SiCパワー,DDRメモリ,超高速伝送の最新技術動向を講演 ―― テクトロニクス・イノベーション・フォーラム 2011

福田 昭

tag: 半導体 実装 電子回路

レポート 2011年9月 9日

 計測機器大手の米国Tektronix社の日本法人であるテクトロニクスは,2011年9月6日,高速ディジタル技術やパワー・デバイス技術とその計測技術に関する講演会兼展示会「テクトロニクス・イノベーション・フォーラム 2011」を東京ステーションコンファレンス(東京都千代田区)にて開催した(写真1).

 

写真1 テクトロニクス・イノベーション・フォーラム 2011の来場者受付


 テクトロニクスは毎年秋に,顧客向けの技術講演会兼展示会を東京ステーションコンファレンスで開催している.昨年(2010年)は10月26日に,「テクトロニクス・イノベーション・フォーラム 2010」を開催した.

 同フォーラムは1日でテーマ別に数多くの講演を実施する.今年の講演本数は合計で31本あり,すべての講演を聴講することは不可能である.本稿では,筆者が聴講した講演に絞ってトピックスをお届けする.


●SiCパワー・デバイスがSiの限界を超える

 最初に紹介するのは,シリコンを超える性能を発揮すると期待されるパワー・デバイス用半導体化合物「SiC(シリコン・カーバイド)」のデバイスとモジュールの解説である.SiCデバイスを2010年に量産化したロームの中村 孝氏が講演した.

 SiCの特徴は大きく二つ.高耐圧と高温動作である.Siデバイスよりも基本的に耐圧が高く,高い温度でも半導体デバイスとして動作する.いずれもパワー・デバイスに適した特徴である.

 ロームのSiCデバイス開発体制は,SiC基板(ウェハ)の製造からデバイスの設計製造,モジュールの設計製造までの垂直統合型の一貫開発である(写真2).元々はデバイスの開発から始めたのだが,デバイスの原理的な性能を引き出すためには,基板(ウェハ)の品質改良が必須であることから基板も手掛けるようになり,また,SiCデバイスはパッケージング技術の改良が必須でモジュール化しないと販売しづらいことからモジュールも手掛けるようになったと説明していた.SiCのような新しい半導体材料はそもそも開発インフラが未熟であり,実績豊富なSiデバイスの開発よりもはるかに大変であることが分かる.

 

写真2 ロームのSiCデバイス開発体制


 SiCデバイスが狙うのは,耐圧が500~600V以上の領域である(写真3).500V以下の領域ではSiデバイスが強く,SiCデバイスが入り込むことはきわめて難しいという.パワー・デバイスは耐圧が600Vの製品と耐圧が1200Vの製品が大きな市場を形成しており,SiCデバイスも耐圧600V品と耐圧1200V品を開発し,一部は製品化済みである.

 

写真3 パワー・デバイスの応用分野


 ロームが製品化済みのSiCデバイスは大きく2種類.ショットキ・バリア・ダイオード(SBD)とDMOSFET(Double-Diffusion Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)である.

 耐圧が500~600VのSBDは,Siでは製造することがきわめて難しい.Si SBDの耐圧は200Vくらい.これは材料そのものの耐圧(電界強度)がSiは低く,SiCは高いためであり,本質的な違いである.このため耐圧600VクラスのSiダイオードはSBDではなく,pn接合ダイオードになる.

 pn接合ダイオードとSBDの違いは,スイッチング損失にある.特に順方向電圧から逆方向電圧に切り換えたときのリカバリ損失がpn接合ダイオードは大きい.このため,600V以上の耐圧品ではSiC SBDがSiダイオードを置き換える可能性が出てくる(写真4).また,SiCダイオードは200℃の高温環境下でも安定に動作する.Si pn接合ダイオードは150~175℃が限界で,さらに温度が上がるとpn接合のリーク電流が増加し,ダイオードとして機能しなくなってしまう.

 

写真4 SiCショットキ・バリア・ダイオード(SBD)の概要


 SiCのDMOSFETにはオン抵抗が低いことと,オン抵抗の温度依存性がほとんどない,という特徴がある(写真5).半導体デバイスはチップ(ダイ)の面積を大きく取るとオン抵抗が下がるので,単位面積当たりのオン抵抗で性能を比較する.この単位面積当たりのオン抵抗について,SiC DMOSFETはSi MOSFETの約7分の1と低い(室温環境下).さらに,温度が上がるとSi MOSFETはオン抵抗が上昇するのに対し,SiCのDMOSFETはオン抵抗がほぼ一定のままである.例えば150℃の温度だと,単位面積当たりのオン抵抗はSi MOSFETの約20分の1に下がるという.

 

写真5 SiC DMOSFETの概要


●DRAMの次期バージョンを紹介

 次に紹介するのは,DRAMの製品動向を解説した講演である.講演者はマイクロン・ジャパンの朝倉 善智氏.マイクロン・ジャパンはDRAMの大手ベンダMicron Technology社の日本法人である.

 現在,半導体メモリ市場には多種多様なDRAM製品が存在する.講演では多様な製品群を四つに分けていた(写真6).標準的なDRAMであり,パソコンやサーバなどの主記憶に使われている「DDR Series」,スマートフォンに代表される携帯電話機の主記憶に使われている「Mobile LPDRAM」,特殊な用途に向けた「Special Purpose」,グラフィックスそのほかの用途に適した「Other DRAM」である.

 

写真6 DRAMの種類

 

 「DDR Series」については,データ転送速度が最大2133Mbps(ビット/秒)の「DDR3」タイプが市販されている.次期バージョンの「DDR4」タイプは,2012年に出荷が始まる見通しである(写真7).DDR4タイプのデータ転送速度は最大で3.2Gbpsに達する.電源電圧は1.2Vであり,DDR3タイプの1.5V,あるいは1.35V(DDR3Lタイプ)からさらに下がる.記憶容量は4Gビットである.DRAMモジュールの容量は,サーバ向けで最大128Gバイト(1Tビット)という膨大な容量を狙う.

 

写真7 パソコン/サーバ用次期DRAM「DDR4」の概要

 

 「Special Purpose」では,ネットワーク向けの低遅延(低レイテンシ)DRAM「RLDRAM」の次期バージョンである「RLDRAM3」を紹介していた(写真8).RLDRAM3は書き込みのレイテンシが10ns,読み出しのレイテンシが2.5nsと短い.記憶容量は576Mビットあるいは1.1Gビットである.

 

写真8 ネットワーク用次期DRAM「RLDRAM3」の概要

 

 また低消費電力DRAM「Mobile LPDRAM」は携帯電話機向けにパッケージ・オン・パッケージ(PoP)といった特殊なパッケージングで供給されていることから,一般のDRAMユーザには扱いにくいものになっている.そこで標準的なパッケージでDDR3タイプやDDR4タイプよりも消費電流の低い「M-Class」を開発中であることを明らかにした(写真9).超薄型ノート・パソコンやメディア・タブレットなどに適したDRAMだという.

 

写真9 超薄型ノート・パソコンやメディア・タブレットなどに向けた低消費電流DRAM「M-Class」の概要

 

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