原子力発電所の事故に見る安全確保とリスク対応の考え方

田辺 安雄

●原子力発電所の安全確保は「止める,冷やす,閉じ込める」

 原子力発電所の安全確保の原則は「止める,冷やす,閉じ込める」です.これは,原子炉に対する制御機能からの原則です.

 「止める」とは,緊急時に制御棒を挿入して運転を停止する,すなわち,核分裂反応を停止することです.今回の地震では,すべての制御棒が挿入され「止める」には成功しました.核分裂で生成した物質を核分裂生成物と呼びますが,これは種々の元素から成っており,これらの核分裂生成物は,放射線を出して時間とともに安定した物質になっていきます.

 原子炉では停止した後でも,核分裂生成物からの放射線が出続けています.これによる熱を崩壊熱といいますが,「冷やす」は,これを除熱することです.ほとんどの産業システムは,停止した場合には安全側になる設計となっていますが,原子力発電所を安全に停止するためには,制御棒が挿入された後も,冷却系統によって崩壊熱を冷やし続ける必要があります.

 原子力発電所の冷却系統を,図3に示します.原子炉の圧力境界(圧力容器に繋がる配管など)が損傷して,冷却水が喪失する事故を冷却水喪失事故(LOCA)と呼びます.このような場合には,高圧や低圧で作動する非常用の炉心冷却系(ECCS)によって,冷却水を注入して原子炉を冷却します.また,停止後の崩壊熱の除去には,崩壊熱除去系(RHR)が使用されますが,これらの複数の機能をもった冷却系を使用して冷却するためには,電源が必要であることはいうまでもありません.

図3 沸騰水型原子力発電所の冷却系(電気事業連合会のWebサイトより抜粋)


 燃料のペレットで生成された核分裂生成物のうち,揮発性の希ガスやヨウ素は,次第にペレットの外部に出てきて,被覆管との隙間やプレナムと呼ばれる空間部に貯められます.事故のときには被覆管が破れることがありますが,圧力容器,格納容器,原子炉建屋外壁の物理的な障壁によって,原子炉建屋内部に「閉じ込める」構造になっています.放射能を閉じ込めるペレット,被覆管,圧力容器,格納容器,原子炉建屋壁のことを5重の障壁と呼んでいます.

 以上述べたように,原子力発電所では,機能的にも構造的にも重複した防御機能によって安全を確保する設計が行われています.しかし,今回の大地震と大津波によって,これらの防御機能がほとんど失われてしまいました.今後,原子力発電所の安全対策についてはさまざまな検討が行われると思いますが,私たちは,現在の状況から何を考えていかなければならないでしょうか.

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