アナログIC開発現場の息づかいが聞こえてくる労作 ―― 『CMOSアナログIC回路の実務設計』

小林春夫

tag: 半導体

書評 2010年6月10日

 

 

『CMOSアナログIC回路の実務設計』
著者:吉田 晴彦
出版社:CQ出版
JANコード:JAN9784789830225
B5判,288ページ
発売日:2010年2月15日
価格:3,780円(税込)
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 CMOSアナログIC回路設計に関する良書はたくさん出版されているが,「実務設計」について本格的に記述したものは, 評者が知る限り本書が初めてであろう.本書を手に取り,「回路の知識があり,EDAを使いこなすだけでは,実務はできない」という半導体産業の黎明期から発展期を支えてきたベテラン技術者の言葉を思い出した.

 本書は,従来,仕事を通じて先輩技術者から学んでいた部分の知識を書物として記述したものである.大変な労作であり,各記述では現場の技術者の息づかいが聞こえてくるような生きた題材が用いられている.

 本書には,開発フロー,仕様書・スケジュール表作成,回路・レイアウト設計,トリミング,過電流保護回路,ESD(Electrostatic Discharge),ラッチアップなどの信頼性技術や評価技術が詳しく記述されている.タイトルにあるとおり,「実務設計」が分かりやすく解説されている,ほかに類を見ないテキストである.回路設計の題材としては,最も基本的かつ重要であるOPアンプと,それを用いた少し回路規模の大きいPWM(Pulse Width Modulation)制御回路が取り上げられており,実際のICの開発の仕方がていねいに説明されている.

 半導体回路設計者は,必ずしも半導体の製造プロセスを理解しているとは言い難いが,本書ではカラーの写真を交えながら,分かりやすく解説されている.また本書は,「研究,学会・論文発表のための設計」ではなく「製品のための設計」とはどのようなものなのかも教えてくれている.ディスクリート部品を用いる回路設計の技術者からは集積回路設計を学ぶのはハードルが高いとの声を聞くが,本書はそれにも応えている.

 このほか,これまでのアナログ集積回路設計のテキストの紹介やアナログ技術者の重要性,インターンシップなどにおける産学連携の重要性まで言及している.

 評者が思うに,本書は以下のところを強化すると,さらによいものになるだろう.

  1. 比較的安定したプロセスで微細CMOSに頼らない純粋なアナログ回路を題材として扱っている.産業界には,このようなアナログ回路設計以外に,ディジタル・アナログ混在型のLSIやRF CMOSなどの先端プロセスを用いるアナログ回路設計も多い.本書で扱っている題材について,全体の中での位置づけも欲しい.
     
  2. SPICEモデルについては,ホームページを紹介するだけでなくアナログ技術者として知っておかなければならない事項に関する詳しい説明が欲しい.
     
  3. シミュレーション・データだけでなく測定データも欲しい.
     
  4. 他社製品とどのような点で差異化するべきか,設計者の腕の見せ所となる箇所の説明も欲しい.
     
  5. パッケージの種類やその選択,また実装,評価基板設計・作成の際の注意点も欲しい.
     
  6. 回路設計の立場からデバイスへの要求や,使用しているCMOSプロセスの記述,内部プロセスを使用する場合と外部ファウンドリを使用する場合の注意点といった回路設計者とデバイス技術者の連携,また回路設計者とICを用いて最終製品を設計するシステム設計者との連携に関する記述を強化すると,さらによい内容になると思う.
     
  7. アナログ回路分野の将来への展望についての著者の考えも知りたいところである.

 いずれにせよ,本書はこれまでにない,「実務設計」について本格的に記述した非常に優れたテキストである.半導体・エレクトロニクス・メーカの若手や新人技術者の研修用にも,技術者がこれから集積回路設計を学ぼうとする際にも,そして回路分野専攻の大学院生が実務設計を学ぶ際にも最適なテキストになると思う.

 

こばやし・はるお
群馬大学大学院

組み込みキャッチアップ

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