拝啓 半導体エンジニアさま(17) ―― 淡々としているけれど,よく読むと怖いルネサス・エレクトロニクスのプレス発表

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2010年9月28日

 2010年9月14日,ルネサス・エレクトロニクスから「開発・生産体制の統合によりマイコン事業を強化」というプレス・リリースが発表されました.ルネサス「エレクトロニクス」という会社名の座りがとても良いせいか,これが今年(2010年)になってからの名称だとは気づかないくらいなじんでしまっています.しかし,もともとはルネサス「テクノロジ」とNEC「エレクトロニクス」であったことを思いだしてしまうとき(例えば,旧ルネサス「テクノロジ」の名前で出された技術文書などを見返すとき),多少の違和感が残ります.

●H8の名前が見あたらない

 会社を統合すれば,当然ながら「重複した部分」は整理して,会社全体としての効率化を図るというのが筋道でしょう.その点,双方に「充実した」マイコン製品群を持っていた2社の合併ということで,この先どうなるのかということについて,ユーザやパートナ各社の皆さんは気になっていたのではないかと思います.

 プレス・リリースが出たということで,なにか製品ラインにドラスティックな変化があったのではないかと思い,ビクビクされた方もいたのではないかと思います.なにせマイコンは,開発ツールやミドルウェア,評価ボード,開発受託など,パートナ企業の裾野が広く,メーカの方針が,自社が得意としているマイコン製品ラインの消長に大きく影響するからです.

 幸いというか,日本的というか,プレス・リリースには「この製品ラインは打ち止め」といった過激なことは一つも書いてありません.各製品ラインで使用する周辺機能を共通化して効率をアップする,開発ツールなども共通化する,一つのマイコン製品を旧2社の同等の能力をもつ工場で相互に製造できるようにする,といった,言ってみれば誰でも考えつく施策が並んでいます.そのためもあってか,このプレス・リリースはさほど大きく取り上げられなかったようで,見過ごしている人もいるのではないかと思います.

 でもよくよく読んでみると,ところどころに引っかかる個所があります.まず,「当社マイコンのCPUコア」として名前が挙がっている面々です.78K(NEC系),R8C(ルネサス系),RX(ルネサス系),SH(ルネサス系),V850(NEC系)です.なにか足りないものがある気がしませんか?

 例えば(ルネサス系というより)旧日立系のH8です.言い方は悪いですが,H8は「あちらこちらにはびこっている」と言いたくなるくらい親しまれているマイコンですが,その名前は書かれていません.旧三菱系のM32M16もそうです.多分,NECエレクトロニクスとの統合以前からこのあたりの一本化が進められていて,M16コアの流れを引くR8Cと,「ルネサス・テクノロジ」の名のもとに一から開発されたらしいRXの二つに統合する方向だったので,「ルネサス以前」の時代のCPU名にはお引取りいただいた,ということかもしれません.その一方で,「日立」の名を冠するSH(SuperHitachi)は健在です.

 憶測すると,旧ルネサス・テクノロジ内で旧三菱系と旧日立系の製品ラインを一本化するべくドロドロとした作業を行って統合を進めていたけれど,全部を統合できないでいるうちに,「コンペ(競合)」のはずだったNEC系が入ってきてしまい,一本化が「一本化」ではなく「振り出し」に戻ったような感じがします.その中で現時点で「残る」候補が,上記の面々なのでしょうか?

●積極的な「仕切り」は行わず,流れにまかせて「淘汰」を待つ?

 周辺回路,開発ツール,そして製造工場を共通化してしまうと,CPUコアそのものの差異は相対的に薄れていってしまうのでしょう.どちらを使っても大差ないということで,すでに「大枠」をはめられてしまったようにも見えます.表立っての一本化の決定は行わず,流れにまかせて「自然に」CPUコアの取捨選択を進めていくというつもりでしょうか.その際には,どちらか片方に一本化すると言うと問題が多いので,RXのように新しいものを作って古いものを吸収するという方針でしょうか.それとも,さすがにそんなことをこれ以上重ねて行えないので,どれかに絞るということになるのでしょうか.

 ルネサス製マイコンの周辺で「食ってきた」パートナ各社の動向ですが,プレス・リリースによると700社とも書かれています.全世界ということですが,そんなにあったのですね.「多すぎる」とはひと言も書かれておらず,特段「一本化」の意思は感じられません.しかし,今後は各種開発環境が一本化されていくので,旧NEC系とか旧日立系とかいった「すみ分け」はできなくなり,どこに頼んでもベースは同じになるのかもしれません.パートナ各社が特徴のある自社IP(Intellectual Property)でも持っていればよいのですが,そうでない会社の場合はなかなか競争が厳しくなるのではないかと想像されます.ここでも積極的な「仕切り」は行わず,流れにまかせて「淘汰」を待つという方針なのでしょうか.

 なんとも部外者には分かりづらいプレス・リリースだと思うのですが,こういう文書が公式に表に出るということは,今後のルネサス・エレクトロニクスのアクションはこれを踏まえたものになる,ということなのでしょう.プレス・リリースの抽象的な表現が具体的に「どうであるのか」は今後,明らかになるのでしょうが,淡々としているけれども,翻弄(ほんろう)される人が多数いそうな,怖いプレス・リリースでした.

 

ジョセフ・はんげつ

 

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