被災地内外の意識の差を認識しつつ,今できる支援を考える ―― 日本Androidの会 災害時支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第2回レポート

みわ よしこ

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レポート 2011年4月13日

●被災地近くからの声に

 原 亮氏は,仙台市の企業と行政による「みやぎモバイルビジネス研究会」を主催している(写真6).震災の前日に勉強会を行った会場は,震災で天井が崩落した.1日の違いで命拾いしたという.同氏らの調査によれば,仙台市内のICT企業の94%が既に正常稼動している.しかし今後は,地域によるニーズの多様化やフェーズの差が大きくなっていくだろう,という.企業からは「仕事がなくなった」という悲鳴も上がっている.例えば,大手電力会社を主要なクライアントとしていた広告代理店や関連IT企業では,電力会社がこれまでのような広報活動を行えなくなった結果として,会社も社員も仕事を失いつつあるそうだ.

写真6 みやぎモバイルビジネス研究会の原 亮氏

 

 原氏はまた,河北新報をはじめとするローカル・メディアの力についても述べた.かゆいところに手が届くような細かい取材を行い,地域の人々に求められる情報発信を行う地域密着型メディアの存在がどれだけ地元の人々の力になっているかは,東京にいて主に全国紙を購読している筆者には想像も及ばない.得ている情報も,その情報に対する実感の度合いも全く異なる以上,温度差が生まれるのも致し方ないことではある.仙台と沿岸部にも,また仙台の中にも,温度差がある.

 原氏は,
「みんなたくましいです,ウイークデイは会社で仕事をして,週末は沿岸部の実家で津波の片付けをしたりして」
と語った.ほとんどが東京近郊在住の参加者たちは,真剣な面持ちでうなずくしかなかった.

 被災した方々の情報を伝える情報提供プロジェクト「助けあいジャパン」の藤代 裕之氏は,被災者とボランティアをつなぐ立場から,非被災地のボランティア志願者と被害甚大だった宮城県等の沿岸部の被災者との温度差,今回の被災の深刻さについて語った(写真7).

写真7 助けあいジャパンの藤代 裕之氏

 

 2004年10月に発生した新潟県中越地震の際,藤代氏はブロガーとして報道にかかわっており,震災の1週間後には現地のボランティアによる情報整理サイトが始動しているのを見た.しかし今回は,現地に入った人や現地に住んでいる人による情報が非常に少ない.沿岸部の現地は,未だ情報発信を行うことも困難なほど深刻な状況にあるからである.藤代氏は,

「皆さん,こんなふうに集まってくださって被災地のために何かしてくださろうとしているのは嬉しいんですけど,東京にいて支援アプリを作ろうって,何か違うと思うんですよ」

と,現在も沿岸部に続いている深刻な状況の数々について語った.会場は重苦しい雰囲気に包まれた.

 藤代氏はまた,NPO・NGO関係者やボランティア・センタ関係者のもとに押し寄せる電話の「津波」について語った.「読み聞かせや音楽で被災地の方の心を癒してあげたい」といったボランティア志願者からの電話が多いため,支援業務に支障をきたしているという.このため,助けあいジャパンでは,ボランティア募集情報をWebサイトに掲載することにした.しかし今度は,この情報が「少ない」,「粗い」といった問い合わせが多数あり,活動が困難になっているという.

 問題といえば「計画停電」,「買い占め」,「水道水から基準値を超える放射性物質が検出された」あたりにとどまる東京近郊在住者たちは,絶句するしかなかった.しかし重苦しい雰囲気の中で,「何かできることはあるのではないか」という声が少しずつ上がった.ボランティアをしたい側とボランティアを求めている側のマッチングを推進して,問い合わせ電話の対策とすることに関しては,アプリ開発者たちの力でなんとか協力できそうである.

●ディジタルは万能か?

 今回の震災ではICTの強みが発揮された一方で,紙などのアナログ・メディアの強みもまた見直された.震災によって輪転機を失った「石巻日日新聞」が手書きのかわら版を発行して避難所に提供していた事例,福島県から他県に避難した人が「地元の状況を知りたい」という理由で福島県のローカルTV局の番組を見たいと望むも電波法に阻まれている事例,避難所でラジオを聞いている高齢者の認知症が進行してしまい,避難所からは高齢者にも問題なく扱えるラジカセと演歌などのコンテンツが望まれている事例,などを中心に,会場では活発な議論が行われた.

 いずれにしても,ICT活用にはインターネット環境の回復が必須であるが,大都市部を除き,未だインターネット接続が不可能な地域も多いという.このような地域にパソコンを配布することの是非や,配られたパソコンに関する課題,例えば,どのようにすれば地域の多くの人々に役立てることができるか,子どもがアダルト・サイトにアクセスするなどの問題が起こらないようにするにはどうすればよいか,必要とされているのは本当にパソコンなのか(高速コピー機や輪転機と紙のほうが求められているのではないか)などについて,盛んな議論が行われた.

●それでも,これからのために

 このミーティングが開催されていた部屋の隣では,2011年3月19日~21日にかけて開催された被災者支援のためのサービスを開発するためのオンライン・イベント「Hack for Japan」(開催概要はこちらを参照,事後報告はこちらを参照)のミーティングが行われており,日本Androidの会とHack for Japanの交流も予定されていた.真剣で重い議論を重ねていた会場に,ミーティングを終えたHack for Japanメンバたちが議論で興奮した面持ちで入ってきたところで,会場の雰囲気は一変した.

 Hack for Japanのメンバである及川 卓也氏は,面白おかしく真剣に開発(グループ・コーディング)を行うイベント「ハッカソン(Hackathon;HackとMarathonの造語)」について説明し,Hack for Japanにおける議論の結論について語った(写真8).被災地の報道に接していて「何かできることはないか」というエンジニアは多いのだが,需要と供給,被災地と被災地周辺と支援できる地域,データやツール,プロジェクト・メンバ,デザイナとエンジニア......といったマッチングが,あらゆる面で十分に行われていないため,協働に結びついていないのが現状である.及川氏は,マッチングを推し進め,3日間で終わるハッカソンだけではなく長期間続けられる仕組みづくりの重要性に気付いたという.

写真8 Hack for Japanの及川 卓也氏

 


及川氏は「支援はいつか終わる.そのときに,僕たちがやっていることを仕事として,東北地方の皆さんに引きとっていただければ」と話し,会場には大きな拍手が沸いた.

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