暮らしに役立つQC七つ道具(2) ―― チェック・シート:事件は「現場」で起きている

国広 洋一

tag: 組み込み

技術解説 2009年4月28日

 チェック・シートは,汎用性や一般性を考えるよりも,目的にかなったものを作成するほうがうまくいきます.例えば,SEC(ソフトウェア・エンジニアリング・センター)が出している「組込みスキル標準(ETSS;Embedded Technology Skill Standards)」注2は,組み込み技術者のスキル・データを取得することに特化した「チェック・シート」の具体例です.

注2:組込みスキル標準(ETSS)のスキル診断で使用するチェック・シートは,スキルを技術要素,開発技術,管理要素の3種類に大別し,さらにそれを3階層に細分化したスキル項目に対して,熟練度で4段階に分けたスキル・レベルを交差させたマトリックス形式になっています.筆者はこのスキル診断をベータ版のときに受けたことがありますが,結構なボリュームがありました.なお,関係者から直接聞いた話ですが,このチェック・シートで取得したデータから,スキルとプロジェクトの成功率や生産性には有意な相関関係が認められたそうです.昔から言われているように,頭数だけではダメだということですね.(^^;

 ここで注意したいのが,「チェック・シートは,チェックすること自体が目的になりやすい」ということです.一度作ってしまった項目に対してチェックする意味がなくなっていてもチェックし続けているということを,よく見聞きします.チェック・シートを半年間使い続けて,改善する項目が全然出てこないのならば,チェック自体が目的になっていないかどうかを疑ってみましょう.

●お金が足りない「本当の原因」はどれ?

 さて,それでは例題の続きを考えてみましょう.

 

[例題]
Z(ツェット)くんは,困っています.
なぜか,いつも月末になるとお金が足りなくなってしまうのです.貯金もしたいのですが,今のままではとてもできません.特に無駄遣いをしているつもりもないのに,どうしてお金が足りなくなってしまうのか,分からないのです.

 

 前回は,お金が足りなくなる原因を考えてみましたね.原因としては,大きく三つに「分ける」ことができました.

  1. 収入が足りない
  2. 出費が多い
  3. 収入が足りなくて,出費が多い

 このうちのどれかであることは確かですが,いったいどれが本当の原因なのでしょうか?

 どれか一つに決めてしまって,対策を立てるというのも一つの手段です.けれども,原因だと思ったものが全然違っていれば,その対策は「的外れ」なものになります.対策を的外れなものにしないためには,実際にはどうなっているのかを,確認(Check)することが必要です.そこで,チェック・シートを出費の確認に使ってみましょう.

 期間としては,ある程度の期間(1カ月から1年くらい)を目安として,使った金額を記録してみます.どういう項目が必要でしょうか?

 まず,絶対に記入しなければならないのは「金額」ですね.それから,「いつ」使ったということも必要でしょう.今回は,年月日が分かればよいことにしましょう注3.そして,「何」に使ったかを記入する必要があります.今の段階では,これぐらいの項目があればよいでしょう.

注3:どこまで詳細にするかは,データを取る目的によって異なります.人によっては「この時間帯にこんなものを買ってしまいがち」という傾向が見えることもありますので,時間まで記録する場合もあるかもしれません.

 このように項目を考えるときには,思考を「層別」するための道具であるフレームワークを使うのが,よい考えです.フレームワークにもいろいろありますが,今回使ったものは,基本的な5W1H(Why,Who,What,When,Where,How)です.以下のように考えます.

  • Why(なぜ):実際の出費をつかむため
  • Who(誰が):自分
  • What(何を):買ったもの,使ったものやサービス
  • When(いつ):年月日
  • Where(どこで):今回は調べない
  • How much(いくら):金額

 金額の記入方法としては,科目を決めて書くやり方と,使ったものを具体的に書くやり方があります.今回は,科目としてどんなものが必要であるか分かっていないので,使ったものを具体的に書くようにしましょう.こんな感じになるでしょうか(図3).


[図3] 金額メモ

 Zくんがチェック・シートの記入を始めて1週間が過ぎました.

Z「ふーん,こうやって買ったものを記録してみると,思ったよりいろんなことに使っていたんだなぁ...」

*     *     *

 品質管理でよく使われる言葉に,三現主義(現場,現物,現実)というものがあります.この言葉が意味するのは,「問題を机上の計画で解決しようとすると,正しくない前提や誤解による誤りが起こりやすいので,実際の状況を把握することが重要である」ということです.今回の例でいうと,実際の出費を,発生した時点で,具体的な数値(金額)で記録すること,これが「現場,現物,現実」を押さえるということになります.

 次回は「パレート図」を取り上げます.お楽しみに.(^^)

くにひろ・よういち

◆筆者プロフィール◆

国広 洋一(くにひろ・よういち).東京多摩在住の組み込み系ツール企業勤務エンジニア.『基本から学ぶソフトウェアテスト』の勉強会に参加したことをきっかけに,社外の勉強会にときおり参加しています.TEF(Testing Engineer's Forum;ソフトウェアテスト技術者交流会)SQiP(Software Quality Profession,スキップと発音する)の勉強会に行くと会えるかも.TestLink日本語化部会のメンバでもあります.オープン・ソースのテスト管理ツールであるTestLinkをどうぞよろしく.

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