組み込みシステムを理解する ―― マイコンとソフトウェアを活用してディジタル機器を設計する理由

山際 伸一

4.組み込みシステムの開発環境

 組み込みシステムでは,マイクロプロセッサで動作するソフトウェアによって所望の機能を実現する必要があります.高機能なシステムを開発するためには,高度なソフトウェア開発を支援するための環境が必要になります.

● C言語による開発が主流

 図6に示すように,ソフトウェア開発においては抽象度の高い設計言語を使った方が開発効率が上がります.しかし,時間の制御や,使用メモリ量をはじめとするハードウェア資源の管理などが難しくなる問題があります.また,OSを採用するときにはハードウェア資源のみならず,マイクロプロセッサの処理性能も要求される場合があります.


 


図6 組み込みシステムの開発環境
パソコンなどのソフトウェア解発では,設計の抽象度が上がり,仕様記述から実行コードを生成する技術も実用化している.しかし抽象度の高い設計手法を用いると,多くのハードウェア資源を必要とするなど問題もある.組み込みシステムでは,ハードウェア資源の管理や時間の制御が可能なC言語やアセンブリ言語が広く使われている.

 

 組み込みシステムの多くは,目的に最適化した規模のハードウェアを使うことで,コストを下げることが求められます.このため,利用可能なハードウェア資源は,ソフトウェア開発における一つの制約になります.

 そこで,多くの組み込みシステムの開発では,ハードウェア資源の管理や時間の制御がしやすいC言語が使われています.さらに細かい制御が求められる場合には,アセンブリ言語を用いる場合もあります.組み込みシステム向けの開発ツールであれば,C言語による記述の中にアセンブリ言語による記述が可能です.

 従って,組み込みシステムのソフトウェア開発を始めるに当たって,まずはC言語による開発技術を身に付ける必要があるといえます.

 一方,Javaのような抽象度の高い言語を用いて開発されている組み込みシステムもあります.設計対象に最適な言語を使いこなせるようになる必要があることはいうまでもありません.

● プロセッサ技術の向上

 組み込みシステムが注目されるようになった要因の一つに,マイクロプロセッサ技術の向上があります.

 1964年に発売されたCDC6600というスーパコンピュータは50億円もしましたが,1MFLOPSという演算性能でした.今では50GFLOPS以上の性能を持つマイクロプロセッサが数万円で手に入ります.

 パソコンをはじめとする汎用のシステムでは,できるだけ高い性能を得る技術開発が行われ,マイクロプロセッサの処理性能はどんどん上がっていきました.このことは,組み込みシステムで使われるマイクロプロセッサの処理性能の向上にもつながりました.

 組み込みシステムでは,処理性能は必ずしも重視されていません.標準品として提供されているマイコンを見渡しても,性能はそれほど高くない製品が数多くあります(2).これらは機能の集積度が高かったり,コストや消費電力が抑えられているなどの特徴を持ちます.特に最近のマイコンでは,汎用品として提供されていながら特定の用途を想定した仕様になっている品種があります.

(1) コスト
 例えば家電製品のように,最終製品の価格が重要な組み込みシステムで使われるマイコンは,低コストでなければなりません.このため,できる限り無駄をそぎ落とした仕様になっています.

(2) 消費電力
 携帯機器のような組み込みシステムでは,電池でより長時間使えなければなりません.さらに,人体に近いところで使われる場合は,発熱を抑える必要があります.従って,マイコン自身の消費電力を抑える必要があります.

 半導体製造技術の向上により,マイコンの低消費電力化が進んでいます.

(3) 機能
 最近のほとんどのマイコンは,通信や汎用入出力,A-Dコンバータなどの周辺機能を1チップに集積しています.回路設計が容易になるだけでなく,部品点数の削減は低コスト化にもつながります.

 パソコンなどに搭載されているプロセッサは,ソフトウェアを実行する以外の機能はチップに搭載されていません.

(4) 安定供給
 組み込みシステムは,長期間に渡って使われることがよくあります.10年以上の保守が求められることも珍しくありません.このため,部品の入手性は重要です.保守期間中に部品が手に入らなくなると,システム全体を再設計しなければならなくなります.これは組み込みシステムの世界では受け入れられない状況といえます.同じ型番のマイコンが長い期間に渡って入手可能となるように,安定した供給が求められます.

 パソコン向けのプロセッサは,LSI製造技術の進歩とともに次々に新しい型番が現れ,古い型番は市場から消えていきます.

参考・引用*文献
(1) *経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課;2009年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書 -経営者及び事業責任者向け調査-,2009年7月.
(2) 宮崎 仁;最新マイコン規格表,ディジタル・デザイン・テクノロジ,No.3.
(3) 相田 泰志;マイコン応用機器を実際に見てみよう,ディジタル・デザイン・テクノロジ,No.3.


 

 

やまぎわ・しんいち
高知工科大学 情報学群 准教授
 

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