ロボット・コンテストの計測システムと基本モデル開発記 ――Green ET Challenge 2010の舞台裏

山下 直仁

tag: 組み込み

レポート 2010年12月17日

●少人数運営の切り札は周回ロガーの製作

 周回ロガーとは,常時赤外線を発射してその赤外線が遮られたときに,無線でパソコンへ知らせる装置である.当初の計画では周回ロガーを作るつもりはなかった.作業が進むにつれて,「周回カウントにミスがあると大変である」ということを思いつき,基本モデルの完成後に周回ロガーの製作に取り掛かった.

 後々,この周回ロガーがコンテストにおいて大きな役割を果たすことになるが,製作当時はそのようなことは思いもよらなかった.

 周回ロガーは,赤外線を出し続ける送信部,および障害物を検出してその結果をパソコンへ送信する受信部に分けて製作した.写真4に周回ロガーを示す.


写真4 周回ロガー(送信部:白,受信部:黒)
※ 写真をクリックすると拡大できます

 

 周回ロガーについても何度か実験を繰り返してようやく今の形になったのだが,構造そのものはシンプルなものだった.障害や対策についての説明は,ここでは割愛する.

 周回ロガーが完成して,コンテストの模擬試験を行ってみた.そのときになって初めて気づいたのだが,このシステムを使うと,ボタン一つで競技スタート,計測のリアルタイム表示,競技終了を行えるのである.これは,少人数の運営で競技を行う事を考えると,筆者にとって,とても重要な発見だった.「作っておいて良かった」としみじみ感じた.

●ほとんどゼロからのスタートだった

 本コラムを読まれている方の中には,筆者がハードウェアとソフトウェアの両方に精通していると勘違いされる方がいるかもしれない.確かに工学系の学校を卒業しているのは事実だが,すでに卒業から四半世紀ほど過ぎており,技術も進歩した現在,当時得た知識で今回のコンテストの準備に使えるものは,ほとんどなかった.

 今回,筆者がネットや本で独学した事柄を下記に列挙する.

今回独学した事柄:

    • ミニ四駆の挙動と仕組み(2010年1月にミニ四駆と出会う)
    • AVRマイコンの使い方,設計方法,プログラミング方法
    • ZigBee規格XBeeの使い方,設計方法
    • FETの仕組み,ブレーキの仕組み(写真5のように,何度も回路を書きなおした)
    • ノイズ対策
    • Java(CおよびC++は専門知識あり),Eclipseの使い方
    • 赤外線の仕組み,受光回路の仕組み
    • プリント基板パターン設計
    • プロモーション・ビデオ用および競技用として使用する曲の制作


写真5 筆者の設計ノート
※ 写真をクリックすると拡大できます

 

 上記の項目は,本コンテストのコア技術がほぼそろっているといってよい.ということは,逆に言うと何も知らない状態で筆者は計画し,実行したということである.今回コンテストの開催までこぎつけることができたのは,手前みそではあるが「必ず実行し成功させてみせる」という強い信念と,それが実現できる環境があったからにほかならない.

 現在は,勉強するにはとても良い時代だと感じる.分からないことはネットで素早く,しかも無料で知ることができるからである.そんな背景もあってコンテストを開催できたのではないかと思う.

●反省点は...

 このコンテストでは成果もあったものの,多数の反省があった.

成果と反省点:

    • リアルタイムに消費電力が見えるのは良かった
    • ロボット・コンテストの中で,スピード感がある大会は少ないので良かった
    • 参加者の出費を低く(1万円程度)抑えることができた
    • 少人数で運営できた
    • コースが大きく,色を塗る必要があるので手間がかかった.参加者が自前で用意するには敷居が高い
    • コンテストとして見栄えがよくない(走行体がかっこ悪い)
    • コースが決まっているので,面白みが少ない
    • 課題が多岐(ボディ,ハードウェア,ソフトウェア)にわたったので,参加者が限定された
    • ハードウェアのトラブルが多かった.完走率が低い
    • 技術の将来性がよく見えない
    • 認知度が低い.参加者が少ない

 

●次回にむけて福岡市と協議中

 Green ET Challengeは初年度の試行錯誤をへて,進化していく.上記の反省点を踏まえ,次回は次のことを福岡市と協議しながら検討中である.

検討項目:

    • 走行体を統一させる(ボディ系,ハードウェア系の改造を排除)
    • センサを使って自走させる(「曲がる」を入れる)
    • 参加者もコンテストと同じようなコースを容易に準備できるようにする
    • 車の悪い挙動を抑制する課題を与える
    • ドメイン特化言語(DSL:Domain Specific Language)の導入を視野に入れる
    • シミュレーションの導入を視野に入れる
    • 消費電力の測定は,再検討課題とする

 現在,ETロボコンというコンテストが,今年で9年目を迎えている.その目的は,モデルを使った設計(UMLなど)の教育とその実践である.

 Green ET Challengeでは,ETロボコンを卒業した方や,ライン・トレースに飽きた方に,より高度な組み込みソフトウェア設計を実践できる環境を整えていきたいと考えている.

 

やました・なおひと
NPO法人 九州組込みソフトウェアコンソーシアム(QUEST) 室長


 

 

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