本書1冊でPCI Expressシステム開発初期のリスクを大幅に減らせる ―― 『PCI Express設計の基礎と応用』

浅田 朋範

 

 

『PCI Express設計の基礎と応用』
畑山 仁 著
CQ出版社
ISBN-10: 4789846415
ISBN-13: 978-4789846417
336ページ
2010年5月
2,625円(税込)
「CQ出版WebShop」で購入

 

 パソコンやサーバの拡張処理ボード用のインターフェースとして欠かせないPCI Expressは,設計経験が豊富な方なら「設計できて当たり前」といった感覚かもしれませんが,初めてPCI Expressの設計にチャレンジされる方にとっては難易度は高いと思います.評者もPCI Expressボードの通信用回路をFPGAに実装した経験がありますが,最初に設計に着手したときは右も左も分からず,とにかく参考になりそうな資料を片手にもがいていたことを覚えています.

 PCI-SIGの規格書を読んでもPCI ExpressボードやFPGAを設計できるわけではありません.よりどころとなるのは本書のような基礎と応用が記された書籍なのではないでしょうか.評者がPCI Expressの設計を行ったのは2007年ごろだったので,本書はまだ存在しませんでしたが,もし当時,本書のような書籍に出会えていれば,設計初期のリスクを大幅に減らせたのではないかと思います.

 本書には,PCI-SIGで規格化されているボード寸法やコネクタのピン・アサインが記載されているので,PCI-SIGの膨大な規格書の中を探さなくても,この書籍1冊で必要な情報が入手でき,とても便利です.PCI Express Gen1では1レーンあたり2.5Gbps,Gen2では5.0Gbpsというかなり高速なシリアル伝送能力を必要とするので,プリント基板のパターン設計におけるテクニックが必須です.高速伝送路そのもののケア,層構成,デバッグを想定したメソッドなど,PCI Expressの伝送路の品質は,プリント基板設計の出来に大きく左右されます.本書にはプリント基板設計のテクニックも記載されているので,プリント基板設計を始める前にひととおり目を通し,自分なりにチェックするべきポイントをピックアップして,そのチェック・リストに従って設計を進めるとよいかもしれません.

 サンプル・ボードとして,データ通信用のPHYチップやFPGAを実装した写真,説明図,レイアウト・データが記載されているのは,大いに参考になります.単に通信用のPHYチップやFPGAを実装するといっても,

  • 必要な電源の種類
  • 電源電圧
  • 電流値
  • バイパス・コンデンサの設置
  • ビーズ・インダクタの設置
  • 放熱処理
  • 層構成

など,悩むべき点は多数存在します.特に近年のFPGAはプロセス技術の微細化が加速しており,それに伴って,電源,クロック,ノイズ,熱設計の条件が年々厳しくなっています.2.5Gbpsなどの高速伝送路は,ノイズ,クロック・ジッタ,熱に影響されやすいため,せっかくプリント基板の出来が良くても,通信用チップをケアしてあげないと通信品質が悪くなるケースがあります.本書はFPGAが実装されたボードをモチーフに,リスクの高いポイントを挙げて解説しているので,プリント基板の設計テクニックと合わせて参考にすれば,設計に失敗することがほとんどなくなるのではないかと思います.

 欲を言わせてもらえば,イレギュラな条件での設計の進め方や,トラブル・シューティングのような情報源についての記載があれば,本書1冊で基本設計から実機評価までサポートできたと思います.新規のボード設計,FPGA設計において,何の問題もなく実機評価が成功した例を,評者はまだ見たことがありません.もっと言うと,意図した設計の通りに実機が動くことはまずあり得ないと思います.設計経験が豊かなエンジニアであれば,過去に自分自身が体験した苦労がナレッジとして蓄積されており,臨機応変に対応できると思いますが,初めてもしくは設計経験が浅いエンジニアがトラブルに遭遇したとき,熟練したエンジニアのようには立ち振る舞えないでしょう.このナレッジの差を埋めるのは容易ではありませんが,一つの解決方法として,本書の一部にナレッジ・データベースのようなセクションを作っておけば,答えは見つからずともトラブル解決のための有益なヒントは見つかるかもしれません.本の一部に書ききれないほどの情報量が必要かもしれませんが,PCI Express+FPGAというような設計条件が絞られているボードであれば,それほど多くの情報は必要としないと思います.

 また,PCI Expressボードに実装するPHYチップやFPGAによっては,カード・エッジからの電源供給では電流が足りず,別系統から電源を用意する場合もあります.本書で紹介されていたボードはFPGAを1個搭載していましたが,アプリケーションによっては2個や3個実装する場合もあります.このようなイレギュラな条件での設計テクニックが解説されていると,なお良かったと思います.

 本書1冊で,PCI Expressを設計するエンジニアのための“虎の巻”になり得ると思います.ただし,設計序盤のリスクの低減,設計品質の向上,各設計工程でのチェックはエンジニア自身の判断が必要です.本書の内容を頭に入れつつ,PCI Expessを設計する方々がどの引き出しを使うかで,ボードとFPGAの出来が決まります.初めてPCI Expressの設計にチャレンジされる方は本書を読解することで,はじめの一歩がかなり楽になるのではないでしょうか.既にPCI Expressの設計経験がある方も本書を参考にすることにより,品質の高いボードを設計することができると思います.

あさだ・とものり

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