Web2.0時代の英知である集合知を理解して自分のビジネスに生かす ―― 『集合知イン・アクション』
Web2.0時代の英知である集合知を理解して自分のビジネスに生かす
『集合知イン・アクション』
著者 Satnam Alag
翻訳 堀内孝彦,真鍋加奈子,真鍋和久
出版社: ソフトバンククリエイティブ
ISBN-10: 4797352000
ISBN-13: 978-4797352009
512ページ
発売日: 2009年3月27日
価格: 3,800円(税抜き)
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口コミ.古くは「口避け女」とか,「トイレの花子さん」といった,「どこから出てきたのか分からないけど,ある日,爆発的に話が広がっていた」という現象です.都市伝説とも言われますね.例えば,1人が10人に話し,その10人がそれぞれ同じ話を別の10人にしたら.......試しに電卓で10の2乗を3回計算してみてください.それだけで1億人になります.
事の仕組みは簡単で,これだけのことなのです.情報の伝達速度は,ある点を境にして自然に爆発的に加速します.
現在,インターネットの普及によって,全ての情報が瞬時に伝わるようになりました.マイナスの面もあります.情報が多すぎて,整理・選択しきれないのです.
そこで注目れているのが集合知(CI:Collective Intelligence)という概念です.多くの人が何かに興味を示して注目したとします.それが情報伝達の爆発を起こし,世界中に広まります.すると,第三者的には,「多くの人の自由意思や興味が一つに固まった知性であるように見える」ということです.元々は「口コミ」などの社会学的な問題だったのですが,ネット時代になってから,この集合知を積極的にビジネスに応用できないか,という発想に至ったわけです.
最も有名な集合知の応用例は,Amazonの「おすすめ商品があります」とか,検索エンジンの「もしかして?」というレコメンデーション・エンジンでしょう.また,Google特有のPageRankによって,「みんなが見ている情報源」が数値として表され,検索結果としてより多くの人が見てくれるようになっているため,田舎の小さな企業が世界的に有名になってしまった例すらあります.
つまり,多くのユーザが示す興味の方向性,参照回数の多さ,商品ならば評価の高さなどのパラメータを収集し,分類・学習させることで,ユーザにさらなる興味を喚起させるわけです.そうすると,現時点でホットな情報や有益な本を見つけやすくなります.そして,また情報が拡散し,爆発的に広まることになります.これは集合知を積極的にビジネスに応用して成功した例でしょう.
では,その集合知を実装するにはどうしたら良いのでしょうか? また,どのように自分のビジネスに結びつければ良いのでしょうか?
まず,元となる「情報」を集めなければなりません.これは「クローリング」と呼ばれる自動巡回によって収集します.そして,情報が得られたら,それを分類・分析しなければなりません.これにはデータ・マイニングという統計学や自動学習機能によって実現します.その上で,自分のビジネスに適合したレコメンデーション・エンジンを実装します.
とまあ,書いてしまえばこれだけのことですが,それぞれの要素だけを取り出しても,専門書が何冊も必要になる複雑な技術です.確かにAmazonやGoogleなどは,それぞれの知識に特出した専門家が集まり,知恵を出し合って開発したものでしょう.
しかし,この世の中,ゼロから生み出すことは難しくても,先人の知恵を利用すれば,結構,何とかなるという現実があることも確かです.
今回紹介する本は,集合知を実装するための「アンチョコ」だと言えるかもしれません.基本的に知っていなければならない知識,考え方のUML表現,そしてJavaによるコーディング例によって,レコメンデーション・エンジンを実装する方法を記しています.
ただ,「アンチョコ」だからといってナメてはいけません.それぞれの要素技術はやはり難しいので,予想以上に「手応えのある本」になっています.
ここから少し脱線するのですが,最近になって「集合知」とは,逆に「衆愚」にしかならないのではないかとか,ロング・テールを拾い上げるのではなく逆に画一化させているだけなのではないかとか,人工知能の学習的アプローチが本当に正しいのか,Wikipediaのように間違った知識を広める結果にしかならないのではないか,といった疑問が出ているのも確かです.例えば,「アンコ食べたい」と検索したら大変な「もしかして?」が出てしまった事件とか,特定ジャンルの本を2冊注文しただけで「おすすめ商品」が望んでもいない商品で埋め尽くされて役に立たないという事実もあります.
この本とは逆の意味を提唱した「ウェブはバカと暇人のもの」(中川淳一郎著,光文社新書)という本と一緒に読んでみると,さらに興味深く「集合知」について考察してみたくなります.
大野典宏
Project NR
norihiro.oono@gmail.com