもとに価値を見つけ出す

 「クラウド」という言葉があまりにも手あかがつきすぎた感じになってきたので,「またぞろIT業者が新しい言葉でひともうけ企んでいるのか(失礼!?)」とも思いました.なにせ半導体業界は部品供給の面でIT業界を支えているはずなのですが,残念ながらITビジネスの成長の恩恵からは遠いところであえいでいるのが実情です.素直にIT業界の新しいセールス・トークには乗れないところがあると思うのですが,どうでしょう?

 とはいえ,ついつい規模を示す数字に目が行きがちな半導体技術者としては,「テラ」とか「ペタ」とか言われるだけで,どのようなチップが何個くらい必要か? などと考えてしまうことしきりです.しかし専門家からは,「ビッグ・データ」といってもデータの量が問題ではないのだ,とピシャリと言われてしまいます.

 単に大量のデータがあるだけではなく,それが「常時,流れ込んで」いないとだめなのだそうです.昔風にいうなら,バックアップ・テープの中に記録されているだけではだめだと.「常時,流れ込んで」くると言われると,モバイルやセンサ・ネットワークなどをイメージします.しかしそれだけではなく,「常時,流れ出して」いないとだめなようです.例えば,ストリーミング配信のようなイメージでしょうか.

 そして肝心なことは,非定型のデータを絶えず分析して「何かを見つけ出し」,それをビジネスの付加価値に換えていくことこそが「ビッグ・データ」の本質なのだそうです.

 

●「ビッグ・データ」の概念は,製造業の「QC活動」と類似

 そこまで言われて,はたと思い出したことがあります.半導体メーカに所属するエンジニアの方であれば,ほぼ必ず経験があるであろう,品質改善のための「QC(Quality Control)活動」です.どのくらいまじめに取り組んできたかは,ここでは問わないでおきましょう.けれど皆さん,きっと知っていますよね.データを一生懸命集めて統計をとり,グラフに書いて分析し,改善アクションをとってみる.そして効果をまたデータから読み取って...,という具合です.

 そう言えば,昔,習った「QC七つ道具」はわりと定型的なツールでしたが,「新QC七つ道具」といって後から教わったもの(このごろの若い人は,最初からこちらを習うのかもしれないが...)は,非定型データに目を向けていませんでしたっけ? まさに「ビッグ・データ」を分析してそこから「価値」を見つけ出す,という概念といっしょのような気がしてきました.

 ただし,QC活動が白い模造紙にグラフを書いて...,というあんばいだったのに対して,「ビッグ・データ」では巨大なデータベースと分析ツールが自動的に稼働しているところが大きく異なります.今までは,人間が走り回って(?)データを集め,グラフに書いて,「どうしたものか」と頭をひねり,対策を打っていたその過程を,すべてITで自動化してしまおう,という大それた話だったわけです.

 実際,人間のQCサークルでは24時間365日,カイゼン,カイゼンとやっていられるわけもありません.極端なことを言うと,「機械にできる改善活動を人間がやるな!」,ということになってしまうかもしれません.

 筆者らのような製造業のエンジニアが身近な現場に適用することを考えると,「ビッグ・データ」はQC活動とかぶって見えます.一方,今までそういう活動とは無縁だった非製造の分野では,非常にインパクトが大きいのだと思います(もちろん費用対効果の問題があるので,「ビッグ・データ」のおかげで全国津々浦々のQCサークルが絶滅する,というようなことはないだろう).

 

●半導体業界への影響は?

 この「ビッグ・データ」のビジネスを考えると,一番付加価値を生み出す(お金をいただける)のは,「分析してアクションをとる」というプロセスでしょう.ですが,しがない部品屋である半導体企業には,この部分について出る幕はなさそうです.けれど,「常にデータを集める」,あるいは末端の「アクションをとる」という部分では,いろいろと仕事の機会がありそうにも思えます.

 ただ結局は,末端の「アクションをとる」の部分が中心になりそうです.それに,「部品を売り切っておしまい」でしょう.継続的改善で「価値」を「自動的に」生み出し続けようとしている(当然,継続的にお金もいだだく)IT業界と比べると,これはあんまりです.

 部品屋だって仕事は「継続的かつリアルタイムに」やり続けているのですが....

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

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