アピール効果満点,倒立振子ロボットのデモに人の輪 ―― ET(Embedded Technology)2008(2)

組み込みネット編集部,北村 俊之

tag: 組み込み

レポート 2008年11月28日

 2008年11月19~21日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された「ET(Embedded Technology) 2008」では,研究開発向けのロボット用ユニットやソフトウェア品質向上に関連する技術なども展示された.

ET(Embedded Technology) 2008 レポート(1)はこちら

●ユニットを組み合わせてロボットを構成

 楽墨堂は同社が開発・販売するロボット用ユニット「楽ロボ Units」を展示した(写真1).各ユニット間はCANで接続される.本ユニットには,各ユニットに対する命令やデータ取得などを行い全体の動きをつかさどるPCユニット,楽ロボのPCユニット以外のパソコンを使用する際に必要となるCAN-USBゲートウェイ・ユニット,CANバスを通じてほかのユニットに基準電圧を供給するパワー・ユニット,サーボ・モータを搭載する走行ユニット,加速度センサやジャイロ・センサを搭載するAGユニット,距離センサ・ユニットなどがある.大学やメーカの研究所などにおける利用を見込む.

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[写真1] 楽ロボ Unitsの各ユニット

 会場では,これらのユニットの技術要素を取り入れて開発した「2輪型倒立振子ロボット」がお茶を運ぶデモンストレーションを行った(写真2)

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[写真2] 2輪型倒立振子ロボットがお茶を運ぶ様子

●機能安全対応ソフトウェアをデモンストレーション

 東海ソフトは,同社らが機能安全対応自動車制御用プラットホームとして開発している通信ソフトウェアを使ってロボットを制御するデモンストレーションを行った(写真3).任天堂のバランスWiiボードを入力装置として用い,重心の情報を無線経由で制御ボードが受け取った後,LIN通信で1体のロボットにデータを伝達する.2体のロボット間はCAN通信で接続されており,受け取った情報に応じてロボットが左右に体を傾ける.

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[写真3] 東海ソフトが行ったデモンストレーション

 なお,1体のロボットには転倒防止のためのセンサが装備されてあり,傾きすぎたときにもそのロボットだけは転倒しなかった.

 「機能安全対応自動車制御用プラットホームの開発」は,名古屋大学やヴィッツ,東海ソフト,サニー技研,産業技術総合研究所 システム検証研究センター,名古屋市工業研究所,北海道立工業試験場が共同で実施しているプロジェクトであり,経済産業省の平成18~20年度 戦略的基盤技術高度化支援事業(通称サポイン)の一つとして実施されている.本プロジェクトで開発されるソフトウェアは,機能安全規格で規定されている安全度水準(SIL:Safety Integrity Level)の判定材料として使えるドキュメント類を備えているという.本プロジェクトの開発成果は,プロジェクト終了後にTOPPERSプロジェクトから公開される予定.

●SECが具体例を示した品質作り込みガイドを出版

 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA/SEC)は,組み込みソフトウェアの品質を可視化して制御するための手法「Embedded System Quality Reference(ESQR)」についての展示を行った(写真4).同手法は,まず対象システムやプロジェクトの特性を体系的に分析し,続いて品質評価指標を用いて品質目標値を設定し,実際のプロジェクトにおいて品質指標を計測しながら品質目標に近づけるように制御していくというものである.また,同手法を実践するための手引きとして,『組込みソフトウェア開発向け品質作り込みガイド』という書籍を出版した.

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[写真4] ESxR,ESQRの紹介パネル

 IPA/SECは,組み込みソフトウェア・エンジニアリングに関する活動として,ESQRのほか,ソフトウェアの実装品質の向上を目指した「Embedded System Coding Reference(ESCR)」,開発プロセスの最適化を目指した「Embedded System Process Reference(ESPR)」,効果的なプロジェクト管理を目指したEmbedded System Management Reference(ESMR)」の策定を進めている.これらを「ESxRシリーズ」と名付けて,普及セミナを随時開催している.なお,IPA/SECでは,実証実験に協力してくれる企業を募集しているという.

●イーソルがメモリ保護技術を紹介

 イーソルは,マルチコア・プロセッサを利用するシステム向けに開発したメモリ保護技術のデモンストレーションを行った(写真5).本技術は,同社のマルチコア・プロセッサ対応リアルタイムOS「eT-Kernel Multi-Core Edition」のオプション機能「eT-Kernel Multi-Core Edition Memory Partitioning」として提供されている.OS上で動作する個々のソフトウェアが利用するメモリ領域をパーティションとして分離し,ほかのパーティションからのメモリ破壊を防止する.また,CPUのカーネル・モード(特権モード)で動作するデバイス・ドライバやミドルウェアなどのカーネル・アプリケーションがカーネルのメモリ領域にアクセスしない(プロセスのメモリ領域にアクセスする)ように設定し,カーネルのメモリ領域が破壊される可能性を減らした.

