拝啓 半導体エンジニアさま(30) ―― プロスポーツとの対比で考える半導体企業のチーム運営

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2011年10月31日

 今年は震災があったためにだいぶ日程が遅くなっているようで,野球やサッカーなどのプロスポーツもようやく「決戦」のシーズンとなったようです.そのくせ,例年どおりの日程でオフシーズンの「編成」の時期を迎えているらしく,プロ野球のドラフトも終わりましたし,監督の交代や選手の放出,引退,移籍の噂といったニュースも流れてきます.自分のことでは大慌てですが,他人事,そしてプロスポーツとなると,あれやこれやと楽しく論評できるので,皆さん,この手のニュースに関心があるのでしょう.

 実際,筆者などもついついそういうニュースの記事に目を通してしまいます.畑違いの分野ではあるのですが,毎年思うのは,大本の部分では半導体業界とそれほど違わない部分があって,アナロジが成り立つのではないか,ということです.

 今回は,そんなニュースの尻馬に乗ってみたいと思います.

 

●プロジェクト・マネージャは「監督」に相当

 やはりプロスポーツで強豪と言うわれるようなチームを見てみると,単に良い選手が所属しているというだけでなく,監督以下のスタッフが優秀であり,そしてフロントと言われる経営・編成にあたる人たちも首尾一貫した方針で活動しているのが見て取れます.これに対して各層の間の関係がゴタゴタしているチームはどうもうまくいかないようです.そんなプロスポーツの組織を,半導体企業に当てはめれば,さしずめ各選手にあたるのがエンジニアであり,監督はプロジェクト・マネージャ,フロントは経営層といったところでしょうか.

 その中で,やはり監督にあたるプロジェクト・マネージャの役割は重要です.プロスポーツの選手ほどではないにせよ,癖のある人が多い(失礼!)エンジニアの皆さんをまとめて,一つの目的に向かわせなければならないのですから.

 大掛かりな開発ともなれば,いろいろな役割分担(ポジション)もあって,そこに誰を起用するのか,あるいはいつ交替を考えなければならないのか,常に気を配らなければなりません.その一方で,競合を分析し,その出方をにらんでそれを上回る製品を適切なタイミングで出さなければ,競争に勝てないわけです.

 プロの名監督といってもいろいろなタイプがあります.厳しくコントロールする人もいれば,プレーヤに気持ちよくプレイしてもらって力を引き出す人もいます.これと同じで,半導体企業のプロジェクト・マネージャにもいろいろなタイプが存在します.最低限,「敵(競合やその製品)を知り,己(自身の製品やその市場評価,エンジニアの力量)を知る」ことができていないと,問題があります.

 

●エース級のエンジニアをどう活用するか

 ただし,実際の試合ともなるとプレーするのは選手たちです.チーム・プレーはもちろんですが,絶対のエース・ピッチャーや,個人技1発で試合をひっくり返せるストライカーなどの選手が勝敗を左右します.エンジニアの中にもそういう人がいませんか? 彼(もしくは彼女)を起用すれば,局面を打開してくれるというような存在です.なにかトラブルが発生したけれど原因が分からない.納期は迫る.しかし「彼が担当したら,一晩で解決した」といった人です.そんな局面では,残念ながら若手のエンジニアを100人投入しても,1晩で解決できはしません.

 海外の半導体企業の中には,そういうエース級のエンジニアを大事にしているところがあります.プロスポーツにおいてエースを生かすためのチーム編成を行うように,そういう企業ではエースを生かすフォーメーションを組むことが多いように思います.

 一方,日本の企業では組織力が尊ばれ,個人技による打開が嫌われます.誰を入れても「同じように機能する」ことが,金科玉条のように守られているようです.中小のベンチャ企業などを除くと,エースを生かすためのチーム編成などはあまりなさていないように見えます.まあそれだけ,大手企業は粒のそろった厚い選手層が存在するのだ,ということかもしれませんが....

 プロスポーツでは時折,能力の高い選手と監督の間に軋れきがあり,起用の場所を得ないようなケースがあって,残念に思うことがあります.半導体エンジニアの場合も,力量のあるエンジニアを適切に起用せず,そうでない人を重要なポジションに付けたため,プロジェクトが危機に瀕する,というケースを何度か見聞きしました.

 監督(プロジェクト・マネージャ)が各人の力量をきちんと把握しきれていないケースが,ままあるのではないかと思います.長年いっしょに仕事をしてきていれば分かるのでしょうが,そうでない場合,エンジニアの力量を見抜いて適所に起用するというのは,サッカーの日本代表監督のやっている仕事と,実はあまり変わりがないのかもしれません.

 そんなエースも,衰えたり怪我をしたりするわけです.プロスポーツでも一人のエースに頼りきっていると,そのようなときにチームがガタガタとなるのは珍しくありません.そこで育成やらトレードやらがあるわけですが,この当たりになってくると,フロントの指導方針がだんだんクローズアップされてきます.

 

●経営層に求められることは...

 プロスポーツの場合,観客動員に成功して,十分な資金の流れを作り,それをチームに再投資できるような良い経営を行っているのが良いフロントということになるのでしょう.お客の心をつかみ,チームも強ければ,安泰です.これは半導体における「フロント」でも,ほぼ同じかもしれません.ここで「他山の石」となりそうなのは,プロスポーツの失敗事例でしょうか.

 やる気もお金もないフロントは論外として,やる気がありすぎて有名選手の獲得に過大な投資をして経営が危なくなったり,現場の作戦方針に口を出して混乱させたり,すぐに監督の首をすげ替えたりと,スポーツ・ニュースなどを読んでいると,その手の失敗事例は枚挙にいとまがないようです.どこまでが本当かは別として,なかなか一般の企業ではそのようなことは表に出ないことが多いので,(面白いといっては失礼だが)参考になります.

 遠目に見て分かるのは,市場開拓とチーム強化の方針がしっかりしていて,1度や2度の失敗にこりず,失敗をきちんと消化してその後の糧(かて)とし,粘り強く継続的に布石を打っているところが,なんだかんだ言っても結局強くなる,ということのようです.手っ取り早い人気取りや社内事情を優先した策などは,一瞬は効果が出ても,しばらくすると副作用の方が大きくなって,ガタガタしてしまうようです.そうなると,名将や名選手を擁していても,なかなか退勢を止められなくなります.

 やるべきことは明らかなようにも思えますが,そんなに簡単ではないのでしょうねぇ.

 

ジョセフ・はんげつ

 

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