組み込みシステムにおける耐環境性能の実現 ―― 耐環境性と信頼性を兼ね備えたOpenVPX

日本エマソン(株)エンベデッドコンピューティング事業部 橋本 武

tag: 組み込み

2011年4月18日

 組み込み装置の中には使用環境が非常に過酷で,しかもその中においても高い信頼性が要求されるアプリケーションが存在します.たとえば航空宇宙/防衛関連製品や車載製品などがその代表になります.これらのアプリケーションでは高い信頼性を保ちつつ,限られたコストと開発期間で最新のテクノロジーを導入していかなければならないという課題に直面しています.ここでは,耐環境性/信頼性が要求されるアプリケーションと,それにまつわる規格について解説します.

●耐環境性/信頼性とコストのトレードオフ

 耐環境性と信頼性が要求されるアプリケーションでは,カスタム設計をおこなうのが一般的です.カスタム設計では高度な要求仕様に対して柔軟に最適なシステムを構築することができます.しかしながら,コストが割高になることと開発期間が長くなるという課題があります.これらの問題を解決するためにCOTS(Commercial Off The Shelf)の積極的な採用が進んできています. 

 COTS という用語は「棚に陳列してある商品」というところから,通常は既製品とか商用品,民生品,汎用品,標準品などと訳されます.一方,米国防総省が軍用品をカスタム開発する代わりに商用品を調達する場合にCOTS という用語を使ったことから,COTS という用語自体が防衛産業を指す場合もあります.

 COTS のコンセプトは最新のテクノロジーを取り入れたシステムを,低コストで短期間に構築しようというものです.ただし,COTSの採用に当たっては,製品やベンダーの信頼性,そしてメンテナンスなどについて慎重に検討する必要があります.特に長く使用するシステムの場合には単なる導入時のコスト比較だけではなくTCO(Total Cost of Ownership)にも留意する必要があります.それは導入費用が安くてもランニングコストが高かったり,メンテナンスにリソースが割かれてかえって割高になったりすることがあるからです.

●新しい世代の高信頼性プラットフォーム:OpenVPX

 

 これまで耐環境性や信頼性が要求されるアプリケーションではカスタム設計のほか,VME をベースにした製品が多く採用されてきました.VME 規格は25年以上前に開発され長い実績を持っています.しかしながら,最近のアプリケーションで求められるプロセッシング性能や大量で高速のデータ転送能力,そしてシステムの高集積化にともなう多数のI/Oサポートなど,これまでのVME では対応できない要求が増えてきています.

 そこで,最新のテクノロジーと実装技術を採用して開発されたのがVPX(VITA46)規格です(図1).VPXはVME規格を開発したVITA と呼ばれる標準化組織により開発さ
れました.

 VPX規格はボード・レベルの仕様について規定していますが,多くのオプションが存在しているためベンダ間の互換性を確保することが困難となっていました.このためVPX の採用を検討していた米国防総省の要請により互換性を改善するためのワーキング・グループが発足し,システムレベルの互換性を規定するOpenVPX(VITA65)が策定され,規格の整理がおこなわれました.


図1 VPX 規格のロードマップ

●耐環境製品の標準化:VPX-REDI

 過酷な環境に耐えられる製品にすることをラグダイズ(Ruggedize)と呼びます.その要求仕様は一般的には広い動作温度/湿度範囲,耐衝撃,耐振動,高度などですが,アプリケーションによっては防塵,防水,耐放射線などにまで及ぶ場合もあります.

 VPX システムでは耐環境性を高めるためのオプション規格として,VITA48: VPX-REDI(Ruggedized Enhanced Design Implementation)が策定されました.この規格では,最新技術を搭載した発熱の多いボードでも効率よく冷却するための液冷方式や,幅広いピッチの定義,特別な技術がなくてもフィールドで容易にメンテナンスできるようにするための,2レベル・メンテナンスなどの規格が盛り込まれています.

 一方,信頼性の向上については,信頼性の高い部品を使用することはもとより,最近はメモリの大容量化,半導体プロセスの微細化にともなって宇宙線などの放射線の影響も無視できなくなってきているので,メモリのエラーを検出,訂正するためのECC(Error Check and Correct)機能などは必須条件であるし,さまざまなレベルでの冗長化も検討しなければなりません.

●OpenVPX 製品とエコシステム

 エマソンでは昨年,OpenVPXの普及を推進するために米国マーキュリーコンピューターシステムズ社との協業をアナウンスし, 今年のEmbedded Worldにおいて,OpenVPX準拠のプロセッサボード「iVPX7220」(写真1)と「iVPX7223」(写真2)を発表しました.これは,エマソンの考えるエコシステムの一環です.ここでいうエコシステムと言うのは,いわゆる経済性を意味するエコのことではなく,生物の世界で使われる生態系のことで,さまざまな生物や環境がお互いに影響しあってバランスよく成り立っているという意味で使われています.産業界においては業界にかかわるさまざまな企業が協調的に活動して業界全体を発展させていこうという考えになります.
 

 エマソンでは,VITA やPICMG などのような標準化組織に積極的に参加し,多くのベンダと協調することによりユーザに最適なソリューションを提供していくことをめざしています.


写真1 OpenVPX準拠の6U タイプ「iVPX7220」



写真2 OpenVPX 準拠の3U タイプ「iVPX7223」

 

●日本における耐環性/ 信頼性の要求

 これまでのところ日本国内でのOpenVPXの採用事例は多くないようですが,すでに米国では国防総省関連をはじめとして採用実績が増えてきています.コストダウン,短納期の要求が強くなりCOTS 採用が増える傾向を見ると,これから日本でも採用が進んでいくものと予想されます.特に耐環境性と信頼性が要求される防災関連設備などでも,これらの技術の転用が可能かもしれません.
 

 そして,今後OpenVPXを採用したシステム開発にあたっては,規格や要求仕様を熟知した信頼できるベンダのコンサルティングがますます重要になってくるのではないでしょうか.

 


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