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[写真5] 「eT-Kernel Multi-Core Edition Memory Partitioning」のデモンストレーション

●5.7インチ型タッチ・パネル液晶を搭載した開発キットでAndroidをデモ

 アットマークテクノは,パネル・コンピュータ開発用プラットホームとして「Armadillo-500 FX 液晶モデル開発セット」を展示した(写真6).本開発用プラットホームは,CPUモジュールとUSB,Ethernet,miniSDなどのインターフェース機能を搭載したメイン基板「Armadillo-500 FX」と5.7インチ型タッチ・パネル液晶,W-SIMやSD,Audioのインターフェースを備えたインターフェース・ボードなどで構成される.FXボードやインターフェース・ボードの回路図も併せて提供する.CPUとしては,400MHz動作のARM11コアを内蔵するFreescale Semiconductor社のiMX31を採用する.このほか,ベクタ浮動小数点コプロセッサ(VFP)や128Kバイトの2次キャッシュ・メモリ,MPEG-4エンコーダ,ビデオ出力,オーディオ・インターフェースも内蔵する.低消費電力で発熱が少ないため,放熱ファンは不要である.

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[写真6] アットマークテクノの「Armadillo-500 FX 液晶モデル開発セット」

デモンストレーションとしてオープン・ソースの携帯電話用ソフトウェア・プラットホーム「Android」を動作させていた.

●USB 3.0対応プロトコル・アナライザを展示

 東陽テクニカは,米国LeCroy社が開発したUSB 3.0対応プロトコル検査システム「Voyager M3」を展示した(写真7).本システムは,アナライザ機能とエキササイザ機能を備える.USB 2.0とUSB 3.0の両方のプロトコルをトレースしたり,トラフィックを生成したりできる.ホスト側とデバイス側,それぞれのエミュレーションが可能.

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[写真7] LeCroy社のプロトコル検査システム「Voyager M3」

●クアッドコアXeonを搭載した組み込みコンピュータ

 PFUは,クアッドコアXeonプロセッサを搭載した組み込みコンピュータ「AR8400 モデル310F」を展示した(写真8).本コンピュータは,DDR2メモリ(最大4Gバイト)を搭載している.RAID 1をサポートしており,ハード・ディスク・ドライブのホットスワップに対応している.各種スイッチ,コネクタ,ハード・ディスク・ドライブなどを装置前面に集め,保守を容易にした.また,ハードウェアを監視するソフトウェア「EmbedWare」を提供する.工作機械,医療機器,計測機器,半導体製造/試験装置など,高いシステム性能とインターフェースの高速性が求められる分野に適しているという.

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[写真8] PFUの「AR8400 モデル310F」

●IPベンダがインターネット・ラジオの日本での発売を検討

 IPコア・ベンダである英国Imagination Technologies社は,グラフィックス処理用IPコア「PowerVR SGXファミリ」を出荷している.例えばPowerVR SGX535は米国Intel社のAtomプロセッサ用チップセットである「SCH」に,PowerVR SGX530は米国Texas Instruments社の携帯電話向けアプリケーション・プロセッサ「OMAP3」に採用されている.今回,Imagination Technologies社は本展示会に合わせて,DirectX 10.1やOpenGL 2/3をサポートするパソコン向けの「SGX545」など,3品種のグラフィックス処理用IPコア製品を発表した(写真9).200MHz動作時のグラフィックス処理性能は700万~4000万ポリゴン/s,2.5億~10億ピクセル/s.65nmプロセスで製造した場合の面積は2.6mm2~12.5mm2である.

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[写真9] PowerVR SGXファミリのデモンストレーション

 また,同社はHD(1920ピクセル×1080ピクセル)やSD(720ピクセル×576ピクセル)の解像度に対応したビデオ・エンコーダIPコア「VXE280」,SD画像のみに対応したビデオ・エンコーダIPコア「VXE251」も発表した.H.264 BP,MPEG-4 SP,H.263,JPEGの各圧縮方式に対応する.さらに,同社は展示会場にて,欧州の地上デジタル放送であるDVB-T Nording,欧州の携帯機器向けデジタル放送であるDVB-H,T-DMB,日本のISDB-T 1セグ/13セグ放送に対応したディジタル放送用IPコア「Ensigma UCCP」のデモンストレーションを行った.

 同社はIPコア・ベンダだが,同時に欧州ではインターネット・ラジオ機器「EVOKE flow」のメーカとしても知られている.もともと同社がインターネット・ラジオ受信用IPコアを開発し,自社でリファレンス・デザインとして機器を作ったところ評判が良く,外販を始めたという.現在,日本での販売開始を検討しており,展示会場にてデモンストレーションを行った(写真10).対応するフォーマットはMP3,AC3,Dolby Digital,WMAなど.IEEE 802.11gによる無線通信機能を備えている.

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[写真10] Imagination Technologies社のインターネット・ラジオ受信用IPコアのデモンストレーション

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