組み込み技術者のための資格試験,傾向と対策(6) ―― トロン技術者認定試験

久保 幸夫

tag: 組み込み

コラム 2011年3月25日

●過去問題にチャレンジしよう

 トロン技術者認定試験の過去問題は,トロン技術者認定試験のWebサイト内ですべて公開されています.ここではその中から,第10回(2010年9月4日実施)と第11回(2011年1月15日実施)の問題の中から2問を紹介します.

 T-Kernel(μITRON)のtk_dly_tsk(dly_tsk)の動作に関する以下の説明のうち,正しいものをすべて選べ.
※μITRONの場合は()内のサービスコールを呼び出すものとして解答せよ.

選択肢
1.tk_dly_tsk(dly_tsk)の呼び出しにより待ち状態になったタスクにおいて指定した時間が経過した場合,戻値としてE_TMOUTが返る.

2.tk_dly_tsk(dly_tsk)の呼び出しにより待ち状態になったタスクを対象としてtk_rsm_tsk(rsm_tsk)を呼び出した場合,タスクの待ち状態は解除される.

3.tk_dly_tsk(dly_tsk)の呼び出しにより待ち状態になったタスクを対象としてtk_wup_tsk(wup_tsk)を呼び出した場合,起床要求が1加算されるが,待ち状態は解除されない.

4.tk_dly_tsk(dly_tsk)の呼び出しにより待ち状態になったタスクを対象としてtk_rel_wai(rel_wai)を呼び出した場合,タスクは強制待ち状態に移行する.

正解はこちら

 

 T-Kernel(μITRON)において,あるタスクAの「優先順位」が別のタスクBの「優先順位」よりも高い状態となるのは,以下のどの場合か.正しいものをすべて選べ.

選択肢
1.タスクAの発行したシステム・コールによって,タスクBの優先度を変更し,タスクAの優先度よりも高くした場合

2.タスクA,タスクBとは別のタスクCの発行したシステム・コールによって,タスクBの優先度を変更し,タスクAの優先度よりも低くした場合

3.タスクA,タスクBとは別のタスクCの発行したシステム・コールによって,タスクBの優先度を変更し,タスクAの優先度と同じにした場合

4.タスクAの発行したシステム・コールによって,タスクAからタスクBにディスパッチされた場合

正解はこちら

 

 トロン技術者認定試験には,組み込みリアルタイム・システムの基礎知識を問う「第1区分」の問題と,ソフトウェア開発知識を中心に問う「第2区分」の問題があります.ここで紹介した問題は,どちらも第1区分の問題です.第1区分の問題は比較的シンプルに知識を問う問題として出題されますが,第2区分は,リアルタイムOSの活用やOSの中身(仕組み)を問う応用問題が出題され,難易度は第1区分に比べて上がります.また,第1区分は各問3点,第2区分は各問8点と1問当たりの配点も異なるので注意が必要です.

 出題されるのは,マークシートを使用して解答する選択問題ですが,ここで示した問題のように「正しいものをすべて選べ」という形で,出題されるものもあります.その場合,選択するのは,1個か,2個か,3個,それともすべてかもしれませんし,もしかしたら「該当無し」かもしれません.選択肢から一つを選ぶ問題形式に比べ,この形式は選択肢の一つ一つについて精査しなければならないので,難易度が上がります.また,この形式では,解答に自信がない問題について,消去法で正解を一つに絞り込むといった試験テクニックも使いにくいです.

●過去問や参考文献を読んで知識を十分につけよう

 この試験では,μITRONまたはT-Kernelの仕様について,かなり細かいところまで出題されます.試験の対策としては,参考文献を読むなどして,知識を十分につけることが必要です.公式Webサイトの受験対策のページには過去問題に加え,参考文献が記載されています.また,そこに記載されているリンクをたどると,無償でT-Kernel仕様書などのPDFをダウンロードすることができます.

 また,Interface誌 2011年4月号「学んで使って楽するリアルタイムOS入門」などにも,ITRONの実装の一種であるTOPPERS/ASPの解説記事があります.

 試験で高得点を狙うには,これらの参考文献や市販の参考書などを使用して,μTRONやT-Kernelに関する仕様をしっかりと理解しておく必要があります.知識としては,カーネルのタスク情報構造体(T_CTSKなど)やレディ・キューなどのOS内部に関することや,タスクの状態とプリエンプトの発生による状態遷移などタスクの制御に関すること,タスク制御のシステム・コール,タスク間の同期や通信のシステム・コール(セマフォ,ミューテックス,イベント・フラグ,データ・キュー,メッセージ・バッファ)などの知識を,整理して理解しておきましょう.また,ミドルウェアや通信などの知識も身につけておく必要があります.

 また,試験の後半の問題(第2区分)ではTRONやT-Engineを使用したプログラムを読む問題も出題されるので,知識のインプットだけでなく,実際のコードを読む練習も必要です.

●試験本番,注意深く挑もう

 試験本番では,問題文を注意深く読むことが大切です.先の問題のように,「正しいものをすべて選べ」の形で,出題される場合もありますし,「誤っているものをすべて選べ」などの形で出題される場合もあります.先にも述べましたが,「すべて選べ」の形の問題は,一つ一つの選択肢について,細部まで記述内容を検討する必要があります.

 また,配点と解答時間にも注意しましょう.第2区分は5問ですが,配点も高く,問題の長さも2ページ以上にわたるので解答に時間がかかります.また,プログラムが示されるので,コードを読む時間が必要です.特に,最後の設問24,25あたりは,複数の設問に分かれて出題され,2~3ページにわたった長い問題が出題されますので,多めの時間配分が必要です.1カ所の問題で考え込んでしまうと試験時間がすぐに無くなってしまうので,90分を有効に使うために,25問全体で,配点に配慮しながらバランスの良い解答を心がける必要があります.

 次回は,OMG認定組込み技術者資格試験(OCRES)を紹介する予定です.


解答・解説のページ(その1)はこちら

解答・解説のページ(その2)はこちら

参考・引用*文献
(1)*T-Engineフォーラム;「トロン技術者認定試験要項」,2010年4月版,http://www.t-engine.org/exam/pdf/TEF000-W002-100405.pdf

(2)金田一 勉;『ITRONプログラミング入門(http://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/33/33351.html)』,CQ出版社,2005年1月.

(3)斉藤 直希;『組み込み向けリアルタイムOSの基礎知識 ―― プログラムの実行およびコンピュータ資源を管理するOSの種類や機能を整理する(http://www.kumikomi.net/archives/2008/12/32rtos.php?page=6)』,Tech Village技術解説記事,2008年12月.

くぼ・ゆきお

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