システム技術者のための測定ワンポイント・テクニック(3) ―― テスタによる簡易インピーダンス測定法
これらのことから,分布定数のインピーダンスは,静電容量を測定すれば,だいたいの値を推測できます.
同軸ケーブルは平面外部導体を丸めた物なので,この式はプリント基板にも当てはまります.ただし,誘電率が異なるため,単位長当たりの容量は同軸ケーブルと異なります.正確に計算するには,英国Polar Instruments社のプリント基板インピーダンス計算ソフトウェア「Si6000」を利用すると便利です.Webページに登録すると無料でダウンロードでき,マイクロストリップ線路と差動マイクロストリップ線路の二つを利用できます.すべての機能を利用するには製品版が必要で,90万円で購入できます.Webページを見たら,現在では「Si8000」をリクエストするようになっていましたが,本稿はSi6000で説明します.
図3のように,それぞれの空欄にプリント基板定数を入力してインピーダンスを計算します.単位系は「mm」を指定しておきます.このときインピーダンスを先に入力して,パターン幅Wの[Calculate]ボタンを押すと,インピーダンスからパターン幅を逆算してくれます.これがSi6000の秀逸な点です.計算が終了したら,下側の[More]ボタンを押します,すると,単位長当たりの遅延量とインダクタンス,静電容量が計算されます.FR4(ε=4.5)でインピーダンスが50Ωの時は121pF/mとなります.ちょうど40Ω同軸ケーブルと同じ静電容量となります.10cmのパターンなら,12pFとなるわけです.このようにしてプリント基板のインピーダンスが測定できます.
図3 Polar Instruments社のプリント基板インピーダンス計算ソフトウェアの操作画面
インピーダンスからパターン幅を逆算してくれる.
● 静電容量測定には,どんなテスタを使うのか
今回の測定手法を用いるには,どんなテスタでもよいというわけではありません.以下,テスタの選定条件を示します.
(1) 静電容量を測定できる機種
できれば1pF以上の分解能を持つ機種を選びます.同軸ケーブルは100pF/mなので1pFの分解能があれば,1cmの分解能が得られます.
(2)浮遊容量を演算で除去できる機種
筆者のテスタでも66pF程度の浮遊容量を持っています.これでは66cmの長さからしか測れません.米国Fluke社の180シリーズは浮遊容量を演算で除去できます.写真4に筆者のテスタの外観を示します.数年前に購入した「87-IV」型です.現行モデルの「87V」型は分解能が10pFしかないため使えません.シリーズ名は統一しておいてもらいたいと思います.
写真4 筆者所有の静電容量を測定できるテスタ87-IV(Fluke社)
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