ソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の実践的導入事例(1) ―― 管理者は「石の上にも3世代目」

岩崎 孝司

tag: 組み込み

技術解説 2011年9月16日

●一度は停滞した導入が成功事例で勢いづく

 当社におけるソフトウェア・プロダクト・ラインの導入は,以下の三つの時期に分けられます(図2).

  • 導入初期(2007年度下期)
  • 導入トライアル時期(2008年度~2009年度上期)
  • 導入拡大期~現在(2010年度以降)

 

図2 富士通QNETでのソフトウェア・プロダクト・ライン導入活動

 

 

 以下に,それぞれの時期に分けて状況を説明します.


●導入初期:事例調査と技術習得

 まず,全社組織であるKM委員会からトップダウンで専任チームを発足させました.専任チームは2,3名の専任者により構成され,その費用は社の研究投資として賄うことにしました.専任チームは,Carnegie Mellon大学のソフトウェア・プロダクト・ラインへの要求事項の調査やCMMIの要求事項との比較,他社のソフトウェア・プロダクト・ライン導入事例の調査を行いました.

 また専任チームは,産学連携や地域コミュニティの情報から,九州大学がソフトウェア・プロダクト・ラインを専門に研究していることを知りました.そこで,九州大学を始めとする大学や地域のコミュニティ主催教育やセミナに専任チーム・メンバや社内の技術者が参加して,ソフトウェア・プロダクト・ラインの技術を修得しました.


●導入トライアル時期:フィーチャ分析でめどはついたが効果は見えず

 2008年からパイロット・プロジェクトを立ち上げ,実際にプロダクト・ライン開発手法のトライアル(試行)を開始しました.まずは,当社の代表的なアプリケーション開発を例に,プロダクト・ライン開発手法の代表的な分析方法であるフィーチャ分析を実施したところ,この方法が有効に使えそうであることを確認できました.

 引き続き,トライアルの対象をファームウェアやハードウェア系,システム・ファームウェア,ドライバ・ファームウェア,FPGA,プリント基板などの各種開発タイプに広げていきましたが,トライアルが進むにつれ,開発タイプによる特徴や,チーム構成によってプロダクト・ライン導入の効果に大きな差があることが分かってきました.以下にトライアルにより得られた知見の一部を示します.

  • WEBシステムを含むアプリケーション開発などの抽象度が高いシステムでは,フィーチャの抽出は容易だった.
  • システム・ソフトウェアやファームウェア開発においては,単に機能の抽出に留まらず,設計資産の実装へのひも付けを考慮することが重要だった.
  • 少人数で実施している一部のプロジェクトにおいては,既にソフトウェア・プロダクト・ライン適用以前に,十分再利用を考慮したアーキテクチャを持っているケースもあり,定性的な評価に留まった(大きな導入効果は見られなかった).

 トライアルの結果,すべてのプロジェクトや開発タイプにソフトウェア・プロダクト・ラインの適用効果が見られるわけではありませんでしたが,導入のめどをつけることができました.これを受けて,フィーチャ分析のやり方や,プロジェクトごとの開発プロセスとの関連性を明確にするため,プロダクト・ライン導入ガイドラインの整備にも着手し,開発タイプが異なる個々のプロジェクトの代表者から構成される導入ワーキング・グループを立ち上げました.ガイドラインには,この開発手法を導入するのに適切な規模についてや,フィーチャ分析の深度,フィーチャ個数の目安,プロダクト・ライン適用効果の測定方法などを記載しました.以下に特徴のある記載内容を述べます.

(1)プロダクト・ライン開発手法導入判断フロー

 プロダクト・ライン開発手法をプロジェクトが導入する前に,手法導入の目的を明確にして,効果予測を実施するための判断フローを記載しました.このフローによって,プロジェクトがプロダクト・ライン開発手法を導入する前に導入の目的やおおよその効果を見積もることができました.

(2)フィーチャ分析方法

 フィーチャ分析のやり方は,例題を通して頭では理解していても,いざ自分のプロジェクトを分析しようとするとうまく分析できないこともありました.これは分析をあまり深くやりすぎてもフィーチャが雑多になってしまい適切なフィーチャ分析にならないことや,抽象度が異なるフィーチャが雑多に記載されてしまい分かりやすさを損ねる分析結果になってしまうなどの原因によるものでした.ガイドラインでは,抽出するフィーチャの抽象度によって階層を定め,抽出するフィーチャの数についても目安を設定しました.

 このように2009年は,ソフトウェア・プロダクト・ラインの導入活動は着実に進展していたものの,まだ定量的な効果が見えるプロジェクトは顕在化しておらず,投資額のみがふくらんでいく状況でした.そのような中で,開発者のソフトウェア・プロダクト・ラインへの関心も薄れ,導入プロジェクト数の伸びが減少するなど,プロダクト・ラインの導入が停滞した時機でした.

 

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