拝啓 半導体エンジニアさま(4) ―― エンジニア的「『情報』についての考察」

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2009年9月 7日

 すでに日本の製造業の空洞化が叫ばれて久しいですが,そのことを直接書こうというのではありません.また,今回のお話は,ちょっと変なところから始めさせていただかないといけません.なぜなら,いちおうIT(Information Technology)産業の隅っこで,「情報機器」などの開発業務に携わってきた「エンジニア」として,「『情報』についての考察」をしておかないと,自分自身がその「情報」に飲み込まれてしまいそうな気がしているためです.

 「情報は保存されることを望む」,「情報は増殖することを望む」などと書くと,いかにも擬人的に「情報」というものをとらえているようです.日々たまっていくデータの保存と利用に腐心しているIT従事者の中には,情報に押しつぶされそうになるたびに,そんなことを実感されている方もいらっしゃるかもしれません.しかし,比喩のレベルを超えて,「この考え方は正しいのではないか」と思ってしまいます.理論的に解明できるような問題なのか,「哲学」的命題なのかは分かりませんが….

● 良いネイチャを持った「情報」が複製され,増殖する

 生物のDNAやRNAを考えれば,40億年くらいの間「情報」はそれらの上で複製され,伝播し続けてきていることになります.今度は,その生物の中に「神経や脳」といった情報の「入れ物」ができ,さらに,人にいたっては文字や言語というものが現れて,より速やかに,「情報」が脳と脳の間を伝播し,複製されて増殖するようになりました.そして電子デバイスの発達で,「脳」同士が音声や文字で「情報」の複製を行うよりはるかに速い速度で「情報」をやりとりするようになり,今日では脳の介在なしに,機械の間で「情報」が増殖することもあるのはご承知のとおりです.

 人間は,自分の利便のために「情報」を「使っている」のですが,「情報」というものの側から見たら,人間は,DNAや脳による「情報」媒体であり,電子デバイスと脳とのインターフェースであり,かつDNAと電子デバイスのインターフェースを作る過程の「処理ノード」というとらえ方もできるかも知れません.

 ちょっとSF的になりすぎたかもしれませんが,GA(Genetic Algorithm;遺伝的アルゴリズム)などのソフトウェア・アルゴリズムを見ていると,生き残って増殖する「情報」は「良い性質をもっている情報」なのだという思いを強く感じます.

 ここで「良い」というのは,単に「保存」と「増殖」に都合が良いということだけで,なにか「特別の価値がある」とか,「役に立つ」,あるいは「命題として真である」ということとは違います.

 昔で言えばうわさ話のような「取るに足らない情報」が,今のネットワークでは急速に広まっていくのも,価値とか真偽に無関係に,増殖する「良い情報」のネイチャを持っているからなのかもしれません.

 さて,だらだらと書いてきましたが,ようやく本題です.「情報」のネイチャ自体は普遍的なもので,当然,製造業の内部においても成り立つようです.必要に迫られて始まったものであれ,なんであれ,なんらかの「情報」が生成され流通を始めると,「媒体」が存在する限り,「情報」がなくなるということはありません.

 確かに「弱い」ものは淘汰されて消えますが,それ以上に増殖や変異が起こります.結果,対人「コミュニケーション」の重要度の増大とか「情報共有」の増大という,これまた普遍的な傾向が生じてくるのではないでしょうか.

 なにも「情報共有」に反対しようというのではありません.会社の競争力強化のためにと人間が考えている「コミュニケーション」の強化とか「情報共有」とかは,「情報」の側から見ても,複製され増殖するのにまたとない場であるわけです.

● 「ブツと向き合って問題を解決する」人が減っている

 言いたいのはその後なのですね.人間の「脳」というリソースは有限なものだと思うので,そのような「情報」の複製と流通,つまりは人間同士の「やりとり」に重きを置いていった結果,物理現象であったり,数理現象であったり,人間関係以外の問題,「物」と向き合うという行動がだんだん失われているのではないか,と思うのです.

 エンジニアの本義は,「ブツと向き合って問題を解決する」のではないかと考えるのですが,どうもその部分の比重が低下しているような気がするのです.

 ちなみに,情報系では,「ブツ=数理的な事象や論理」と置き換えていただいても構いません.周りを見回しても,昔に比べると「とっつきにくいけれど,さわればたちどころに問題の分かるエンジニアのおじさん」とか,「もくもくと回路を設計してウン十年」みたいな人は減っているのではないですか?

 そういう人たちは,「物理現象には精通」していても,えてして「情報」の複製と増殖の面から見ると,あまり良い伝達特性を持っていないことが多いので,結果としては疎外されていくような気がします.

● エンジニアリングの現場にも影響が…

 エンジニアリングの部署であっても,「卓越した事務処理能力」とか,「会議の落としどころを見抜いてまとめる力」とか,「情報」の増殖に貢献できる能力の方が,幅を利かせやすく昇進にも有利だそうです.後から入った若いエンジニアの面々も,すぐにそういうことは理解します.結果,「物理現象」に向き合っているよりは,手っ取り早く評価されやすい方向に走り,その傾向はますます強化されることになります.まさに,「情報」の思うつぼかもしれません.そんなことが積み重なって,自分ではブツと向き合うことのない「社内サービス業的な職務に従事しているエンジニアさま」が増殖し,結果,技術的には停滞どころか,退化しているような危惧を抱いています.

 こんなことを書いていること自体が,「情報」の増殖に機会を与えているわけですが….

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日