拝啓 半導体エンジニアさま(10) ―― 新技術を身に付けるための勉強がおっくうになったときに頼れるものは...

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2010年3月 2日

 前回は,「自然現象を見通す吟味の目」みたいなことを書いたのですが,後になって自分がどこまで出来ているかな,とかなり反省してしまいました.工学分野はどの分野でも日進月歩で進歩しているので,よく言われるとおり,常に勉強し続けていないといけません.最低でも年に一つや二つは,自分にとっての新技術を身に付けないと,「エンジニアでござい」などと言っていられません.

●「新しいことを基礎から学ぶ」ことに抵抗がある

 胸に手をあてて反省すれば,ズキッと気になることがあるのです.年をとると,なかなか新しいことを基礎から学ぶ,ということに対するに抵抗が大きいです.記憶力も落ちているし,元から弱かった計算力など皆無に近い.忘れることは簡単になっているのに,記憶することはとても辛くなっています.ましてや実際に計算するなど勘弁してもらいたい,という感じです.
 大多数の方に賛成していただけると思うのですが,工学分野はどの分野でも,実際に計算を,それも繰り返しやってみないと,なかなか「分かった」というレベルの理解に到達できません.ここで「計算」といっても理論式を導きだすような計算だけではなく,シミュレーション的なもの,あるいは設計パラメータなどを決めるための演習など,いろいろあるかと思います.
 確かにちらちらと数式を見ただけで本質を理解し,それを即座に自分の設計に応用できるようなすごい人もたまにいることは事実です.でも実体験から,そんな人はまれと確信しています.自分も含め,普通,平凡なエンジニアにとっては,繰り返し繰り返し何度も問題や課題にあたってみて,ようやく理解できるというものではないでしょうか.そのあたりの手数が分かっているだけに,ちょっと立ちすくんでしまうところがあるのですね.
 救いは,このごろはいろいろなソフトウェアなどが簡単に手に入るので,馬力のいる計算部分を機械にまかせてしまえることでしょう.自分で全部できればよいのですが,それが無理なら,せめてモデルを考えるなり,式をたてるところの一部なりを自分の頭で考えて,後の計算は機械でやってもいいんじゃないかと自分には言い聞かせています.技術の進歩が多少は能力の低下を補ってくれて,ありがたいことです.

●「手を動かして体験する」のもおっくう

 億劫(おっくう)といえば,さらに億劫になっているのが,「手を動かして」体験(実験)するという過程でしょうか.今ではよく分かっているつもりの自分の専門分野でも,昔のことを思い出します.
 学校を出たてのころは当然素人で,訳も分からず何かゴソゴソやっているうちに,実地に体験してきた事柄を通じて身に付いてきたような気がします.その過程でいろいろと痛い目に会い,中には先輩に怒られ,といったことがありましたが,そういうところこそ血肉になっているように思われます.どうも普通人にとっては,ただ学ぶだけでは十分ではなく,体験するということを通過しないと本当の理解,すなわち使えるレベルには到達できない,ということだと思います.
 でもそのあたりが,だんだんと辛くなってくるのです.準備をし,時間をかけて実行し,またその結果を処理する.新人のときにはそんなものだと思って繰り返しやっていたことでも,久しぶりにやろうとするとなかなか体が言うことをききません.だいたい,まず計画をたてて準備する,というところで,一方ではいろいろなめんどうが心に浮かび,他方ではそれ以外の懸案事項やら忙しいことやらを次々に思いつくのです.
 というわけで,ついつい意識的にか無意識的にか「そのあたり」を避けて通ろう,といった気持ちになることもしょっちゅうです.それをほって置くと,体験はたなざらしのまま行われず,うわべだけの理解になってしまいます.すると,いざ「やろう」ということになってもうまくいかず,それどころかあまり自信が持てないので最初から忌避してしまう,という行動パターンに陥ってしまうように思います.こんなことを繰り返していると,「動脈硬化」ならぬ,新分野,異分野を受け入れることのできない「脳梗塞」状態に陥ります.

●スイッチを入れるのはエンジニアのメンタリティ

 救いはエンジニアとしての「メンタリティ」でしょうか.好奇心かもしれません.進んだ技術,チャレンジしがいのある問題,高い品質,よい仕事.人それぞれに心が動くきっかけは違うと思いますが,エンジニアとしての心の動きに素直になれれば,「ここはちょっとやってやろう」という気持ちにスイッチを入れるのは,そう難しくないはずです.最初のしきい値を乗り越えるちょとしたきっかけがあれば十分ではないかと思います.もともと「好き」なことなのですから.
 いったん始めることができれば,多少頭が固くなり,記憶力や計算力は落ちているとしても,専門分野の理解を深めてきた分,大局的に「見通し」をたてる力は新人のころよりはるかに増しています.新しい分野に特有のものを新規に学ばねばならないにせよ,基礎としている考え方じたいには共通性があることにすぐに気づくものです.そういうところは,年の功なのではないでしょうか.「めんどう」,「おっくう」というところを踏み越えられれば,新たな地平か未開の大地が目の前に開けてくるかもしれません.

 

 

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